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一日目

不思議な山小屋⑥

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 ラベンダーの……ハーブティー?
 透明なグラスから見える薄茶色っぽい液体が、ラベンダーのハーブティーだというのか。
 恵那は男の発言が全く真に受けられず、思考回路がショートしてしまった。
 ただぼんやりと、湯気が出ているハーブティーを眺めている。

「あ、お前信じてないな。この店はハーブティー専門のカフェなんだよ。それは正真正銘、ラベンダーのハーブティーだから、口にしてみな」

「本当に、ラベンダーからできてるの?」

「よく見てみろ、ほんのり紫がかった色をしてるだろ? 別に泥を溶かしたわけじゃないから安心しろよ」

 電球の光が当たらないようなポジションを見つけて、目を凝らして見てみると、確かに紫の色味も混じっていた。
 男に言われるがまま一口だけお茶を啜ってみると、若干の苦みと渋みが感じられるような、決して美味しいとはいえない大人の味がした。
 思っていたよりも強かった渋みに顔をしかめていると、男は笑いながらキッチンに戻っていった。

「なーんだ、まだまだ子供だな。待っとけ、今飲みやすくしてやるから」

「大丈夫です。このままでも飲めますから」

「強がるなって。ほら、ちょっとだけハチミツを加えるぞ」

 恵那の言葉を制して、別の調味料皿に盛ってきた、スプーン一杯分くらいのハチミツを投下する。
 そのままスプーンでゆっくりと混ぜ合わせていって、少しだけ色合いが変わったラベンダーのハーブティーが完成した。
 屈託のない男の笑顔に、恵那は背中を押されるように、また一口だけ啜る。

「あ、飲みやすくなった」

「だろ? ハチミツは美容効果もあるからな。育ち盛りの女子にもピッタリさ」

 さっきまでは上から目線でムカつくような態度だったのに、数分でこんなに優しくされるなんて。
 恵那は何か裏があるんじゃないかと、探るような目つきに変わっていた。

「そんなにじーっと見るなよ。んで、お前いくつなんだ? 随分若そうだけど」

「高校二年生……ですけど」

「高二!? まじかよ……」

「年齢はどうでもいいじゃないですか」

「あ、ああ。お前も……苦労したんだな……」

 男の冷たい口調も、時間と共に柔らかくなっている。
 男とのいがみ合いがなくなった感覚がした恵那は、その優しさが素直に身に染みてきた。
 ハーブティーのせいなのか、男の言葉によるものなのかはわからないけど、体の芯まで温まるようだった。

「……ちなみにだけど、そのアロマディフューザーの匂い、嗅いでみてくれないか?」
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