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一日目
不思議な山小屋③
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先に進むにつれ、道が泥濘んでくる。
さっきまでは比較的固めの土の上を歩いていたのに、この奇妙な抜け道は、泥状の地面に変わっていた。多くの人が歩いているからだろうか、足場は完全にぐじゃぐじゃだ。
しかも、まだ真新しいスニーカーの足跡もある。
自殺スポットへの抜け道は本当の話なんだと、その出来立ての足跡が物語っていた。
木々や葉っぱと格闘しながら進むこと数十分、ようやく光が差し込む出口が見えた。
この狭い道を抜けた先には、どんな世界が広がっているのか。最後は駆け足且つ強引気味に、光が導く先に出る。
最後の砦と言わんばかりに邪魔をしてくる重めの枝葉たちを躱して、一気に明るい世界に出ると、その先に待っていたのは、やはり断崖絶壁だった。
夢見た目的地に行き着くことができた達成感が恵那を包んでいるが、すぐに現実的な違和感が襲ってくる。
その場所は断崖絶壁となっているが、そこには十分なスペースがあって、サスペンスドラマで見るような険しさを感じない。
まさに観光スポットのような岬で、逆にここが知れ渡っていないのが、不思議なくらいだった。
何だか気抜けしてしまうようなロケーションに、僅かな違和感を恵那は感じてしまったのだ。
それだけだったら、恵那も気にせずに死ぬことができるのだろうが、もう一つだけ謎めいたことがある。
「こんな所に……山小屋?」
本日三度目の独り言。もはや恵那は、言葉を溜め込む必要がない。
思ったことを口にしたところで、何にも返ってこないのはわかっている。
だけど、どうしてもその驚きを口に出したかった。
それほど、この自然美溢れる奇妙な自殺スポットに、木造の山小屋が建っていることが、謎で仕方なかった。
死ぬことよりも、その山小屋の存在が気になった恵那は、恐る恐る中を確認しに行く。
灯台とか、石碑とかだったら、まだ地理の教科書で見たことがある。それだったら、この場所にあってもおかしくはない。
だけど、こんな立派な二階建ての山小屋があるなんて、恵那からしたら興味しかない。
一旦、恵那の中にある死にたい願望を閉じ込めて、その山小屋の謎に迫ることにした。
”コン、コン”
「す、すいませーん。誰かいますかー?」
一分間、中を確認しながらノックを続けても、誰も出てこない。
それでも恵那は、中に入ってみたいという好奇心が先行してくる。ドアノブに手をかけて扉を引こうとした時、シンクロするように、向こうからも押す力が加わった。
力が二倍になって開いた扉は、恵那の体を吹き飛ばした。
「い、いったぁ~」
「は? 人間?」
さっきまでは比較的固めの土の上を歩いていたのに、この奇妙な抜け道は、泥状の地面に変わっていた。多くの人が歩いているからだろうか、足場は完全にぐじゃぐじゃだ。
しかも、まだ真新しいスニーカーの足跡もある。
自殺スポットへの抜け道は本当の話なんだと、その出来立ての足跡が物語っていた。
木々や葉っぱと格闘しながら進むこと数十分、ようやく光が差し込む出口が見えた。
この狭い道を抜けた先には、どんな世界が広がっているのか。最後は駆け足且つ強引気味に、光が導く先に出る。
最後の砦と言わんばかりに邪魔をしてくる重めの枝葉たちを躱して、一気に明るい世界に出ると、その先に待っていたのは、やはり断崖絶壁だった。
夢見た目的地に行き着くことができた達成感が恵那を包んでいるが、すぐに現実的な違和感が襲ってくる。
その場所は断崖絶壁となっているが、そこには十分なスペースがあって、サスペンスドラマで見るような険しさを感じない。
まさに観光スポットのような岬で、逆にここが知れ渡っていないのが、不思議なくらいだった。
何だか気抜けしてしまうようなロケーションに、僅かな違和感を恵那は感じてしまったのだ。
それだけだったら、恵那も気にせずに死ぬことができるのだろうが、もう一つだけ謎めいたことがある。
「こんな所に……山小屋?」
本日三度目の独り言。もはや恵那は、言葉を溜め込む必要がない。
思ったことを口にしたところで、何にも返ってこないのはわかっている。
だけど、どうしてもその驚きを口に出したかった。
それほど、この自然美溢れる奇妙な自殺スポットに、木造の山小屋が建っていることが、謎で仕方なかった。
死ぬことよりも、その山小屋の存在が気になった恵那は、恐る恐る中を確認しに行く。
灯台とか、石碑とかだったら、まだ地理の教科書で見たことがある。それだったら、この場所にあってもおかしくはない。
だけど、こんな立派な二階建ての山小屋があるなんて、恵那からしたら興味しかない。
一旦、恵那の中にある死にたい願望を閉じ込めて、その山小屋の謎に迫ることにした。
”コン、コン”
「す、すいませーん。誰かいますかー?」
一分間、中を確認しながらノックを続けても、誰も出てこない。
それでも恵那は、中に入ってみたいという好奇心が先行してくる。ドアノブに手をかけて扉を引こうとした時、シンクロするように、向こうからも押す力が加わった。
力が二倍になって開いた扉は、恵那の体を吹き飛ばした。
「い、いったぁ~」
「は? 人間?」
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