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2章 出汁なしみそ汁 ~新ジャガと黒コショウソーセージ

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「こんなに寝るつもりではなかったのに……ネト、どっちだったんだ?」
「ああ。死を取ったよ」
「そ、そうか……」

 猫神様はあくびをしながら背中を反らし『伸び』をする。
 猫神様も昔は、人間だったんだよな……と想像するアキ。
 アキは猫神様を見ながらそう考えていると、小太りのおじさんをイメージしてしまって笑いが止まらなくなってしまった。

「お嬢ちゃん、猫神がそんなに面白いか?」
「え、い、いや、猫神様の人間だった時の姿をイメージしたら、笑えてきちゃって」
「おい猫神、言われてるぞ! どんなんを想像したんだ?」

 ネトが顔を近づけて聞いてくる。大人のフェロモンを感じるネトが近づいてきて、アキの顔が赤くなった。
 それでも聞かれたことに、素直に答える。

「ちょっと小太りの……おじさんとかだったのかなって」

 その言葉に、ネトも爆笑し始めた。
 猫神様は不服なのか、膨れっ面で「知らんわ」とやさぐれて言う。

「お嬢ちゃん、気に入ったぞ! もう少し飲んでいけ!」
「え、でももう締めのみそ汁もいただきましたし」
「そんなのなんぼでも作ってやる。ほら、またビールでいいか?」
「しょうがないなぁ。ビールでいいです」

 テンションが上がっているネトを見て、猫神様は「やれやれ」とお手上げのポーズを取りながら溜息をついた。
 そんなの気にしていないネトは、中ジョッキを持ったアキと乾杯する。
 さっきまで憂いを抱いていたアキとは思えないほどに、気持ちが晴れていた。

「猫神、こいつは今日ここに泊まっていくぞ? それでもいいよな?」
「え!? 私がここに?」
「何だよ、嫌なのか? っていうか、お嬢ちゃんはこの店を教えてくれた人が何者か知るために、生きることにしたんだよな?」
「ま、まあ」
「じゃあこの店にいた方がいいだろ? ヒントが回ってくるかもしれないぞ」

 ネトの言う通りだった。死のうという気持ちを中和してくれたのは、春風という人物が何者か知りたかったからだ。
 そんなことで死を諦めたんだから、この疑問は解決してみたい……アキは心からそう思えた。

「じゃあ、今日は飲みます!」
「おお! 良いね良いね! じゃあ神様たちの食堂に、乾杯だ!」

 猫神様はもう一度、ふて寝するように体を縮こまらせた。
 アキは夢の中なのか現実なのかよくわからないまま、ネトが注いでくれるお酒を浴びるように飲む。
 徐々に記憶が消えていき、鬱屈した気持ちも併せてなくなっていった……。
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