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試練?
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食事を終えたオルシウスは書斎で、書類仕事を片付けていた。
ノックの音がして、オルシウスは動かしていたペンを止める。
「誰だ」
「私です」
ギルヴァの声。
「呼んでいない」
「コーヒーをお持ちいたしました」
「……入れ」
「失礼いたします」
仏頂面のギルヴァがコーヒーを手に持っているのは、シュールな絵だ。
「いつからメイド仕事まで、俺の秘書はするようになった?」
オルシウスはコーヒーを受け取りながら言った。
「食事時でのこと、聞きました」
「アニーからか?」
「左様です。些細なことも報告するように言いつけておりますから」
「で?」
オルシウスはコーヒーに口をつける。
「かなり威圧的な夕食を過ごされたようですね。食事をしながら、いびられるとは……。竜帝ともあろう御方がされることとは思えません」
「人聞きの悪いことを言うな。いびっているんじゃない。試練だ」
ギルヴァは思いっきりため息をもらす。
「なんだ」
「いいえ。オルシウス様のやり方に感銘を受けているだけでございます」
「嫌味を言うな。――あいつ、俺が叱りつけたら涙ぐんでいたからな。さすがは名家のお嬢様だ。呆れる」
「もうよろしいでしょう。毒の沼を見ても文句を言わず、ボロボロの家具や狭い部屋に入れても、文句一つ言わずに我慢なさっておいでです。そればかりか、ご自分で机の修理をされるとか」
それはオルシウスも正直、予想外だった。
お願いと聞いて真っ先に思いついたのは、もっと綺麗で広い部屋に変えてくれ、というものだ。
過去の妻候補の聖女たちがまっさきに望んだことだったから。
それが何を言うのかと思えば机のがたつきを直したいから大工道具と木材が欲しい、だなんて。
最初、何かの冗談かと思ったが、アニーによると大工道具と木材を持っていくと、早速修理をはじめたらしい。
アニーは「修理であれば下男にやらせればよろしいかと」と助言したらしいが、「これくらいであれば馴れてるから」と断り、実際、手際よく直してしまったらしい。
‘……これまでの聖女どもとは違うようだが……’
だからと言って妻に相応しいということにはならないが。
「十分、試練に耐えたのではありませんか?」
「ギルヴァ、お前は甘いな。この程度、耐えたうちに入るか」
「では?」
「明日も引き続き、おこなう」
「次は何を?」
「領民に会わせる」
ギルヴァの眉間にシワが刻まれた。
「これが最も重要なことだ。俺の領民を愛せない者は、たとえどれほどの聖女の力を有していたとしても妻には迎えられない」
「……それは時期尚早では? もっと領地を知ってからでも遅くは……」
「音を上げると思っているのだろう。他の聖女どもも領民を見た途端、不愉快な顔を隠そうともしなかったからな」
「陛下……」
「もう決めたことだ。いいな」
「…………」
「ギルヴァ。これは竜帝としての判断だ」
「かしこまりました」
ギルヴァはため息まじりに呟いた。
ノックの音がして、オルシウスは動かしていたペンを止める。
「誰だ」
「私です」
ギルヴァの声。
「呼んでいない」
「コーヒーをお持ちいたしました」
「……入れ」
「失礼いたします」
仏頂面のギルヴァがコーヒーを手に持っているのは、シュールな絵だ。
「いつからメイド仕事まで、俺の秘書はするようになった?」
オルシウスはコーヒーを受け取りながら言った。
「食事時でのこと、聞きました」
「アニーからか?」
「左様です。些細なことも報告するように言いつけておりますから」
「で?」
オルシウスはコーヒーに口をつける。
「かなり威圧的な夕食を過ごされたようですね。食事をしながら、いびられるとは……。竜帝ともあろう御方がされることとは思えません」
「人聞きの悪いことを言うな。いびっているんじゃない。試練だ」
ギルヴァは思いっきりため息をもらす。
「なんだ」
「いいえ。オルシウス様のやり方に感銘を受けているだけでございます」
「嫌味を言うな。――あいつ、俺が叱りつけたら涙ぐんでいたからな。さすがは名家のお嬢様だ。呆れる」
「もうよろしいでしょう。毒の沼を見ても文句を言わず、ボロボロの家具や狭い部屋に入れても、文句一つ言わずに我慢なさっておいでです。そればかりか、ご自分で机の修理をされるとか」
それはオルシウスも正直、予想外だった。
お願いと聞いて真っ先に思いついたのは、もっと綺麗で広い部屋に変えてくれ、というものだ。
過去の妻候補の聖女たちがまっさきに望んだことだったから。
それが何を言うのかと思えば机のがたつきを直したいから大工道具と木材が欲しい、だなんて。
最初、何かの冗談かと思ったが、アニーによると大工道具と木材を持っていくと、早速修理をはじめたらしい。
アニーは「修理であれば下男にやらせればよろしいかと」と助言したらしいが、「これくらいであれば馴れてるから」と断り、実際、手際よく直してしまったらしい。
‘……これまでの聖女どもとは違うようだが……’
だからと言って妻に相応しいということにはならないが。
「十分、試練に耐えたのではありませんか?」
「ギルヴァ、お前は甘いな。この程度、耐えたうちに入るか」
「では?」
「明日も引き続き、おこなう」
「次は何を?」
「領民に会わせる」
ギルヴァの眉間にシワが刻まれた。
「これが最も重要なことだ。俺の領民を愛せない者は、たとえどれほどの聖女の力を有していたとしても妻には迎えられない」
「……それは時期尚早では? もっと領地を知ってからでも遅くは……」
「音を上げると思っているのだろう。他の聖女どもも領民を見た途端、不愉快な顔を隠そうともしなかったからな」
「陛下……」
「もう決めたことだ。いいな」
「…………」
「ギルヴァ。これは竜帝としての判断だ」
「かしこまりました」
ギルヴァはため息まじりに呟いた。
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