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一日目
街の噂④
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意表を突かれた指摘に、恵那の声が裏返った。動揺を隠せていない様子は、暗にその通りと白状しているようなものだ。
リュウは恵那の顔色が変わったのを確認した後、「やっぱりか」と呟く。恵那は誤魔化すように顔を俯かせるけど、リュウとの会話から逃げることはできない。
「兄さんがいなくなって、もう一年になるか」
「……そう、だね」
「恵那、兄貴のこと慕ってたもんな。そりゃ、元気もなくなるか」
「ま、まあ」
「俺もさ、兄さんの話をするのはすごい怖いんだけど……でも、恵那のそんな顔見たくないっていうか。だってほら、もう一年間もそんな顔してるだろ?」
「……うん」
「恵那まで、どっかに行っちゃうような気がしてさ……だから、すごい心配で」
まさに今日、恵那は遺書を書いたばかりだった。
幼馴染の直感の鋭さに、声にならない驚きを感じる恵那。
昔からの付き合いとはいえ、まさか今日という日に、恵那の死にたい願望に勘づくなんて。
リュウの野性的なインスピレーションに、恵那は黙るしかない。
「恵那は……どこにも行かないよな?」
真っ直ぐ純粋な目で、恵那を見つめるリュウ。恵那がすぐに首を縦に振ってみても、その曇った顔が晴れることはない。
恵那の大袈裟な反応が、返ってリュウを不安にさせたみたいだった。
微妙な空気感になった二人を気にすることもなく、多くの生徒が下校していく。
恵那は人通りの多さから、この話を早く切り上げることにした。
「大丈夫だから、私のことは気にしないで。ほら、早く部活行かないと、怒られちゃうよ?」
「……わかった。何か、急にごめん」
「いいから、私も行くね」
「あのさ、恵那」
「もう、何よ?」
「今度、デートしようぜ」
「は、はぁ?」
「な、なんちゃって! じゃあな!」
最後に言い残した言葉のせいで、恵那の顔がポッと赤くなる。
勢いよく走り出したリュウの背中を見ながら、しばらく固まってしまっていた。リュウはグラウンドの方へ、一直線に向かって行った。
デートの誘いなんて、これまで一度もされたことなかったのに、どうして急にそんなことを言い出したのか。
モヤモヤした感情のまま、恵那も家に帰ることにした。
もう二度と歩くことのない通学路を、味わうかのように……。
リュウは恵那の顔色が変わったのを確認した後、「やっぱりか」と呟く。恵那は誤魔化すように顔を俯かせるけど、リュウとの会話から逃げることはできない。
「兄さんがいなくなって、もう一年になるか」
「……そう、だね」
「恵那、兄貴のこと慕ってたもんな。そりゃ、元気もなくなるか」
「ま、まあ」
「俺もさ、兄さんの話をするのはすごい怖いんだけど……でも、恵那のそんな顔見たくないっていうか。だってほら、もう一年間もそんな顔してるだろ?」
「……うん」
「恵那まで、どっかに行っちゃうような気がしてさ……だから、すごい心配で」
まさに今日、恵那は遺書を書いたばかりだった。
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リュウの野性的なインスピレーションに、恵那は黙るしかない。
「恵那は……どこにも行かないよな?」
真っ直ぐ純粋な目で、恵那を見つめるリュウ。恵那がすぐに首を縦に振ってみても、その曇った顔が晴れることはない。
恵那の大袈裟な反応が、返ってリュウを不安にさせたみたいだった。
微妙な空気感になった二人を気にすることもなく、多くの生徒が下校していく。
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「大丈夫だから、私のことは気にしないで。ほら、早く部活行かないと、怒られちゃうよ?」
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