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2章 出汁なしみそ汁 ~新ジャガと黒コショウソーセージ

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 ネトはタンブラーグラスの中に氷をカランと入れて、麦焼酎の水割りを作った。
 レモンを串切りしたものを入れてよく混ぜる。
 一番最初にアキに出した、お通しのきゅうりと鶏ささみの和え物と一緒に出した。
 倉持はまだ食べる気があるみたいで、「ありがとう」と言葉にする。
 グイッと焼酎を呷り、涙を堪えるようにしている。

「カオルは……素敵な女性だった」

 カランと、氷が鳴る。
 アキは焼酎のニオイを嗅ぎながら、倉持が愛したカオルという女性を頭の中に思い描く。
 倉持と同い年くらいの、大人の女性。二人の恋の行方はどうなったというのか。
 ネトが「どんな出会いだったんだ?」と聞くと、スヤスヤと寝ていた猫神様の体がビクッと反応した。
 一瞬だけ首を起こした後に、また元の体勢に戻って目を閉じた。

「カオルは三年前、私の職場にやってきた。私はしがないサラリーマンで、彼女はパートで入社してきたんだ」
「三年前か……割と最近だな」
「そうなんだ。こんな五十過ぎのおじさんにも、春が来るなんて思わなかったよ」

 自虐を言って笑いながら、ネトの顔を見る。
 ネトは一ミリも面白そうにしてなかったけど、愛想笑いだけはしていた。

「カオルは私と同い年でね。それで意気投合して、よく話すようになったんだ」
「五十過ぎでパートで入ってくるって……その人は結婚してなかったのか?」
「カオルは離婚したばかりで、それまでは主婦だった」
「離婚をきっかけに、倉持さんの会社で働くことになったってことか」

 細部まで知ろうとしているつもりなのか、整理しながら話を聞いていく。
 この店で食事をする意味を知っているアキは、この話を聞く工程が何よりも大事だと理解していた。
 自分の人生を振り返って、生きるか死ぬかを決める。
 そのために、話をきちんとまとめなければいけないのだ。

「カオルは子供を立派に育て上げ、自分の魂を捧げてきたつもりなのに……独り身になってしまったんだ。話を聞いていく中で、私がこの人を守りたいって、そう思うようになって」
「……付き合うようになったんだな」
「あ、ああ……まったく笑っちゃうよな。仕事ばっかりしてきて、恋愛なんてするつもりはなかったのに。五十過ぎてから急に彼女ができるなんて」
「運命なんてのは、神様の気まぐれだからな」
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