上 下
5 / 97
一日目

街の噂④

しおりを挟む
 意表を突かれた指摘に、恵那の声が裏返った。動揺を隠せていない様子は、暗にその通りと白状しているようなものだ。
 リュウは恵那の顔色が変わったのを確認した後、「やっぱりか」と呟く。恵那は誤魔化すように顔を俯かせるけど、リュウとの会話から逃げることはできない。

「兄さんがいなくなって、もう一年になるか」

「……そう、だね」

「恵那、兄貴のこと慕ってたもんな。そりゃ、元気もなくなるか」

「ま、まあ」

「俺もさ、兄さんの話をするのはすごい怖いんだけど……でも、恵那のそんな顔見たくないっていうか。だってほら、もう一年間もそんな顔してるだろ?」

「……うん」

「恵那まで、どっかに行っちゃうような気がしてさ……だから、すごい心配で」

 まさに今日、恵那は遺書を書いたばかりだった。
 幼馴染の直感の鋭さに、声にならない驚きを感じる恵那。
 昔からの付き合いとはいえ、まさか今日という日に、恵那の死にたい願望に勘づくなんて。
 リュウの野性的なインスピレーションに、恵那は黙るしかない。

「恵那は……どこにも行かないよな?」

 真っ直ぐ純粋な目で、恵那を見つめるリュウ。恵那がすぐに首を縦に振ってみても、その曇った顔が晴れることはない。
 恵那の大袈裟な反応が、返ってリュウを不安にさせたみたいだった。
 微妙な空気感になった二人を気にすることもなく、多くの生徒が下校していく。
 恵那は人通りの多さから、この話を早く切り上げることにした。

「大丈夫だから、私のことは気にしないで。ほら、早く部活行かないと、怒られちゃうよ?」

「……わかった。何か、急にごめん」

「いいから、私も行くね」

「あのさ、恵那」

「もう、何よ?」

「今度、デートしようぜ」

「は、はぁ?」

「な、なんちゃって! じゃあな!」

 最後に言い残した言葉のせいで、恵那の顔がポッと赤くなる。
 勢いよく走り出したリュウの背中を見ながら、しばらく固まってしまっていた。リュウはグラウンドの方へ、一直線に向かって行った。
 デートの誘いなんて、これまで一度もされたことなかったのに、どうして急にそんなことを言い出したのか。
 モヤモヤした感情のまま、恵那も家に帰ることにした。

 もう二度と歩くことのない通学路を、味わうかのように……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

霊能者のお仕事

津嶋朋靖(つしまともやす)
キャラ文芸
 霊能者の仕事は、何も除霊ばかりではない。  最近では死者の霊を呼び出して、生前にネット上で使っていたパスワードを聞き出すなどの地味な仕事が多い。  そういう仕事は、霊能者協会を通じて登録霊能者のところへ割り振られている。  高校生霊能者の社(やしろ) 優樹(まさき)のところに今回来た仕事は、植物状態になっている爺さんの生霊を呼び出して、証券会社のログインパスワードを聞き出す事だった。  簡単な仕事のように思えたが、爺さんはなかなかパスワードを教えてくれない。どうやら、前日に別の霊能者が来て、爺さんを怒らせるようなことをしてしまったらしい。  優樹は、爺さんをなんとか宥めてようとするのだが……

わたし異世界でもふもふ達と楽しく過ごします! もふもふアパートカフェには癒し系もふもふと変わり者達が生活していました

なかじまあゆこ
ファンタジー
空気の読めない女子高生満里奈が癒し系のもふもふなや変わり者達が生活している異世界にトリップしてしまいました。 果たして満里奈はもふもふ達と楽しく過ごせるのだろうか? 時に悩んだりしながら生活していく満里奈。 癒しと笑いと元気なもふもふスローライフを目指します。 この異世界でずっと過ごすのかそれとも? どうぞよろしくお願いします(^-^)/

白鬼

藤田 秋
キャラ文芸
 ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。  普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?  田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!  草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。  少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。  二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。  コメディとシリアスの温度差にご注意を。  他サイト様でも掲載中です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

若返って、常世の国へ仮移住してみました

九重
キャラ文芸
『若返って”常世の国”に仮移住しませんか?』 『YES』 日々の生活に疲れ切った三十歳のOLは、自棄でおかしなメールに返信してしまった。 そこからはじまった常世の国への仮移住と、その中で気づいたこと。 彼女が幸せになるまでの物語。

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

民宿『ヤマガミ』へ ようこそっ!

ろうでい
キャラ文芸
― この民宿は、日本のどこかで今日もひっそりと、のほほんと、営業しております。 山奥……というほどでもないけれど、山の村にポツンと営業している民宿『ヤマガミ』。 その民宿の三姉妹の長女 山賀美 柚子 を中心とした、家族の物語。 特に何かがあるわけではないけれど、田舎の暮らしって時に、色々起きるもの。 今日も、笑顔いっぱいで、お客様をお迎え致しますっ! ※一話につき七分割しています。毎日投稿しますので、一週間で一話が終わるくらいのペースです。 ※この物語はフィクション……ですが、この民宿は作者の親戚の民宿で、日本のどこかに存在していたりします。 ※この小説は他サイトと重複投稿を行っております。

処理中です...