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3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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 サリは汁椀を取って「もう一杯どう?」と聞く。
 アキは思いっきり首を縦に振って「いただきます!」と答えた。
 どれだけ飲めば気が済むのか、アキ自身にもわからなくなってきている。

「シジミにはオルニチンが含まれているからね。二日酔いにはこれが一番いいのよ」
「オルニチンっていうのがいいんですね。漠然と、シジミは二日酔いに良いとしか知らなかったです」
「あとは……ちょっとだけ酢を入れてるの」
「お酢ですか?」

 味噌の中にある酸っぱさを探るように味を感じ取る。
 寝起きで鈍いアキの舌では、それを感じ取ることができなかった。

「まあ、本当に少量だから。気がつかないと思うわ」
「どうしてお酢がいいんですか?」
「殻からカルシウムを多く引き出してくれるのね。カルシウムを多く摂取できるってわけ」

 これもまた勉強になる。そんなことを思いながらみそ汁を食していると、頭の痛さなんて忘れ去ってしまった。
 サリの作るみそ汁は、人が作るみそ汁よりも温かいのではと思わせてくれる。
 アキは二杯目も、瞬く間に完食した。

「ありがとうございます。おかげで温まりました」
「それは良かったわ。あ……っていうかシャワー浴びてくれば?」
「え、良いんですか?」

 女神様からそんな提案をされるとは思わなかった。
 いつまでベタベタの髪でいればいいのだろうと、若干悩んでいた部分はあったのだ。
 でも、こんな古くて狭い民家のどこに、シャワー室があるのか。

「そこのパントリーの中に、扉があるでしょ? その中にシャワー室とトイレがあるわ」

 パントリーの中に? 衛生上あんまり良くないのでは……。
 アキは思い浮かぶ言葉を無理やり押し込めて「助かります」とだけ言って中に入った。

「あれ? 意外と綺麗ね」

 外観とこれまで見てきた部屋や店内を見るに、もっと錆びれて酷いものを想像していた。意外とそうじゃない。
 タイルにカビは生えていないし、匂いも石鹸の香りがしっかりとしている。
 洗面所だけ小さいけど、それは許容範囲。アキは少し遠慮がちにだけど、寝汗で汗ばんだ体をシャワーで流した。
 
 昨日からずっと不思議な感じだ。
 まるでファンタジー映画の登場人物にでもなったみたい。
 アキはこの数時間の出来事を思い返しながら、用意されたバスタオルで体を拭き元々の服装に戻る。そのままドライヤーで髪を乾かした。
 小さいなりに、しっかりと揃っているバスルームだ。
 店内に戻ると、次に来店されるお客さんのためにサリが仕込みを始めていた。
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