浮遊霊は山カフェに辿り着く ~アロマとハーブティーで成仏を~

成木沢 遥

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一日目

不思議な山小屋④

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 謝罪の言葉よりも先に、人間かどうか確認してくる男。
 恵那はその言葉の方をギロッと睨むと、まるでホストのような風貌をした背の高い男の、訝しげな表情が目に入った。
 こんな所に……人が住んでいる? そして、第一声が人間かどうかを確認する声? とてつもなく奇妙だ。
 恵那は一瞬で頭の中を整理してみたけど、何を話したらいいかはわからない。
 無言のまま見つめ合っていると、男が頭を搔きながら、空気を動かすような言葉を発した。

「お前……人間だよな? どうしてこの小屋が見えるんだ?」

「え、どうしてって……普通に存在してるじゃないですか」

「……ま、まあいいや。それで、何でこんな所にいるんだよ。まさか自殺志願者とか?」

「そ、そうですけど」

「またかよ。そういうバカ、最近多いんだよな。変なこと考えるのは止めて、日が落ちる前にとっとと帰りな」

 邪険にするように手を払う男に、恵那は再び睨みを利かした。
 どうして見ず知らずの男に、そんなことを言われなければいけないのか。
 普段は誰かに抵抗したり、怒りをぶつけることはしない恵那も、その言葉には突っかかりたくなった。

「何であなたみたいな変な人に、バカなんて言われなきゃいけないんですか」

「変な人だって? 俺はお前のことを想って忠告してやったんだろうが」

「忠告なんて不要です。私は何と言われようと、ここで自殺しますから」

「だから、バカなこと言うなって」

 少しずつ口論が激しくなっていく二人。
 男が強引に恵那の手を引いて外に出ようとした時、まるで電気が消えたかのような早さで暗転した。
 今までは雲一つない快晴だったはずなのに、いつの間にか分厚い雨雲が二人の頭上を覆っている。
 急に暗くなった灰色の空を、二人が同時に見上げたタイミングで、容赦ないゲリラ豪雨が襲ってきた。

「ちっ、もうそんな時間かよ」

「え、どうして急に!?」

「いいから、とりあえず中に入れ!」

「嫌ですよ! もうこの勢いで死んじゃいます!」

「バカ! 勢いなんかに頼んじゃねぇ! とにかく、今は言うこと聞けよ!」

 手首をがっちりと掴まれた恵那は、その力強さに抵抗することを諦めた。
 引っ張られるようにして室内に入ると、男は少し重そうな木製の扉を締めた。
 風がビュービューと吹く音と、雨粒がマシンガンのように屋根を襲う音を聞きながら、恵那は玄関で呆然と立ち尽くしていた。

「ったく、まさかこんなに早く日が落ちるなんてな。おい、こっちが茶の間だ。さっさと上がれ」
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