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1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜

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「神様はな、辛く生きている人に選択肢を与えるのだ。すっきり生きられない人に対して、生きるか死ぬかを突きつける……そうすれば、みな本心に気づくことができる」

 猫神様は猫の手で目元をゴシゴシ搔きながら言った。
 それを聞くに、神様はみな悪い存在ではないみたいだ。選択をさせてあげることによって、辛いながらも進むか、ピリオドを打つか自分に問いかけることができる。
 春風は、近くにいた迷い人のアキを、この店に招いた。そして決断させようとしたのだ。
 人間の姿をした神様は、この世にたくさんいるということか。

「人間と神様が唯一繋がれる店。それがこのお店なんじゃ」

 猫神様が自信を持って口にした。
 神様と繋がることができるお店……? アキは誰と繋がったのか。
 喋る猫は確かに謎だ。猫神様と繋がれるのは現実離れしたお伽噺みたいだ。
 でも神様な感じはしない。猫神様の発言に疑問を覚えたアキは、次の猫神様の言葉で納得できた。

「ここにいるサリだって、元は女神だったんだぞ」
「え! 女神!?」
「ちょっと、猫神様! 今もそうですって」

 猫神様は「そうじゃったか」と言ってガハハと豪快に笑った。
 女神が、人の形に化けている? 確かにサリは綺麗だけど……アキはつい心の声を漏らしてしまった。

「ありがとう、褒めてくれて。猫神様が言う通り、ここを運営しているのはみな神様よ」
「そうじゃそうじゃ。ちなみに、こいつらはみんなワシの部下じゃ」
「部下!?」
「それが本当なのよ。私ともう一人いるんだけど、猫神様が上司なの」

 猫神様はエヘンと咳払いをした。
 二人と一匹が、冥土に繋がるみそ汁食堂を運営している。
 迷いながら生きる人間に、『決意』させるために。

「そうだ! せっかくだから、夜の部までいたら?」
「おお、そうだな。もう少しであいつが来るだろう」
「あいつって……もう一人の神様ですか」

 十中八九そうだろう。結果的に、死ぬことを回避してしまった。
 アキは不思議と、吹っ切れた気になっている。
 死ぬ死ぬと言っていたけど、冥土に行くのはまだちょっとだけ早いのかもしれない。
 春風から、生きろと言われた気もしたのだ。

 春風は一体……何者なのだろう。

「ここは昼の部は私、女神の定食屋さんで、そしてもう一人は……」

 猫神様がサリの前に立ち、話す番を奪った。
 アキの目を見ながら、怖い話をするみたいに低い声で言う。

「夜の部はな、死神が酒場を開く。もちろん、締めのみそ汁まで食っていけよ……」
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