坂の上のサロン ~英国式リフレクソロジー~

成木沢 遥

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第三話 遠山蘭子の冬

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「それでは、まずは足拭きから行っていきます」
 元井さんの指に巻かれたウエットティッシュが、私の足裏や指の間を上手い具合に拭き取っていく。
 器用な元井さんの手つきを、もっとしっかりと見てみたいものだ。わざわざ頭を上げてみるほどではないけど、ちょっと興味が湧いてきた。
「両足拭き終わりましたので、これからパウダーを活用して、軽く足ストレッチを始めますね」
 白いパウダーが両足に塗布され、そのまま足首回しや足裏の皮膚を伸ばすような動きが施され、元井さんの手が足に馴染んできたように思える。
「元井さん、手が温かいですね」
「ありがとうございます。温もりが少しでも伝われば幸いです」
「伝わりますよ、本当に」
 目を開けたり閉じたり。ずっと閉じていたら眠ってしまいそうだから、適度に開けておかないといけない。まだ施術に入る準備段階だというのに、ここで寝たらもったいないはずだから。
「施術は右足から行いますね」
 ある程度両足に元井さんの温度が伝わったところで、左足にタオルが巻かれた。
 いよいよ、本格的に施術が始まるみたいだ。
「むくみが一番強いので、関連する反射区は念入りに刺激させていただきます」
「わかりました。よろしくお願いします」
 むくみか……普段から仕事に忙殺されていたから、完全に放置していたな。
 完璧な女性だったら、こういうケアも万全なのだとは思うけど、私はそんなのに時間を使いたくはなかった。
 仕事から帰ってきたら家事をやらないといけなかった。まったく、誰かの世話焼きっていうのは、損をする一方だ。
 私は一生懸命働いて稼いで、それでいて家事もしっかりとこなさないといけない……そんな日々を送ってきた。
 自らのケアなんて二の次。じゃないと、あの人が野垂れ死んでしまう。
 あの人……ここに来たのも、私がこんな状態になっているのも、全てあの人のせい。
 元井さんの指の動きが一定のリズムだと理解した瞬間、私は元井さんに聞こえるくらいの大きさで「はぁー」とこぼれるような溜息をついてしまった。
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