上 下
17 / 96
1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜

しおりを挟む
「神様はな、辛く生きている人に選択肢を与えるのだ。すっきり生きられない人に対して、生きるか死ぬかを突きつける……そうすれば、みな本心に気づくことができる」

 猫神様は猫の手で目元をゴシゴシ搔きながら言った。
 それを聞くに、神様はみな悪い存在ではないみたいだ。選択をさせてあげることによって、辛いながらも進むか、ピリオドを打つか自分に問いかけることができる。
 春風は、近くにいた迷い人のアキを、この店に招いた。そして決断させようとしたのだ。
 人間の姿をした神様は、この世にたくさんいるということか。

「人間と神様が唯一繋がれる店。それがこのお店なんじゃ」

 猫神様が自信を持って口にした。
 神様と繋がることができるお店……? アキは誰と繋がったのか。
 喋る猫は確かに謎だ。猫神様と繋がれるのは現実離れしたお伽噺みたいだ。
 でも神様な感じはしない。猫神様の発言に疑問を覚えたアキは、次の猫神様の言葉で納得できた。

「ここにいるサリだって、元は女神だったんだぞ」
「え! 女神!?」
「ちょっと、猫神様! 今もそうですって」

 猫神様は「そうじゃったか」と言ってガハハと豪快に笑った。
 女神が、人の形に化けている? 確かにサリは綺麗だけど……アキはつい心の声を漏らしてしまった。

「ありがとう、褒めてくれて。猫神様が言う通り、ここを運営しているのはみな神様よ」
「そうじゃそうじゃ。ちなみに、こいつらはみんなワシの部下じゃ」
「部下!?」
「それが本当なのよ。私ともう一人いるんだけど、猫神様が上司なの」

 猫神様はエヘンと咳払いをした。
 二人と一匹が、冥土に繋がるみそ汁食堂を運営している。
 迷いながら生きる人間に、『決意』させるために。

「そうだ! せっかくだから、夜の部までいたら?」
「おお、そうだな。もう少しであいつが来るだろう」
「あいつって……もう一人の神様ですか」

 十中八九そうだろう。結果的に、死ぬことを回避してしまった。
 アキは不思議と、吹っ切れた気になっている。
 死ぬ死ぬと言っていたけど、冥土に行くのはまだちょっとだけ早いのかもしれない。
 春風から、生きろと言われた気もしたのだ。

 春風は一体……何者なのだろう。

「ここは昼の部は私、女神の定食屋さんで、そしてもう一人は……」

 猫神様がサリの前に立ち、話す番を奪った。
 アキの目を見ながら、怖い話をするみたいに低い声で言う。

「夜の部はな、死神が酒場を開く。もちろん、締めのみそ汁まで食っていけよ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

大阪の小料理屋「とりかい」には豆腐小僧が棲みついている

山いい奈
キャラ文芸
男尊女卑な板長の料亭に勤める亜沙。数年下積みを長くがんばっていたが、ようやくお父さんが経営する小料理屋「とりかい」に入ることが許された。 そんなとき、亜沙は神社で豆腐小僧と出会う。 この豆腐小僧、亜沙のお父さんに恩があり、ずっと探していたというのだ。 亜沙たちは豆腐小僧を「ふうと」と名付け、「とりかい」で使うお豆腐を作ってもらうことになった。 そして亜沙とふうとが「とりかい」に入ると、あやかし絡みのトラブルが巻き起こるのだった。

オカルトアワー~都市伝説怪奇譚~

ユーカン
キャラ文芸
怪談系都市伝説をモチーフにしつつ、全然ホラーじゃない方向のゆるバトル風一話完結コメディー。 化け狐姉妹と少年の都市伝説退治を見逃すな!

左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!

武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。

キツネと龍と天神様

霧間愁
キャラ文芸
400文字前後で物語を。そんなコンセプトに書いてみる。  キツネ と りゅう と てんじんさま が いどばたかいぎ を はじめた。  366話あります。一日一話読めば、一年間読めます。

閻魔様のほっこりご飯~冥土で癒しの料理を作ります~

小花はな
キャラ文芸
 ――ここは冥土。天国と地獄の間。  気がついたらそこで閻魔様の裁判を受けていていた桃花は、急速に感じた空腹に耐えかね、あろうことか閻魔様のご飯を食べてしまう!  けれど怒られるどころか、美形の閻魔様に気に入られた上に、なぜか彼の宮殿で暮らすことになって……? 〝わたしは昔、あなたに会ったことがあるんですか?〟  これは記憶のない少女が過去を思い出しつつ、ご飯が食べられないワーカーホリックな閻魔様や家来の小鬼たちを餌付けしていく、ほのぼのグルメラブストーリー。  お品書きは全九品+デザート一品、是非ご賞味ください。  ※本作はキャラ文芸大賞に参加しております。どうぞよろしくお願いします!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...