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4章 八丁味噌の豆乳味噌スープ 〜挽肉とブロッコリーと香るごま油〜

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「瀬戸際の人を、二人見つけたのさ。この店に紹介したり、あとは別にも神様たちのお店があるからな」

 ネトは手を動かし始めた同時に、そう答えてくれた。まな板を布巾で綺麗に拭いて、ブロッコリーを切っている。
 春風がアキをこの店に導いたように、羽根田も瀬戸際の人間を神様たちの店に紹介して、選択させたのだ。
 しかも二人も。一人でも瀬戸際の人間を導くことができたら、役目は果たしたといっても過言ではないと、ネトも猫神様も言っていたはず。
 感心するのと同時に浮かび上がった疑問を、アキは素直に口にした。

「こういうお店がまだ他にもあるってことですか?」
「ああ。お嬢ちゃんはまだこのお店しか知らないと思うけど、意外と多いんだぜ。神様のお店って」

 ネトは順調にブロッコリーを切り終えて、その後に、冷蔵庫からサリが仕込んでくれた肉そぼろを取り出した。
 スプーンで掬って、鮮度のチェックをする。まったく問題ないみたいな表情をしている。
 ネトやサリ以外にも、人間に扮して店を運営している神様たちはたくさんいるみたい……ネトが当たり前にそう言っているので、アキは不思議な感情に襲われた。
 今この店の中に人間はアキだけで、しかも東京、いや……日本中にこのような店がある。
 ここに来た時からおかしかったけど、改めて聞くと、信用し難い内容だ。

「よし、じゃあ締めのみそ汁を作りますか」

 大きな棚の扉を開ける。観音開きに開いた先には、様々な味噌が収納されている。
 見慣れた光景のアキは、躊躇なく手に取った今日の味噌が何か気になる。ネトの手にあるのは『八丁味噌』と書かれたラベルが貼っている瓶だ。

 八丁味噌といえば名古屋だろう。アキもそれくらいは知っていた。
 濃くて旨味が強い、適度に酸味もあり、苦みもあったりする。
 赤褐色の独特な味噌が、今日は使われるらしい。
 そこでアキは疑問に思った。羽根田がここに訪れた意味って、何なのか。
 人間だったら、瀬戸際の人間を救うためという名目なのがわかる。でも神様は違う。
 瀬戸際でもなんでもない。自分探しのためにここでみそ汁を食す意味はあるのだろうか……。
 そう疑問に思った瞬間に、ネトがガスコンロのボタンに手をかけながら話してくれた。
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