上 下
50 / 96
4章 八丁味噌の豆乳味噌スープ 〜挽肉とブロッコリーと香るごま油〜

しおりを挟む
 ミサが死を選び、またしても店内は静かになった。
 猫神様はムクッと目を覚まし、起きると同時にサリにどうなったか聞く。
 死を取ったと告げると、感心するように「珍しいな」と答えた。
 やはりサリの時に死を選ぶ人は少ないみたいだ。外の日の光は、沈まりかけている。

「そろそろあいつが来る番か……」
「ネト、今日も遅れてるわね。何で私があいつの分の仕込みもやらなきゃいけないのよ」
「まあまあ女神様、そうそう怒らんでくれ。ワシからきつく言っておくから」
「別に、嫌いな作業じゃないからいいけどね。ただ感謝の一つもないのが気になるけど」

 サリが愚痴を吐くなんて珍しい。
 猫神様も困ったように目の周りを掻いていた。確かに、もう夜の部が始まるような時間なはずだ。
 アキはサリが口を膨らませながら手を動かしているのを見て、可愛いなと思えた。

”ガラガラ”

「あぁー、頭いてぇー」

 ネトがボサボサした頭で店にやって来た。目の下にある隈が二日酔いを助長させる。
 その表情を見て、サリは怒りをぶつけたくなったのか、尖った声で「あんたさ」と発した。

「もうちょっと早く来れないわけ? 遅いんだけど」
「ん? ああ、すまねぇ。眠気が取れなくてよぉ。このお嬢ちゃんのせいだ」
「私ですか!?」

 アキに飛び火する。アキは席を立ち上がって大袈裟に否定した。
 そもそも昨日の夜飲ませてきたのはネトのせいだ。みんなわかっているのか、サリと猫神様は大きく呆れている。

「何だよ、みんなして俺を責めて。わかったよ、悪かったよ。この通りだ、許してくれ」

 頭を下げて、全員にネトはつむじを見せた。
 猫神様が「女神様はこれでお帰りだな」とサリに言う。サリはエプロンを外しながら「しょうがないんだから」と怒りを抑え気味に溜息を吐いた。

「じゃあ、今日は飲み過ぎないようにするのよ」

 去り際に、アキに忠告するサリ。アキは頬を人差し指で掻きながら「かしこまりました」と返した。
 すっかり暗くなった夜の外に、サリは出ていく。
 ちょっと重くなった空気を、ネトが苦笑いで濁した。

「ったく、こえー女神様だぜ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

作ろう! 女の子だけの町 ~未来の技術で少女に生まれ変わり、女の子達と楽園暮らし~

白井よもぎ
キャラ文芸
地元の企業に勤める会社員・安藤優也は、林の中で瀕死の未来人と遭遇した。 その未来人は絶滅の危機に瀕した未来を変える為、タイムマシンで現代にやってきたと言う。 しかし時間跳躍の事故により、彼は瀕死の重傷を負ってしまっていた。 自分の命が助からないと悟った未来人は、その場に居合わせた優也に、使命と未来の技術が全て詰まったロボットを託して息絶える。 奇しくも、人類の未来を委ねられた優也。 だが、優也は少女をこよなく愛する変態だった。 未来の技術を手に入れた優也は、その技術を用いて自らを少女へと生まれ変わらせ、不幸な環境で苦しんでいる少女達を勧誘しながら、女の子だけの楽園を作る。

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

待人岬でAM0:24に自殺しようとしたらなんか変な男に会った

片上尚
キャラ文芸
自殺しようとしていた男が出会った、挙動不審な青年。 彼が探している「じいちゃん」とは何者なのか… 舞台用の作品をリライトしました。

超越者となったおっさんはマイペースに異世界を散策する

神尾優
ファンタジー
山田博(やまだひろし)42歳、独身は年齢制限十代の筈の勇者召喚に何故か選出され、そこで神様曰く大当たりのチートスキル【超越者】を引き当てる。他の勇者を大きく上回る力を手に入れた山田博は勇者の使命そっちのけで異世界の散策を始める。 他の作品の合間にノープランで書いている作品なのでストックが無くなった後は不規則投稿となります。1話の文字数はプロローグを除いて1000文字程です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~

ユーカン
キャラ文芸
怪談系都市伝説をモチーフにしつつ、全然ホラーじゃない方向のゆるバトル風一話完結コメディー。 化け狐姉妹と少年の都市伝説退治を見逃すな!

処理中です...