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一日目
夜の訪問者③
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無茶ぶりにも程がある……恵那は内心で藤沢のことを憎んだ。
でも、動き出してしまった足を、途中で止めるわけにはいかない。
逃げることなく、恵那は女性の前に立った。
あまりにも内向的な性格の恵那からしたら、初対面の人と話すのは抵抗がある。それが仕事だったとしても、恵那には到底無理な難題だ。
だけど、目の前にいる女性は、恵那と同じく人生の暗がりを彷徨っている人間。
この女性には、話しかけることができそう……。
恵那は、人生でほとんど持ったことがない自信を携えて、女性に向き合うことにした。
「あ、あの……本日はお越しいただいて、ありがとうございます」
「いえいえ。何だか、この場所が光って見えたので」
「そ、そうだったんですね……」
少しラリーをしたところで、恵那の口は止まってしまう。言葉のキャッチボールが、こんなにも難しいなんて。
無言の時間が続くのは、さすがに気まずいだろう。恵那は脂汗を掻きながら、話の種を必死に探していた。
「すいませんね。うちのスタッフ、話が下手で」
「藤沢さん!?」
真っ白になった頭の中で、何の話を振ろうか一生懸命に考えていた矢先、キッチンから藤沢が出てきた。
恵那の肩に手をポンと置いて、後ろに下がるように合図される。
話をしてこいと言ったのは藤沢の方なのに、こんなに早く打ち切られるなんて。
接客が向いていないと判断されたのだろう、恵那は一瞬にして、このお店にいる存在意義を失った。
「お待たせしました。こちら、フレッシュミントのハーブティーです。お熱いので、少し冷ましてからお楽しみください」
「うわぁー、綺麗な色。ありがとうございます」
恵那を後ろに下げたと同時に、藤沢はハーブティーの提供も行った。
恵那の話下手に見切りをつけたから藤沢が出てきたわけではなく、ハーブティーが淹れ終わったから、テーブルに来たのだ。
完全に凹んでいた恵那だったけど、使えないという烙印を押されたわけではないとわかり、少しだけ安堵感が生まれた。
女性の前に置かれたティーカップの中からは、透き通るようなレモンイエローのお茶が見える。三人共、そのハーブティーに目線が向いていた。
湯気をフーフーと吹きかける女性に対して、藤沢が改めて話を始める。
「そういえばお客様、お名前を聞いてませんでした」
「あ、そうですね。私、茂木 文香(もぎ ふみか)と申します」
でも、動き出してしまった足を、途中で止めるわけにはいかない。
逃げることなく、恵那は女性の前に立った。
あまりにも内向的な性格の恵那からしたら、初対面の人と話すのは抵抗がある。それが仕事だったとしても、恵那には到底無理な難題だ。
だけど、目の前にいる女性は、恵那と同じく人生の暗がりを彷徨っている人間。
この女性には、話しかけることができそう……。
恵那は、人生でほとんど持ったことがない自信を携えて、女性に向き合うことにした。
「あ、あの……本日はお越しいただいて、ありがとうございます」
「いえいえ。何だか、この場所が光って見えたので」
「そ、そうだったんですね……」
少しラリーをしたところで、恵那の口は止まってしまう。言葉のキャッチボールが、こんなにも難しいなんて。
無言の時間が続くのは、さすがに気まずいだろう。恵那は脂汗を掻きながら、話の種を必死に探していた。
「すいませんね。うちのスタッフ、話が下手で」
「藤沢さん!?」
真っ白になった頭の中で、何の話を振ろうか一生懸命に考えていた矢先、キッチンから藤沢が出てきた。
恵那の肩に手をポンと置いて、後ろに下がるように合図される。
話をしてこいと言ったのは藤沢の方なのに、こんなに早く打ち切られるなんて。
接客が向いていないと判断されたのだろう、恵那は一瞬にして、このお店にいる存在意義を失った。
「お待たせしました。こちら、フレッシュミントのハーブティーです。お熱いので、少し冷ましてからお楽しみください」
「うわぁー、綺麗な色。ありがとうございます」
恵那を後ろに下げたと同時に、藤沢はハーブティーの提供も行った。
恵那の話下手に見切りをつけたから藤沢が出てきたわけではなく、ハーブティーが淹れ終わったから、テーブルに来たのだ。
完全に凹んでいた恵那だったけど、使えないという烙印を押されたわけではないとわかり、少しだけ安堵感が生まれた。
女性の前に置かれたティーカップの中からは、透き通るようなレモンイエローのお茶が見える。三人共、そのハーブティーに目線が向いていた。
湯気をフーフーと吹きかける女性に対して、藤沢が改めて話を始める。
「そういえばお客様、お名前を聞いてませんでした」
「あ、そうですね。私、茂木 文香(もぎ ふみか)と申します」
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