9 / 96
1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜
⑦
しおりを挟む
は? っと思わず口にしたかった。
このお店のネーミングが頭に浮かぶ。みそ汁食堂 めいどの『めいど』って、そう意味なのか?
アキは茫然自失している。
「ま、すぐには理解できないわよね」
アキの隣の椅子まで猫神様がジャンプした。
呆気にとられているアキを見上げるようにして、猫神様が説明してくれる。
「このお店には、お前のように人生を投げ捨てるかどうしようか、その狭間で揺れているような人間が辿り着く場所なんだ」
「私のような?」
「ああ。お前はまさに、生と死の岐路に立っている。不幸が続いて、精神を病んで、それでも生きていくのか、死んで無になるか……その中間だ」
確かに、アキは数時間前までは死んでもいいと考えていた。
でもまさか自分がそんな奇妙な世界の中に入り込むなんて、想像もしていない。
これは夢の中だろう? 試しに自分のほっぺを抓ってみる。
「痛っ! え、これ、夢じゃないの?」
「何を馬鹿なことやってるんだ。正真正銘、現実の話だ」
ちょこんと座りながら、猫神様が話しかけてくる。
よく考えたらこの状況もおかしい。何で白猫が言葉を話しているのか。
いくら考えても、これは現実世界……アキは頭を抱えた。
「いいから話してみろ。お前がどんな人生を送ってきたかを」
猫神様に促される。アキの人生……どうして死にたくなったのか、それを語る番らしい。
今まで内に溜め込んでいてばかりで、声にできなかったアキは絶え入るような声で語り出す。
サリはじーっとアキを見つめながら、その声に耳を澄ましていた。
「私の不幸は幼い頃から始まっていたんです……」
とても小さな声は震えている。
アキは自分の不幸な人生を思い出しながら、時系列順に滔々と話していった。
大体三歳か四歳くらいの時に、母が家から出て行った。
母の記憶は全くない。声さえも覚えていない。これが地獄の始まりだった。
父と娘の二人暮らし。他の家族から比べたら、明らかに歪だ。
最初は何にも考えず、それが当たり前だと思っていたけど……小学生になると徐々にわかってくる。
自分が変わっている家庭なんだと。
このお店のネーミングが頭に浮かぶ。みそ汁食堂 めいどの『めいど』って、そう意味なのか?
アキは茫然自失している。
「ま、すぐには理解できないわよね」
アキの隣の椅子まで猫神様がジャンプした。
呆気にとられているアキを見上げるようにして、猫神様が説明してくれる。
「このお店には、お前のように人生を投げ捨てるかどうしようか、その狭間で揺れているような人間が辿り着く場所なんだ」
「私のような?」
「ああ。お前はまさに、生と死の岐路に立っている。不幸が続いて、精神を病んで、それでも生きていくのか、死んで無になるか……その中間だ」
確かに、アキは数時間前までは死んでもいいと考えていた。
でもまさか自分がそんな奇妙な世界の中に入り込むなんて、想像もしていない。
これは夢の中だろう? 試しに自分のほっぺを抓ってみる。
「痛っ! え、これ、夢じゃないの?」
「何を馬鹿なことやってるんだ。正真正銘、現実の話だ」
ちょこんと座りながら、猫神様が話しかけてくる。
よく考えたらこの状況もおかしい。何で白猫が言葉を話しているのか。
いくら考えても、これは現実世界……アキは頭を抱えた。
「いいから話してみろ。お前がどんな人生を送ってきたかを」
猫神様に促される。アキの人生……どうして死にたくなったのか、それを語る番らしい。
今まで内に溜め込んでいてばかりで、声にできなかったアキは絶え入るような声で語り出す。
サリはじーっとアキを見つめながら、その声に耳を澄ましていた。
「私の不幸は幼い頃から始まっていたんです……」
とても小さな声は震えている。
アキは自分の不幸な人生を思い出しながら、時系列順に滔々と話していった。
大体三歳か四歳くらいの時に、母が家から出て行った。
母の記憶は全くない。声さえも覚えていない。これが地獄の始まりだった。
父と娘の二人暮らし。他の家族から比べたら、明らかに歪だ。
最初は何にも考えず、それが当たり前だと思っていたけど……小学生になると徐々にわかってくる。
自分が変わっている家庭なんだと。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
左遷されたオッサン、移動販売車と異世界転生でスローライフ!?~貧乏孤児院の救世主!
武蔵野純平
ファンタジー
大手企業に勤める平凡なアラフォー会社員の米櫃亮二は、セクハラ上司に諫言し左遷されてしまう。左遷先の仕事は、移動販売スーパーの運転手だった。ある日、事故が起きてしまい米櫃亮二は、移動販売車ごと異世界に転生してしまう。転生すると亮二と移動販売車に不思議な力が与えられていた。亮二は転生先で出会った孤児たちを救おうと、貧乏孤児院を宿屋に改装し旅館経営を始める。
キツネと龍と天神様
霧間愁
キャラ文芸
400文字前後で物語を。そんなコンセプトに書いてみる。
キツネ と りゅう と てんじんさま が いどばたかいぎ を はじめた。
366話あります。一日一話読めば、一年間読めます。
九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
髪を切った俺が『読者モデル』の表紙を飾った結果がコチラです。
昼寝部
キャラ文芸
天才子役として活躍した俺、夏目凛は、母親の死によって芸能界を引退した。
その数年後。俺は『読者モデル』の代役をお願いされ、妹のために今回だけ引き受けることにした。
すると発売された『読者モデル』の表紙が俺の写真だった。
「………え?なんで俺が『読モ』の表紙を飾ってんだ?」
これは、色々あって芸能界に復帰することになった俺が、世の女性たちを虜にする物語。
※『小説家になろう』にてリメイク版を投稿しております。そちらも読んでいただけると嬉しいです。
待人岬でAM0:24に自殺しようとしたらなんか変な男に会った
片上尚
キャラ文芸
自殺しようとしていた男が出会った、挙動不審な青年。
彼が探している「じいちゃん」とは何者なのか…
舞台用の作品をリライトしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる