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3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~
⑥
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唐突に、扉が開いた。午後二時になろうとしているところだった。
扉の前に立っていたのは、アキと年齢の近い若い女性。二十代中盤の女性は、ダークブラウンでひし形シルエットのミディアムヘア―。ジャケットにパンツスタイルの、カッコイイ系丸の内OLみたいだ。
容姿も整っており、手足もスラッと長い。
その女性を見た瞬間、アキは劣等感に苛まれた。こんなに早く、自己嫌悪が襲ってくるとは……それほど完璧な女性が来店された。
「いらっしゃいませ。ここ座って」
倉持が座った時と同じ、アキが座っている場所から一番離れた端のカウンター席。
女性と目が合ったアキは、軽く会釈する。
サリがアキに耳打ちで「さっきの話はまたあとでね」と囁く。
「なんか年季の入ったお店ね。こんなところに来るなんて、私どうかしてるのかしら」
なかなか失礼なことを、よくサリの前で呟けるな……アキまで嫌な気持ちになる。
サリは「本当、よく来てくれたわ」と笑って対応している。怒ってもいい場面だけど……多分気にしていないのだろう。
「お仕事は、午後で終わり?」
「いえ、早退したの。ちょっと気分が悪くてね」
「ここに来て大丈夫なの?」
「私もびっくりしてる。どうしてここに入ったのか、自分でもよくわからない」
話の途中で、猫神様が女性の前のテーブルにぴょんと現れる。
突然過ぎて、女性は声も出せなかった。
「そりゃあよくわからんだろ。ここは神様たちの食堂だからな」
「ひゃあ! 猫がしゃべった!」
腰を抜かして、椅子から落ちそうになる。
両手をテーブルにつけて、何とか体勢を保つ。女性はサリの方を見て「どういうこと!?」と聞いた。
「世の中、不思議な世界もあるものですね」
「他人事みたいに言わないでよ! 何が起きてるの!?」
ここまで取り乱すなんて……確かに普通じゃないことが起きている。
その反応は別に大袈裟だとは思わなかった。アキもそれくらい驚いたはずだから。
猫神様は手で耳を畳むようにして「まあまあ、そんな甲高い声を出さないで」と渋く諭している。
扉の前に立っていたのは、アキと年齢の近い若い女性。二十代中盤の女性は、ダークブラウンでひし形シルエットのミディアムヘア―。ジャケットにパンツスタイルの、カッコイイ系丸の内OLみたいだ。
容姿も整っており、手足もスラッと長い。
その女性を見た瞬間、アキは劣等感に苛まれた。こんなに早く、自己嫌悪が襲ってくるとは……それほど完璧な女性が来店された。
「いらっしゃいませ。ここ座って」
倉持が座った時と同じ、アキが座っている場所から一番離れた端のカウンター席。
女性と目が合ったアキは、軽く会釈する。
サリがアキに耳打ちで「さっきの話はまたあとでね」と囁く。
「なんか年季の入ったお店ね。こんなところに来るなんて、私どうかしてるのかしら」
なかなか失礼なことを、よくサリの前で呟けるな……アキまで嫌な気持ちになる。
サリは「本当、よく来てくれたわ」と笑って対応している。怒ってもいい場面だけど……多分気にしていないのだろう。
「お仕事は、午後で終わり?」
「いえ、早退したの。ちょっと気分が悪くてね」
「ここに来て大丈夫なの?」
「私もびっくりしてる。どうしてここに入ったのか、自分でもよくわからない」
話の途中で、猫神様が女性の前のテーブルにぴょんと現れる。
突然過ぎて、女性は声も出せなかった。
「そりゃあよくわからんだろ。ここは神様たちの食堂だからな」
「ひゃあ! 猫がしゃべった!」
腰を抜かして、椅子から落ちそうになる。
両手をテーブルにつけて、何とか体勢を保つ。女性はサリの方を見て「どういうこと!?」と聞いた。
「世の中、不思議な世界もあるものですね」
「他人事みたいに言わないでよ! 何が起きてるの!?」
ここまで取り乱すなんて……確かに普通じゃないことが起きている。
その反応は別に大袈裟だとは思わなかった。アキもそれくらい驚いたはずだから。
猫神様は手で耳を畳むようにして「まあまあ、そんな甲高い声を出さないで」と渋く諭している。
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