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苦悩(※ギルフォード視点)

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 ジュリアと別れたギルフォードは衣装室に足を運んだ。
 考えるのはジュリアのこと。

 ――やっぱり見立てた通り、あいつによく似合っていたな。

 場違いに見とれてしまうなんて。
 クローゼットの扉に手をかける。そこに並んだのはドレス。
 あのドレスはきっと、セバスが気を利かせたのだろう。

 普段は余計なことをするなと言うが、今回ばかりはそんなことは言えない。
 一年に何着か、決まって作る。生地からデザインまで、ギルフォードが決める。
 決して着られることがない、ギルフォードの自己満足で、ただ肥やしになるためだけに作られるはずだと、思った。

 あれもこれも着て欲しい、と欲が膨れ上がる。
 皇太子の誕生日の時のように。
 ドレスを着て踊りたいという夢は叶った。
 でも、あいつにとってギルフォードの夢は迷惑なだけだろう。
 壊れてしまった耳飾りを外す。

 ――世の中はままならないな。幸福がきたと思ったら、不幸まできた。

 ぎゅっと手の中で握り締める。
 あの時の時間の、かけがえのない思い出。
 それが確かにに存在していたという証拠。

 まだ幼い頃のジュリア。普段は男みたいにズボン姿だったのに、ギルフォードの母親からお願いされて、赤いドレスを着ていた。

 目も、心も奪われた。いや、心は前からジュリアに奪われていたが、もう一度、奪われた。どんなに着飾った少女たちの姿も、ジュリアの前では色褪せた。

 父親にギルフォードと会うなと言われて何度も叱られて、部屋に閉じ込められたことだってあるのに抜け出して、それでもギルフォードに会いにきてくれた。
 今からは考えられないほど弱い魔力しか持ち合わせず、家族以外からは憐憫の眼差しと、嘲笑にさらされ、一人だったギルフォードのそばに寄り添い、光になってくれた。

『大丈夫。ギルなら絶対、最強の魔導士になれるよ! 私も最強の軍人になるし! 二人そろって、最強になろうよ!』

 誰に認められなくても構わない。ただ、ギルフォードを信じてくれた彼女の期待だけは裏切りたくなかった。
 今のギルフォードがあるのは、ジュリアのおかげだ。

『ギル、これあげるっ』

 そんなジュリアからもらった、手作りのプレゼント。
 過去のジュリアとの絆が切れてしまった、そんな気がして天を仰いだ。
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