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2章 出汁なしみそ汁 ~新ジャガと黒コショウソーセージ

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 倉持とアキ。二人揃って、まずは汁から啜る。湯気で顔が潤った。
 優しくも、ソーセージのエキスが染み込まれたみそ汁は、口の中でいろんな変化を感じさせてくれた。
 ソーセージのパンチが終わったかと思うと、新ジャガの甘みが追いかけてくる……堪らなくなって、間髪入れずにブロッコリーを口にするアキ。
 ホクホク感と、ブロッコリーの素材本来の甘みと旨味。新ジャガも続けて食べると、さらに大胆な甘みが加担された。
 このコンビネーションに割って入るかのように、ソーセージが食べてほしそうにこっちを見ている。
 アキは一口かぶりつくと、黒コショウのピリッと感がいいアシストになって、壮大な攻撃力を見せつけてくれた。
 ソーセージの肉汁が、まとまっている優しい味付けに一石を投じてくれる……最高な味だった。

「美味いか? ニヤニヤしながら食ってるけど」
「え、あ、はい。そんな見ないでくださいよ」
「お前……本当にちょっと前まで死にたかった人間なのかよ」

 ネトが冷静なツッコミを入れる。
 アキは「確かに」と同意して、鼻で笑った後にまたみそ汁を口にし始めた。
 倉持はネトの「死にたかった人間」というフレーズを聞いて、箸が止まる。

「倉持さん、どうした?」
「あ、ああ……そろそろはっきりさせようと思ってさ」

 ネトは腕を組んで、シリアスな表情に変わった倉持を見つめる。
 はっきりさせる……つまりそういうことだ。ここに来た意味と、しっかり向き合う時間だということ。

「倉持さん……もうピンと来ていると思うが、ここは普通の食堂ではない」
「ああ。カオルが連れてきてくれた……特別な場所だ」
「ようやくできた愛する人を失って独り身になった倉持さんの人生は……もしかしたらつまんなくて窮屈かもしれない」

 マイナスな言葉を容赦なく浴びせるネト。その時、死神ネトということをようやく思い出した。
 アキはこれじゃいけないという正義感が働き、その会話に割って入る。

「で、でも、生きていたらまた新たな出会いや、幸せなことに巡り合うかもしれませんよ!」
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