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一日目
夜の訪問者⑤
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たった一夜の過ち……深夜ドラマではよく聞くワードだけど、恵那が普段の生活の中で聞けるような言葉ではない。
まさに大人の女性ならではの経験で、恵那は一層の関心を抱いてしまった。
「会社の上司と……そういうことに?」
「ええ……お兄さんに話しても困るだけですよね。何か、すいません」
「いえいえ、このカフェは、お客様の人生を振り返る場所でもあるんです。むしろ話してください」
さすがの藤沢でも、気まずそうな面持ちを作って踏み込んでいた。
それに気づいた茂木は、少し引け目を感じてしまったようだ。ばつが悪そうに謝っているところを見て、恵那は茂木のことを、気が使える大人の女性だと再認識した。
藤沢の悠然な返答に気持ちが軽くなったのか、茂木は軽快な口調で続きを話してくれる。
「初めは軽いノリでした。飲み会の後に二人きりになって……流れで」
「その相手は、すでに家庭があったのに?」
「はい。私も悪いとは思いました。それでも、尊敬していた上司でしたし……たった一夜なら良いだろうと思ってたんですが」
「その後も、関係は続くようになった?」
「……はい」
その時期のことを思い出して話している茂木は、良い思い出でもあるし後悔の念もあるし……という、複雑さを纏ったような表情をしていた。
カウンセラーのような聞き方をしている藤沢に、茂木はすっかり心を許して話しているみたいだった。
恵那も蚊帳の外にならないように、大袈裟に首を振って聞いてますアピールをしている。
「その上司と、不倫関係になってしまったのは理解しました。それで、人生が無駄だった……というのは?」
「ある時、言われたんです。奥さんとは別れるって」
「つまり……奥さんではなくて、茂木様を取ると」
「そういうことですね。その時、すごく嬉しくなって。こんなこと言うと奥さんに失礼ですけど、勝ち取ったって思ったんです」
「茂木様はその人に、確実な愛があったのですか?」
「もちろん、ちゃんと好きでした。ただ優越感に浸りたかったわけではありません。心から彼と一緒になりたかったんです。ですが……」
最初は一夜の過ちだった。それからどんどん月日を重ねて、いつしか本当に好きになってしまった。
その相手が妻子持ちだろうが、好きという感情を抑えることができなかった……。
ここまでを聞くと、茂木の思い通りに進んでいるみたいで、無駄な人生だなんて思う必要がないはずだけど。一体この後、何を聞かされるのか。
すっかり話にのめり込んでいる恵那は、自分の心臓の音が聞こえるくらいに、心拍数が上がっていた。
同じようなドキドキ感を抱えているであろう藤沢が、その先を急かすように聞く。
まさに大人の女性ならではの経験で、恵那は一層の関心を抱いてしまった。
「会社の上司と……そういうことに?」
「ええ……お兄さんに話しても困るだけですよね。何か、すいません」
「いえいえ、このカフェは、お客様の人生を振り返る場所でもあるんです。むしろ話してください」
さすがの藤沢でも、気まずそうな面持ちを作って踏み込んでいた。
それに気づいた茂木は、少し引け目を感じてしまったようだ。ばつが悪そうに謝っているところを見て、恵那は茂木のことを、気が使える大人の女性だと再認識した。
藤沢の悠然な返答に気持ちが軽くなったのか、茂木は軽快な口調で続きを話してくれる。
「初めは軽いノリでした。飲み会の後に二人きりになって……流れで」
「その相手は、すでに家庭があったのに?」
「はい。私も悪いとは思いました。それでも、尊敬していた上司でしたし……たった一夜なら良いだろうと思ってたんですが」
「その後も、関係は続くようになった?」
「……はい」
その時期のことを思い出して話している茂木は、良い思い出でもあるし後悔の念もあるし……という、複雑さを纏ったような表情をしていた。
カウンセラーのような聞き方をしている藤沢に、茂木はすっかり心を許して話しているみたいだった。
恵那も蚊帳の外にならないように、大袈裟に首を振って聞いてますアピールをしている。
「その上司と、不倫関係になってしまったのは理解しました。それで、人生が無駄だった……というのは?」
「ある時、言われたんです。奥さんとは別れるって」
「つまり……奥さんではなくて、茂木様を取ると」
「そういうことですね。その時、すごく嬉しくなって。こんなこと言うと奥さんに失礼ですけど、勝ち取ったって思ったんです」
「茂木様はその人に、確実な愛があったのですか?」
「もちろん、ちゃんと好きでした。ただ優越感に浸りたかったわけではありません。心から彼と一緒になりたかったんです。ですが……」
最初は一夜の過ちだった。それからどんどん月日を重ねて、いつしか本当に好きになってしまった。
その相手が妻子持ちだろうが、好きという感情を抑えることができなかった……。
ここまでを聞くと、茂木の思い通りに進んでいるみたいで、無駄な人生だなんて思う必要がないはずだけど。一体この後、何を聞かされるのか。
すっかり話にのめり込んでいる恵那は、自分の心臓の音が聞こえるくらいに、心拍数が上がっていた。
同じようなドキドキ感を抱えているであろう藤沢が、その先を急かすように聞く。
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