坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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第三話 遠山蘭子の冬

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「北海道……函館?」
「イエス! その通り! この景色良いよなぁ。夜景とか、坂とか、すごい感情が揺さぶられそうで行ってみたいわ」
「じゃあ、早く夢を叶えて、連れて行ってね」
「もちろんだとも」
 甘々とした距離感。夢を語り合う日々。
 そして、いつかビッグになるこの人の妻になる。考えただけでも幸福だった。
 彼のことを知れば知るほど、どんどん好きになる。
 これから歩み始める彼との人生に、明るい未来を馳せていた……。

 ――しかし、現実は思っていたよりも残酷だった。

 ほどなくして、私たちは同棲を始めた。
 同棲して一年が経った頃くらいから、彼は会社を辞めた。正確に言うと、辞めさせた。
 二兎を追う者は一兎をも得ず……仕事しながらだったら、彼も体力的に負担がかかるだろう。
 小説を書くことに集中してほしかったので、私が働いて養ってあげることに決めたのだ。
 まあ、節約しながらなら私の給料だけでもやっていける。しかも彼は、小遣い稼ぎに文章を書くバイトをちょくちょくやってくれた。
 一年、二年と時間は進んでいき、私も彼との生活に慣れてきてしまっていた。
 いつになったら売れてくれるのか……それまで尊敬してきた私も、いつしかイライラを募らせるようになっていた。
 別れたくなって、それでも彼に夢を馳せて、諦めたい、一緒に居たいが毎年のように溢れて、結局時間を進めていく。
 何だかんだで、十五年、いや……十七年の年月が経っていった。

「私は……普通の幸せがほしい」
 それが口癖になっていた、アラフォーの自分。相変わらず彼は、毎日焦りながら小説を書いていた。
 彼はもう四十歳。いい加減諦めたら、なんて言葉を簡単に吐けたら楽なのに。
 まだ彼は、夢を掴めると思っている。
 デスクに向き合って必死にカタカタとパソコンのキーボードを叩いている彼に聞こえるように、この口癖を発するけど、彼は無視するようになっていた。
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