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一日目
不思議な山小屋⑦
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「匂いを嗅ぐだけですか? 別にいいですけど」
さっきは寸前のところで止められたのに、今度は男の方から匂いを嗅いでほしいと頼まれた。
何があるのか気にはなったけど、香りを楽しめるのであればどうでもいい。いよいよ、恵那自身が興味津々だった、その香りに近づくことができるのだ。
男の厚意に感謝しながら、香りの発生源であるアロマディフューザーの前に顔を出して、蒸気が鼻の奥まで届くように丁寧に嗅いだ。
フローラルの香りが一気に鼻の奥を通過すると、脳内が安らぎで満たされるような気持ちになる。
全身の力が抜けてしまうほどのリラックス感に、恵那の死にたい願望は、一時的に忘れ去られていた。
「うーん、やっぱりおかしいな」
もはや眠ってしまうほどのリラックス感だったのに、男の困惑した声が恵那を現実世界に引き戻してしまった。
恵那は、何がおかしいのか気になって、ついディフューザーの前を離れてしまう。
一体、何がおかしいというのか。
「何がおかしいんですか?」
「いや、やっぱりお前、人間だったからさ」
「は? どういうことですか?」
「もしかしたら浮遊霊かと思ったけど、お前が来た時はまだ日が落ちていないしな。どういうことなんだ、これ」
「ちょっと待ってくださいよ! ちゃんと説明してください! 何のことか、サッパリわかりません……」
一方的に混乱している男に、恵那は段々と腹が立ってきた。
自分一人で悩んで、恵那には何が起きているのか教えてくれない。置いてけぼりになっているその空気に、恵那は思わず語気を荒げて質問をした。
恵那の強い圧力を前に、男は鼻頭を掻きながら困ったように言葉を返す。
「説明って言われても、まだお前の実態が掴めてないし」
「実態って……私はこれから死のうとしている人間です。それ以上でも以下でもありません」
「だから、それが不思議なんだって」
「不思議って何ですか!? 浮遊霊って何のことですか? 日が落ちてない時に来たらおかしいんですか? ハッキリ答えてください!」
「お、おい……そんなに詰め寄るなよ」
”コン、コン”
恵那の怒涛の質問攻めに、男は眉を八の字にさせている。
男が力ない声を発した瞬間に、建付けの悪い玄関の扉を、二回ノックする音がした。
その音にすぐさま反応した男は、恵那を無視して玄関に向かう。
「ちょ、ちょっと、まだ話は……」
「いいから! 今日のお客様がご来店だ」
「……は? お客様?」
さっきは寸前のところで止められたのに、今度は男の方から匂いを嗅いでほしいと頼まれた。
何があるのか気にはなったけど、香りを楽しめるのであればどうでもいい。いよいよ、恵那自身が興味津々だった、その香りに近づくことができるのだ。
男の厚意に感謝しながら、香りの発生源であるアロマディフューザーの前に顔を出して、蒸気が鼻の奥まで届くように丁寧に嗅いだ。
フローラルの香りが一気に鼻の奥を通過すると、脳内が安らぎで満たされるような気持ちになる。
全身の力が抜けてしまうほどのリラックス感に、恵那の死にたい願望は、一時的に忘れ去られていた。
「うーん、やっぱりおかしいな」
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一体、何がおかしいというのか。
「何がおかしいんですか?」
「いや、やっぱりお前、人間だったからさ」
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「ちょっと待ってくださいよ! ちゃんと説明してください! 何のことか、サッパリわかりません……」
一方的に混乱している男に、恵那は段々と腹が立ってきた。
自分一人で悩んで、恵那には何が起きているのか教えてくれない。置いてけぼりになっているその空気に、恵那は思わず語気を荒げて質問をした。
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「説明って言われても、まだお前の実態が掴めてないし」
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「お、おい……そんなに詰め寄るなよ」
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男が力ない声を発した瞬間に、建付けの悪い玄関の扉を、二回ノックする音がした。
その音にすぐさま反応した男は、恵那を無視して玄関に向かう。
「ちょ、ちょっと、まだ話は……」
「いいから! 今日のお客様がご来店だ」
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