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5章 慣れ親しんだ味 ~家庭で食べるワカメと豆腐のみそ汁~

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「美味しそうねぇ。いきなり黄身を割っちゃおうかな」

 斎藤は箸で卵黄の部分をプツンと潰した。
 黄色が崩れて、醤油のかかった白米に押し寄せていく。箸で掬って、口に入れた。

「うわぁ、久しぶりに食べるとすごく美味しいわぁ」

 続けてアキも口にした。
 アキは最初から全体的に混ぜる派だった。全部に卵が行き渡ったご飯を、パクリと一口。
 きっと卵もいいものを使っているだろう。アキはすぐに卵の濃厚さに気がつき、ネトに目をやった。

「そうだ。その卵も、有名な養鶏所から取り寄せたものだ。贅沢な卵かけご飯だからな」

 アキは「やっぱり」と呟き、今度はひと口だけではなく、追随するようにどんどん口にかき込んでいった。
 斎藤は箸で掴みにくそうに掬って、上品にちょっとずつ食べているけど、アキはせっかちなため大胆に食べるしかできない。
 その食べっぷりを見たネトは「みそ汁もあるぞ」と促した。

「あ、はい。みそ汁もいただきます」

 ネトの言葉に従うように、アキはみそ汁を啜る。
 ちょうどいい温度になっていて、耐えられる熱さの状態だった。
 豆腐を口にした時だけ、豆腐の内にある熱さが邪魔をしてきた。
 それでもシンプルイズベストの味付け、そして具材。ワカメと豆腐のさっぱり加減と、御膳味噌の深い甘さが口の中で楽しい。

「うん、温まるわぁ。こういうみそ汁が結局一番いいのよね」

 斎藤も嬉しそうだった。
 結局こういうシンプルなみそ汁が一番いい……アキもそう思っている。
 斎藤は途中まで喜びながら食べ進めた。ちょうど半分ずつくらい残ったところで、箸を置く。
 ネトは空になった自分のグラスに、もう一度ビールを注いでいる。
 おかわりを飲むのだろう。

「そろそろお話聞いてくれる?」

 泡少なめのビールを持ってきたネトに、斎藤が聞く。
 いよいよ、フィナーレということなのか。

「ああ、そうだな。神様になった斎藤さんの話と、今の心情を聞かせてもらおうか」

 ゴクッと喉を鳴らしてから、ネトはビールをキッチンに置いて腕を組んだ。
 料理人から、話を聞くモードに変わっている。
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