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1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜

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 は? っと思わず口にしたかった。
 このお店のネーミングが頭に浮かぶ。みそ汁食堂 めいどの『めいど』って、そう意味なのか?
 アキは茫然自失している。

「ま、すぐには理解できないわよね」

 アキの隣の椅子まで猫神様がジャンプした。
 呆気にとられているアキを見上げるようにして、猫神様が説明してくれる。

「このお店には、お前のように人生を投げ捨てるかどうしようか、その狭間で揺れているような人間が辿り着く場所なんだ」
「私のような?」
「ああ。お前はまさに、生と死の岐路に立っている。不幸が続いて、精神を病んで、それでも生きていくのか、死んで無になるか……その中間だ」

 確かに、アキは数時間前までは死んでもいいと考えていた。
 でもまさか自分がそんな奇妙な世界の中に入り込むなんて、想像もしていない。
 これは夢の中だろう? 試しに自分のほっぺを抓ってみる。

「痛っ! え、これ、夢じゃないの?」
「何を馬鹿なことやってるんだ。正真正銘、現実の話だ」

 ちょこんと座りながら、猫神様が話しかけてくる。
 よく考えたらこの状況もおかしい。何で白猫が言葉を話しているのか。
 いくら考えても、これは現実世界……アキは頭を抱えた。

「いいから話してみろ。お前がどんな人生を送ってきたかを」

 猫神様に促される。アキの人生……どうして死にたくなったのか、それを語る番らしい。
 今まで内に溜め込んでいてばかりで、声にできなかったアキは絶え入るような声で語り出す。
 サリはじーっとアキを見つめながら、その声に耳を澄ましていた。

「私の不幸は幼い頃から始まっていたんです……」

 とても小さな声は震えている。
 アキは自分の不幸な人生を思い出しながら、時系列順に滔々と話していった。

 大体三歳か四歳くらいの時に、母が家から出て行った。
 母の記憶は全くない。声さえも覚えていない。これが地獄の始まりだった。
 父と娘の二人暮らし。他の家族から比べたら、明らかに歪だ。
 最初は何にも考えず、それが当たり前だと思っていたけど……小学生になると徐々にわかってくる。
 自分が変わっている家庭なんだと。
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