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一日目
街の噂①
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高校二年生の夏。
全開の窓からは微弱な風が入って来るだけで、それだけでは暑さが紛れるわけがない。
数学の山下先生は、明らかに定年退職の年齢を超えているおじいちゃん先生で、この人の授業の時は、まるで自習時間のようにクラス中がガヤガヤしている。
「みんなー、少し静かにしてくれたら助かるなぁ」
気弱なおじいちゃん先生の悲痛な叫びを聞きながら、窓側の一番後ろの席に座っている丸井 恵那(まるい えな)は、机に突っ伏していた。
外から侵入してくる僅かな風量でも、恵那の長い髪を靡かせるには十分だ。
髪が揺れ動くのに、多少の鬱陶しさを感じているけど、恵那が体勢を変えることはない。恵那の右手には、この授業中に書いた遺書が握られている。
「ねえ、知ってる? この街の噂」
「え、何々? 何のこと?」
「ここ数年さ、街から行方不明者が続出してるじゃん? あの噂よ」
「え、何か噂あるの? もしかして神隠しとか?」
先生の声に耳を傾けず、恵那の周りに座っている女子生徒二人組が、クラスの中でも取り分け大きな声で話している。つられるように、近くの席の男子生徒が反応して、その話題の勢力はどんどんと拡大していく。
五分もしないうちに、ほぼクラス全体での会話になっていて、恵那の席まで先生の声が届かなくなってしまった。
恵那は顔を伏せながら、心の中で先生に同情する。それと同時に、大きな話題となっている街の噂に、しっかりと聞き耳を立てていた。
「それって、一ノ瀬山の話だよな?」
「え、知ってるの?」
「ああ、もちろん知ってるよ」
「何々? 私にも教えてよー」
男女の楽しそうな声が、教室中を行き交う。
クラスで自分の世界に閉じこもっているのは恵那だけで、それ以外の生徒はほとんどが噂話に夢中になっていた。
顔を一切上げていない恵那は、もはや誰が声を発しているのか、わかっていない。それでも、話の内容だけはキャッチしている。何故なら、恵那自身もその噂話に興味があるからだ。
「この街の裏サイトに書いてあったんだけどね。この街で行方不明になっている者は、みんな一ノ瀬山に行ったきり帰ってこないっていう共通点があるんだって」
「嘘? 初めて聞いたー!」
「私も最近知ったんだけど、有名な話なんだって。その裏サイトには、一ノ瀬山の神隠しって書いてあった」
「俺もそのサイト見たわ。怖い話だよなー」
全開の窓からは微弱な風が入って来るだけで、それだけでは暑さが紛れるわけがない。
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「みんなー、少し静かにしてくれたら助かるなぁ」
気弱なおじいちゃん先生の悲痛な叫びを聞きながら、窓側の一番後ろの席に座っている丸井 恵那(まるい えな)は、机に突っ伏していた。
外から侵入してくる僅かな風量でも、恵那の長い髪を靡かせるには十分だ。
髪が揺れ動くのに、多少の鬱陶しさを感じているけど、恵那が体勢を変えることはない。恵那の右手には、この授業中に書いた遺書が握られている。
「ねえ、知ってる? この街の噂」
「え、何々? 何のこと?」
「ここ数年さ、街から行方不明者が続出してるじゃん? あの噂よ」
「え、何か噂あるの? もしかして神隠しとか?」
先生の声に耳を傾けず、恵那の周りに座っている女子生徒二人組が、クラスの中でも取り分け大きな声で話している。つられるように、近くの席の男子生徒が反応して、その話題の勢力はどんどんと拡大していく。
五分もしないうちに、ほぼクラス全体での会話になっていて、恵那の席まで先生の声が届かなくなってしまった。
恵那は顔を伏せながら、心の中で先生に同情する。それと同時に、大きな話題となっている街の噂に、しっかりと聞き耳を立てていた。
「それって、一ノ瀬山の話だよな?」
「え、知ってるの?」
「ああ、もちろん知ってるよ」
「何々? 私にも教えてよー」
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顔を一切上げていない恵那は、もはや誰が声を発しているのか、わかっていない。それでも、話の内容だけはキャッチしている。何故なら、恵那自身もその噂話に興味があるからだ。
「この街の裏サイトに書いてあったんだけどね。この街で行方不明になっている者は、みんな一ノ瀬山に行ったきり帰ってこないっていう共通点があるんだって」
「嘘? 初めて聞いたー!」
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