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1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜
⑬
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父を思い出し、涙がこみ上げる。
アキは不幸な人生の発端を父にぶつけていたことを、今更ながらに後悔した。
父はアキを幸せにしようと努力していた。それを無下にしたのは、紛れもなくアキ自身だったのだ。
「父に……会いたい」
アキが呟き、それを合図に猫神様の口が開いた。
サリはもう一度カウンター内にある椅子に座って、話す番を猫神様に渡した。
「お前の人生は、確かに不幸の連続だったな。もしかしたら、今後もそれが続くかもしれない」
「……いいことなんて、一つもないような気がします」
「ここはお前のこれからを導く場所だ。悲しみの中生きていくか? それとも死んで楽になるか? 決めるのはお前自身だ」
決めるのはアキ自身……この店は冥土と繋がっている。
父のもとへ行くか? このまま生きていても、自分にとって何のメリットもない気がする。
まさか今後を選べるなんて、本当に不思議な世界に迷い込んだものだ。
アキは冷静に今を分析していた。
「決めたら、生きるか死ぬか、どっちかを思い浮かべながら……残りのみそ汁を平らげてくれ」
冥土って、心地良い場所なのかな……。
目を瞑り『生』と『死』の二択で迷いながら、みそ汁茶碗に口をつける。
冷めていたはずなのに、不思議と温度が戻っていた。構いもせずに、口の中に全てを含んだ。
亡き父のことを思い浮かべて、ゴクリと飲み込む。
「……それでいいのね?」
アキの体が白い蒸気に包まれる。
体の芯から熱くなってくるみたいだ。後悔はない。
アキはサリの問いかけに「はい」と答え、口元を緩ませた。
蒸気はアキを覆い、サリからも猫神様からも見えないくらいに真っ白くなる。
そのまま蒸気は天井に昇っていき、そして沈黙と共に消えていった。
アキはこれまでの人生を思い返していた。
少なからず、まったく愛されなかったわけではない。惜しい人生だったのだ。
もう少し家庭環境が良ければ、きっと死にたいと思うまではならなかっただろう。
死を受け入れる。
死んだ方がマシだ。
……でも待てよ?
そういえば、どうして春風はこの不思議なお店を知っていたんだろう……。
アキは不幸な人生の発端を父にぶつけていたことを、今更ながらに後悔した。
父はアキを幸せにしようと努力していた。それを無下にしたのは、紛れもなくアキ自身だったのだ。
「父に……会いたい」
アキが呟き、それを合図に猫神様の口が開いた。
サリはもう一度カウンター内にある椅子に座って、話す番を猫神様に渡した。
「お前の人生は、確かに不幸の連続だったな。もしかしたら、今後もそれが続くかもしれない」
「……いいことなんて、一つもないような気がします」
「ここはお前のこれからを導く場所だ。悲しみの中生きていくか? それとも死んで楽になるか? 決めるのはお前自身だ」
決めるのはアキ自身……この店は冥土と繋がっている。
父のもとへ行くか? このまま生きていても、自分にとって何のメリットもない気がする。
まさか今後を選べるなんて、本当に不思議な世界に迷い込んだものだ。
アキは冷静に今を分析していた。
「決めたら、生きるか死ぬか、どっちかを思い浮かべながら……残りのみそ汁を平らげてくれ」
冥土って、心地良い場所なのかな……。
目を瞑り『生』と『死』の二択で迷いながら、みそ汁茶碗に口をつける。
冷めていたはずなのに、不思議と温度が戻っていた。構いもせずに、口の中に全てを含んだ。
亡き父のことを思い浮かべて、ゴクリと飲み込む。
「……それでいいのね?」
アキの体が白い蒸気に包まれる。
体の芯から熱くなってくるみたいだ。後悔はない。
アキはサリの問いかけに「はい」と答え、口元を緩ませた。
蒸気はアキを覆い、サリからも猫神様からも見えないくらいに真っ白くなる。
そのまま蒸気は天井に昇っていき、そして沈黙と共に消えていった。
アキはこれまでの人生を思い返していた。
少なからず、まったく愛されなかったわけではない。惜しい人生だったのだ。
もう少し家庭環境が良ければ、きっと死にたいと思うまではならなかっただろう。
死を受け入れる。
死んだ方がマシだ。
……でも待てよ?
そういえば、どうして春風はこの不思議なお店を知っていたんだろう……。
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