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出会いの宴(4)※
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マリアに覆い被さっていた男――ニオイスがはっと顔を上げるや踵《きびす》を返そうとしたが、ジクムントは逃さなかった。
飛びかかるや地面に押さえつける。それでも足掻く男の背中に膝を押しつける。
「……何で、こんなに早く、ここが……」
ニオイスは顔を青ざめさせながら言う。
「お前みたいな変態がこの城内にどれほど出入りし続けていたと思っている? お前のような下等な人間の考えはすぐに分かるっ!」
背中を圧迫する膝に力を入れると、ニオイスは悲鳴を上げる。
ジクムントは手早くニオイスの両腕両足を拘束すると、東屋《あずまや》のテーブルの天板《てんばん》に乗せられていたマリアの元に駆け寄った。
「大丈夫か、マリアっ!」
ジクムントは声を上げた。
「ジーク……様……」
そう呟いたかと思えば、マリアは力をなく目をつむる。
「マリアっ!?」
すぐに首に指を当てる。
少し早いが、脈はあった。
ジクムントはどうにか冷静を保ち、振り返る。
ニオイスは縛《いまし》めから逃れようと尚も、藻掻き続けている。
「すぐに兵が来る。それまで短い自由を味わえ。もう二度とそれをお前が愉しむことはないんだからな」
ジクムントは気絶していたマリアを抱き上げた。
※
次にマリアの意識が戻ると、寝台の上に寝かされている自分に気付いた。
まだ薬の影響があるせいか意識が朦朧《もうろう》として、身体には火照りが残っている。
(ジーク様が? あれは、夢?)
何もかもが判然としなかった。
もし夢だとしたら自分はまだあの変質者の支配下にあるのか。
どうにか起き上がろうと身動いだ。
ベッドがギシッと軋んだ。
今の音であの変質者に気付かれた――目をぎゅっと閉じ、身を強張らせる。
「マリア。起きたか」
しかしかけられた声はニオイスのものではなかった。
恐る恐る目を開き、首を動かす。
そこにいたのは、金髪紅眼の美丈夫。
「……へ、陛下」
「ジークで良い」
ジクムントはベッドの縁に腰かける。
「……ジーク様」
「危ないところだった。もう少し遅れていたら……」
ジクムントはマリアがここにいることをそもそも不思議に思ってはいないようだった。
「あの、私は」
「事情はヨハンから聞いている。俺の為に参ってくれたと……。全く、あいつもあいつだ。そうであればさっさと言えば良いんだ。それなのにいつまでももったいぶるようなことを……。こっちがどれだけ気を揉んだと……」
「え?」
「何でも無い。こちらのことだ」
「ジーク様にどれほど尽くせるかは分かりませんでしたが、出来ることがあればしたいと思い……」
「その話はまた後だ。それよりも加減はどうだ? さっきよりも顔色が良いように見えるが」
頬をそっと撫でられた瞬間、マリアは全身に鋭い痺れを覚え、「ぁンっ!」と甘い声を挙げてしまう。
「マリア、大丈夫かっ」
ジクムントが顔を覗き込んでくる。
掘り深い精悍な顔立ち、切れ長の双眸《そうぼう》、その奥にある澄んだ虹彩が迫る。
三年前よりもずっと大人びた、彫りの深い顔立ち。
同じ整っていると言ってもニオイスのように浮ついたものがなく、不用意に近づけばたちまち斬りつけられる鋭さがある。
マリアの鼓動が早鐘を打つ。
「マリア……」
「ジーク、様っ」
ジクムントに抱きしめられた。
呼吸するたび、かすかな汗の香りが鼻腔をくすぐる。
(ジーク様の、におい)
濃密な彼の香りに頭がクラクラしてしまう。
汗を額に滲ませ、涙ぐんだマリアを前にジクムントは何かに気付いたらしい。
「あいつに薬を飲まされたのか。そうなんだな」
マリアは小さくうなずく。
「……侍医から話は聞いていた。もし薬を飲まされていたら、抜けるのに時間がかかるだろう、と」
マリアは肩で息をしながら小刻みに震えている。
身体の底でくすぶる懊悩《おうのう》の火種が、ジクムントが間近にいることで大きくなってしまう。
「侍医が言っていた。薬を飲まされていた場合は、速やかにそれを鎮めれば良いと」
一瞬、ジクムントの目に光がはしるや、マリアの唇を奪われた。
「んんっ……」
(ジーク様!?)
今、自分に起きていることが信じられなかった。
しかし紛れもない現実だ。
唇を塞《ふさ》がれながら身体をまさぐられる。
ニオイスに触れられた時にはあれほど嫌悪感を覚えたというのに今は違った。
触れられるだけで身体が過敏に震え、疼いてしまう。
「あぁっ、ジーク様っ」
舌がするりと唇を割ってくる。
歯列を追しのけ、優しく口内をまさぐられた。
とろとろした唾液を掻き混ぜられ、マリアは身動ぐ。
こんな口づけは夢にすら見たことがない。
とても生々しく、動物的なものだと思った。
なのに、自然とマリアの舌も一緒になってうねり、絡めあう。
優しく舌先を触れあわせ、擦らせ合った。
淫靡な水音がクチュクチュと唇の狭間で跳ねる。
(私、なんていやらしいことをっ)
そう思ってもやめられなかった。
舌を優しく吸われ、そっと噛みされる。
ジクムントの身体に自分の肉体がゆっくりと呑み込まれていく、そんな錯覚をしてしまう。
ジクムントの逞しい肩に手を置き、ぎゅっとしがみつく。
衣服を脱がされ、一糸まとわぬ姿にされてしまう。
「っ」
「怖いか?」
「い、いえ……」
マリアは目元を染め、うつむいた。
顎《あご》をそっと持ち上げられ再び唇を求められる。
胸を隠そうとする腕をとられ、男性の硬い手の平で優しく包みこまれた。
「あぁっ……」
胸の先端を優しく抓まれ扱かれ、マリアは身体を弾ませてしまう。
「悪い。強くし過ぎたな」
「……違います。そうではありません……」
「そうか。なら続けるぞ」
ジクムントは右乳首にそっと口づけを落とす。
「あんっ!」
恥ずかしい声を抑えたいと思い、唇を噛みしめてみても、嬌声をこらえきれない。
「マリア、綺麗だ」
「分かりませんっ……そ、そのようなことを、言われても……」
マリアは半ば息を喘がせながら呟く。
「恥ずかしがるな。自信を持て」
(そんなことを言われても……)
ジクムントは乳頭を口に含み、吸い立てた。
「ん!」
悦びが閃《ひらめ》き、ベッドを激しく揺らしてしまう。
胸の輪郭が歪むくらい指を食い込まされても痛みはないどころか、身体が勝手にもっとと求める。
ジクムントはマリアの胸を右手で弄びながら、左手は腰をなぞるように這わせ、両脚の付け根に到らせる。
「ジーク様ぁっ」
マリアは動揺に声を上擦らせてしまう。
それは驚きもあるが、それ以上はやめて欲しいという感情があった。
嫌なのではない。
一線を越えて欲しく無いという懇願にも似た気持ちがあった。
マリアは実感する。
自分の身体がジクムントの入念な愛撫によってどれだけ発情してしまっているかということを。
秘部は今やぐっしょりと濡れそぼち、一刻も早く触れて欲しいという欲望を露骨にしてしまっていた。
それがマリアの肉体の自然な反応なのか、それとも薬によって過剰になった結果なのか
は分からない――そんなことはどうでも良いこと。
ただマリアは自分の牝の部分をジクムントに知って欲しくなかったのだ。
この国の頂きに立つ人の聖なる肉体を、自分のような田舎貴族の身体で汚したくなかった。
だがマリアの祈りにも似た気持ちは通らない。
ジクムントは太腿を撫で、そのまま蜜処に触れたのだ。
「ああッ……ジーク様っ、お、おやめ下さい、それ以上はお許し下さい……っ」
マリアは自分の声に甘い色香が滲むのを意識しながらも、懸命に言葉を紡ぐ。
「なぜだ」
ジクムントは真剣な眼差しで問うてくる。
「それは、私が今、とても穢らわしい状態になってしまっているからでございます。ジーク様の聖体を汚して……」
「お前が穢らわしいというのならば、この世の女はみんな、ごみ溜めだ。お前は清らかだ。俺がそう思うのでは駄目か」
「い、いえ……」
ジクムントは胸から口を離す。
妙な寂寥《せきりょう》感に包まれ、「ぁ」と意識せず、物欲しげな声がこぼれてしまう。
はっとするがジクムントにはどうやら気付かれていなかったようだが……そんなことはすぐにどうでも良くなってしまう。
ジクムントは顔を、濡れそぼる陰部に寄せてきたのだ。
「ジーク様。そんなところ……いけません……ンッ!!」
敏感になっている部分を舌でなぞられ、マリアは戸惑う。
熱い刺激がじわじわと身体に広がった。
「駄目だ。こうしなければお前の苦しみは長引くだけだ」
ジクムントは恥蕾に口づけをする。
「ぁああん!」
マリアは涙目でジクムントの頭を押さえてしまうが、押しのけることは出来ない。
その間に若き王は貪るように秘処を刺激してくる。
マリアは飴《あめ》色の毛先を跳ね上げ、仰け反ってしまう。
ジクムントの口遣いは巧みで、性に疎《うと》いマリアはなすすべもなく翻弄された。
こんなにも自分の肉体はいやらしかったのかと思わずにはいられないほど、刺激を受けてこぼれる淫水が、ジクムントの顔を汚してしまう。
身体が強ばり、込み上げる熱情が脳裏を真っ赤にする。
「あああ、駄目っ……です……い、いやあぁ……」
マリアは呆気なく達せられてしまう。
頭が真っ白に塗り潰され、瞬きすると頬を温かな涙が伝う。
身体がビクビクと痙攣してしまう。
呼吸もうまく出来ず、長い硬直の後に脱力したマリアは柳眉をひそめた。
「マリア、平気か?」
ジクムントの息遣いを恥ずかしい場所で感じている。
なのに、今こうしてマリアを覆い尽くしている陶酔感がジクムントから与えられたものだと思うと心地よかった。
ジクムントは「いくぞ」と続ける。
「ジーク様、少し休ませて……あぁっ!」
しかしジクムントはやめなかった。
マリアの蕩けた秘裂の上部で息づく蕾を唇でやんわりと包んだ。
「あああんっ!」
敏感な部位を刺激され、マリアは煩悶する。
ジクムントの口内は熱かった。それこそ身体が溶けてしまいそうなほどに。
「ここはすごく蕩けている……いやらしい匂いを立たせている」
「ああ、おやめください」
マリアは嫌々と頭を振った。
しかしジクムントの口遣いは丁寧に、それでいて情け容赦なくなく発情した秘裂を舐り立てる。
まるで日溜まりにおいた氷のように身体が溶けていく。
これ以上、自分の淫らなところを知られたくない――いくらそう思っても駄目だった。
舌が粘膜を押しのけ、中に入ってくる。
花弁がびっくりしたようにきゅっと収縮した。
ジクムントはその分厚い舌で壁を叩き、天井をくすぐり、溢れ出る秘蜜を音を立てながら、しゃぶる。
「あああああん!」
(ジーク様が私のを……飲んで……)
その全てを独占しようとするかのように、音を立てて飲まれてしまう。
「もうこれ以上は、おやめ……くださいぃっ……」
頬を染め、マリアは泣きじゃくる。
しかしその顔かたちは傍から見れば喜悦を訴えているようにしか見えないくらい蕩けて
しまっている。
それでもマリアとしては十分深刻だと思っている。
卑猥な自分を目の当たりにされたら失望されると思った。
「何も恥ずかしがることはない。これはお前を癒やすのに必要なことなんだ」
ジクムントはおもむろに顔を上げた。
その唇は、マリアの身体よりこぼれた蜜でいやらしく光っている。
ジクムントは衣服を脱ぎ捨てる。
王としての豪奢な衣服の向こうから現れたのは、鍛え抜かれ、研ぎ澄まされた肉体。
幾つもの戦場を王自身が巡っているせいか、いくつかの浅い傷がその身体には刻まれていた。
それはマリアの知らないジークの姿である。
そして下着を脱ぎ落とせば、逞しいものが突き出される。
マリアははしたないと思いながら、鍛えられた肉体以上の存在感をもって目に飛び込んできたそれから目が離せなくなってしまう。
(あんなに……大きいものが、私の中に……)
性経験などあるはずもないマリアであったが、一応閨の作法は知っている。
もちろん男性の身体についても。
しかしこうして実際、男性がいきり立った姿を目の当たりにするのは初めてなのだ。
心臓が痛いほど高鳴り、身体の体温がさらに上昇する。
散々、彼によって慰め続けた秘部が甘く痺れ――ジクムントの裸身を前に昂奮してしまっているのだと自覚した。
「マリア、そろそろいくぞ。俺も正直我慢できなくなってきた」
ジクムントが身を乗り出し、マリアに覆い被さる。
「ジーク様!」
マリアははしたないことを口には出来ない代わりに、眼差しで「私もです」と訴える。
伝わったのかどうかは分からなかったが、ジクムントの力強い牡がぐっと股の間に潜り込んでくる衝撃が全身を貫く。
「んッ……!」
ヌルヌルに濡れそぼった隘路《あいろ》を、逞しい獣棹が押し入ってくる。
「ジーク様ぁっ」
ジークのそれは太く、漲《みなぎ》る。
とても普通の状況では受け容れることは出来なかっただろう。
そうしてマリアの中を満たす。
痛みは無かった。自分でも身構える暇も無いほどのはじめての交わりだった。
しかしそれよりも何よりもジクムントとの一体感を悦んでいた。
マリアはそこでようやく自分の想いを知る。
決してこれまで具体的に考えたことなどなかった。
ジクムントの傍にいたい。ジクムントの役に立ちたい。
そんな気持ちで王都まで来た。
だが、違う。違うのだ。
マリアが自分自身すら意識してこなかったが、ずっとこうしてジクムントと一つになりたかったのだ。
「ジーク様、私……幸せ、です……」
言葉がひとりでにこぼれ、手を伸ばす。
ジクムントの大きく分厚い指先に絡めとられる。
男の人の身体だと強く意識させられた。
「俺もだ。マリア。ずっと……こうして、お前と……こうなりたかった」
「ジーク様にそう思って頂けて幸せに、ございますっ」
大勢の女性にかけた言葉とは思いたくなかった。
今だけはそれを本当なのだと、この交わりは解毒のためだけではないのだと信じたかった。
ジクムントの眼差しの中には先程までとは異なり、爛々とした強い光が差す。
「動いても良いか」
「もちろんです、ジーク様」
ジクムントがゆっくりと腰を動かす。
それは自分の形にマリアを馴染ませるということもあるのだろうが、それ以上に剛直の形や硬さを教え込むようかのよう……マリアにはそう感じられた。
蜜穴に没すれば、雄棹の表面は体液をまとわりつかせて、ぬめぬめと輝く。
(あんなに大きなものが)
マリアは目を瞠らずにはいられなかった。
「ああっ」
自分の中をかきまぜられている。
接合部で水音が爆ぜ、交わっている部分が火傷してしまいそうなくらい滾《たぎ》る。
ジクムントの手が胸を握りしめる。
強い力だったが、ジクムントに好き勝手されているのだと思うとどんな刺激も恍惚としたものだった。
「マリアっ」
ジクムントは腹の底から声を上げ、マリアの可憐な唇を貪る。
さっきのように花弁の一枚一枚を優しくほぐすようなものとは違う。
もっと直情的で、荒々しいものだった。
唾液を飲まれる。
口内を蹂躙《じゅうりん》され、息が苦しくなる。
しかしその分、ジクムントの欲望が染みいってくるようで嬉しかった。
ジクムントに身を捧げられるほどの至福などこの世にはない。
腰が打ち付けられ、寝台の軋みが大きく、間断ないものになる。
「俺がお前を守る。もう誰にも手出しはさせない」
「ジーク様……!」
腰の動きががむしゃらなものに変わる。
力では無く、ジクムントの全てが押し寄せてくるような息も吐かせぬ抽送。
「んっ! んぁっ! ぁあんっ! ぁああ……っ!」
打ち付ける肉の塊が溢れるマリアの体液を潤滑油に激しく、肉の壁を削ぐように行きつ戻りつする。
どこまでも深く抉《えぐ》られてしまう。
「お前の身体が俺を締め付けてとまらないぞっ」
ジクムントは感に堪《た》えないという風に呟く。
「そんなこと、仰らないでくださいっ」
マリアは敷布《シーツ》を掴み、こみあげる激情に白い喉を反らせる。
激しく動くジクムントの身体に滲んだ汗が滴り落ちる。
猛々しく身体を重ねることでそれが塗り広げられ、ジクムントの香りに包まれた。
激情に囚われ、何も考えられなくなってしまう。
「ああぁ、ジーク様、もう、私っ」
「俺も……。マリア、一緒に、だぞ」
それは命令のようにも懇願にも聞こえた。
汗でヌルヌルの手の平を重ね合わせ、二人はある一点を目指して駆け上がっていく。
深奥まで抉り抜く男根が大きさを増した。
「駄目ですっ、ごめんなさい、ジーク様……もう……っ!」
こらえることも出来ずマリアは乱れる。
「マリアッ!」
「あああ、ジーク様ッ……あああ、だめえッ……っ」
マリアは啜り泣きながら感極まった。
刹那、お腹の奥めがけ熱い飛沫が迸る。
「あああぁぁぁぁぁ……」
マリアは身も世も無くなり果ててしまう。
ドクンドクン……と体内深くに没している、牡の象徴が激しく戦慄いていた。
「マリア」
熱く湿った溜息まじりにジクムントが囁いてきた。
「ジーク様……」
マリアは息も絶え絶えに呟く。
「とても良かったぞ。お前の、心地は」
そんな直接的なことを面と向かって言われて、マリアはどう返答すれば良いのか分から
ず目を伏せてしまう。
ジクムントは答えを求めていなかったのか、何も言わずに逞しいその腕で痙攣に戦慄く
マリアを抱きしめる。
汗と熱気をまとった引き締まった身体は驚くほどに熱かった。
しかしその熱が、マリアからすればとても居心地の良いものに思えた。
「俺のそばにいてくれ」
ジクムントは聞こえるか聞こえないかの声で言うと、そっと唇を合わせてくる。
ほんのり汗の味がした。
飛びかかるや地面に押さえつける。それでも足掻く男の背中に膝を押しつける。
「……何で、こんなに早く、ここが……」
ニオイスは顔を青ざめさせながら言う。
「お前みたいな変態がこの城内にどれほど出入りし続けていたと思っている? お前のような下等な人間の考えはすぐに分かるっ!」
背中を圧迫する膝に力を入れると、ニオイスは悲鳴を上げる。
ジクムントは手早くニオイスの両腕両足を拘束すると、東屋《あずまや》のテーブルの天板《てんばん》に乗せられていたマリアの元に駆け寄った。
「大丈夫か、マリアっ!」
ジクムントは声を上げた。
「ジーク……様……」
そう呟いたかと思えば、マリアは力をなく目をつむる。
「マリアっ!?」
すぐに首に指を当てる。
少し早いが、脈はあった。
ジクムントはどうにか冷静を保ち、振り返る。
ニオイスは縛《いまし》めから逃れようと尚も、藻掻き続けている。
「すぐに兵が来る。それまで短い自由を味わえ。もう二度とそれをお前が愉しむことはないんだからな」
ジクムントは気絶していたマリアを抱き上げた。
※
次にマリアの意識が戻ると、寝台の上に寝かされている自分に気付いた。
まだ薬の影響があるせいか意識が朦朧《もうろう》として、身体には火照りが残っている。
(ジーク様が? あれは、夢?)
何もかもが判然としなかった。
もし夢だとしたら自分はまだあの変質者の支配下にあるのか。
どうにか起き上がろうと身動いだ。
ベッドがギシッと軋んだ。
今の音であの変質者に気付かれた――目をぎゅっと閉じ、身を強張らせる。
「マリア。起きたか」
しかしかけられた声はニオイスのものではなかった。
恐る恐る目を開き、首を動かす。
そこにいたのは、金髪紅眼の美丈夫。
「……へ、陛下」
「ジークで良い」
ジクムントはベッドの縁に腰かける。
「……ジーク様」
「危ないところだった。もう少し遅れていたら……」
ジクムントはマリアがここにいることをそもそも不思議に思ってはいないようだった。
「あの、私は」
「事情はヨハンから聞いている。俺の為に参ってくれたと……。全く、あいつもあいつだ。そうであればさっさと言えば良いんだ。それなのにいつまでももったいぶるようなことを……。こっちがどれだけ気を揉んだと……」
「え?」
「何でも無い。こちらのことだ」
「ジーク様にどれほど尽くせるかは分かりませんでしたが、出来ることがあればしたいと思い……」
「その話はまた後だ。それよりも加減はどうだ? さっきよりも顔色が良いように見えるが」
頬をそっと撫でられた瞬間、マリアは全身に鋭い痺れを覚え、「ぁンっ!」と甘い声を挙げてしまう。
「マリア、大丈夫かっ」
ジクムントが顔を覗き込んでくる。
掘り深い精悍な顔立ち、切れ長の双眸《そうぼう》、その奥にある澄んだ虹彩が迫る。
三年前よりもずっと大人びた、彫りの深い顔立ち。
同じ整っていると言ってもニオイスのように浮ついたものがなく、不用意に近づけばたちまち斬りつけられる鋭さがある。
マリアの鼓動が早鐘を打つ。
「マリア……」
「ジーク、様っ」
ジクムントに抱きしめられた。
呼吸するたび、かすかな汗の香りが鼻腔をくすぐる。
(ジーク様の、におい)
濃密な彼の香りに頭がクラクラしてしまう。
汗を額に滲ませ、涙ぐんだマリアを前にジクムントは何かに気付いたらしい。
「あいつに薬を飲まされたのか。そうなんだな」
マリアは小さくうなずく。
「……侍医から話は聞いていた。もし薬を飲まされていたら、抜けるのに時間がかかるだろう、と」
マリアは肩で息をしながら小刻みに震えている。
身体の底でくすぶる懊悩《おうのう》の火種が、ジクムントが間近にいることで大きくなってしまう。
「侍医が言っていた。薬を飲まされていた場合は、速やかにそれを鎮めれば良いと」
一瞬、ジクムントの目に光がはしるや、マリアの唇を奪われた。
「んんっ……」
(ジーク様!?)
今、自分に起きていることが信じられなかった。
しかし紛れもない現実だ。
唇を塞《ふさ》がれながら身体をまさぐられる。
ニオイスに触れられた時にはあれほど嫌悪感を覚えたというのに今は違った。
触れられるだけで身体が過敏に震え、疼いてしまう。
「あぁっ、ジーク様っ」
舌がするりと唇を割ってくる。
歯列を追しのけ、優しく口内をまさぐられた。
とろとろした唾液を掻き混ぜられ、マリアは身動ぐ。
こんな口づけは夢にすら見たことがない。
とても生々しく、動物的なものだと思った。
なのに、自然とマリアの舌も一緒になってうねり、絡めあう。
優しく舌先を触れあわせ、擦らせ合った。
淫靡な水音がクチュクチュと唇の狭間で跳ねる。
(私、なんていやらしいことをっ)
そう思ってもやめられなかった。
舌を優しく吸われ、そっと噛みされる。
ジクムントの身体に自分の肉体がゆっくりと呑み込まれていく、そんな錯覚をしてしまう。
ジクムントの逞しい肩に手を置き、ぎゅっとしがみつく。
衣服を脱がされ、一糸まとわぬ姿にされてしまう。
「っ」
「怖いか?」
「い、いえ……」
マリアは目元を染め、うつむいた。
顎《あご》をそっと持ち上げられ再び唇を求められる。
胸を隠そうとする腕をとられ、男性の硬い手の平で優しく包みこまれた。
「あぁっ……」
胸の先端を優しく抓まれ扱かれ、マリアは身体を弾ませてしまう。
「悪い。強くし過ぎたな」
「……違います。そうではありません……」
「そうか。なら続けるぞ」
ジクムントは右乳首にそっと口づけを落とす。
「あんっ!」
恥ずかしい声を抑えたいと思い、唇を噛みしめてみても、嬌声をこらえきれない。
「マリア、綺麗だ」
「分かりませんっ……そ、そのようなことを、言われても……」
マリアは半ば息を喘がせながら呟く。
「恥ずかしがるな。自信を持て」
(そんなことを言われても……)
ジクムントは乳頭を口に含み、吸い立てた。
「ん!」
悦びが閃《ひらめ》き、ベッドを激しく揺らしてしまう。
胸の輪郭が歪むくらい指を食い込まされても痛みはないどころか、身体が勝手にもっとと求める。
ジクムントはマリアの胸を右手で弄びながら、左手は腰をなぞるように這わせ、両脚の付け根に到らせる。
「ジーク様ぁっ」
マリアは動揺に声を上擦らせてしまう。
それは驚きもあるが、それ以上はやめて欲しいという感情があった。
嫌なのではない。
一線を越えて欲しく無いという懇願にも似た気持ちがあった。
マリアは実感する。
自分の身体がジクムントの入念な愛撫によってどれだけ発情してしまっているかということを。
秘部は今やぐっしょりと濡れそぼち、一刻も早く触れて欲しいという欲望を露骨にしてしまっていた。
それがマリアの肉体の自然な反応なのか、それとも薬によって過剰になった結果なのか
は分からない――そんなことはどうでも良いこと。
ただマリアは自分の牝の部分をジクムントに知って欲しくなかったのだ。
この国の頂きに立つ人の聖なる肉体を、自分のような田舎貴族の身体で汚したくなかった。
だがマリアの祈りにも似た気持ちは通らない。
ジクムントは太腿を撫で、そのまま蜜処に触れたのだ。
「ああッ……ジーク様っ、お、おやめ下さい、それ以上はお許し下さい……っ」
マリアは自分の声に甘い色香が滲むのを意識しながらも、懸命に言葉を紡ぐ。
「なぜだ」
ジクムントは真剣な眼差しで問うてくる。
「それは、私が今、とても穢らわしい状態になってしまっているからでございます。ジーク様の聖体を汚して……」
「お前が穢らわしいというのならば、この世の女はみんな、ごみ溜めだ。お前は清らかだ。俺がそう思うのでは駄目か」
「い、いえ……」
ジクムントは胸から口を離す。
妙な寂寥《せきりょう》感に包まれ、「ぁ」と意識せず、物欲しげな声がこぼれてしまう。
はっとするがジクムントにはどうやら気付かれていなかったようだが……そんなことはすぐにどうでも良くなってしまう。
ジクムントは顔を、濡れそぼる陰部に寄せてきたのだ。
「ジーク様。そんなところ……いけません……ンッ!!」
敏感になっている部分を舌でなぞられ、マリアは戸惑う。
熱い刺激がじわじわと身体に広がった。
「駄目だ。こうしなければお前の苦しみは長引くだけだ」
ジクムントは恥蕾に口づけをする。
「ぁああん!」
マリアは涙目でジクムントの頭を押さえてしまうが、押しのけることは出来ない。
その間に若き王は貪るように秘処を刺激してくる。
マリアは飴《あめ》色の毛先を跳ね上げ、仰け反ってしまう。
ジクムントの口遣いは巧みで、性に疎《うと》いマリアはなすすべもなく翻弄された。
こんなにも自分の肉体はいやらしかったのかと思わずにはいられないほど、刺激を受けてこぼれる淫水が、ジクムントの顔を汚してしまう。
身体が強ばり、込み上げる熱情が脳裏を真っ赤にする。
「あああ、駄目っ……です……い、いやあぁ……」
マリアは呆気なく達せられてしまう。
頭が真っ白に塗り潰され、瞬きすると頬を温かな涙が伝う。
身体がビクビクと痙攣してしまう。
呼吸もうまく出来ず、長い硬直の後に脱力したマリアは柳眉をひそめた。
「マリア、平気か?」
ジクムントの息遣いを恥ずかしい場所で感じている。
なのに、今こうしてマリアを覆い尽くしている陶酔感がジクムントから与えられたものだと思うと心地よかった。
ジクムントは「いくぞ」と続ける。
「ジーク様、少し休ませて……あぁっ!」
しかしジクムントはやめなかった。
マリアの蕩けた秘裂の上部で息づく蕾を唇でやんわりと包んだ。
「あああんっ!」
敏感な部位を刺激され、マリアは煩悶する。
ジクムントの口内は熱かった。それこそ身体が溶けてしまいそうなほどに。
「ここはすごく蕩けている……いやらしい匂いを立たせている」
「ああ、おやめください」
マリアは嫌々と頭を振った。
しかしジクムントの口遣いは丁寧に、それでいて情け容赦なくなく発情した秘裂を舐り立てる。
まるで日溜まりにおいた氷のように身体が溶けていく。
これ以上、自分の淫らなところを知られたくない――いくらそう思っても駄目だった。
舌が粘膜を押しのけ、中に入ってくる。
花弁がびっくりしたようにきゅっと収縮した。
ジクムントはその分厚い舌で壁を叩き、天井をくすぐり、溢れ出る秘蜜を音を立てながら、しゃぶる。
「あああああん!」
(ジーク様が私のを……飲んで……)
その全てを独占しようとするかのように、音を立てて飲まれてしまう。
「もうこれ以上は、おやめ……くださいぃっ……」
頬を染め、マリアは泣きじゃくる。
しかしその顔かたちは傍から見れば喜悦を訴えているようにしか見えないくらい蕩けて
しまっている。
それでもマリアとしては十分深刻だと思っている。
卑猥な自分を目の当たりにされたら失望されると思った。
「何も恥ずかしがることはない。これはお前を癒やすのに必要なことなんだ」
ジクムントはおもむろに顔を上げた。
その唇は、マリアの身体よりこぼれた蜜でいやらしく光っている。
ジクムントは衣服を脱ぎ捨てる。
王としての豪奢な衣服の向こうから現れたのは、鍛え抜かれ、研ぎ澄まされた肉体。
幾つもの戦場を王自身が巡っているせいか、いくつかの浅い傷がその身体には刻まれていた。
それはマリアの知らないジークの姿である。
そして下着を脱ぎ落とせば、逞しいものが突き出される。
マリアははしたないと思いながら、鍛えられた肉体以上の存在感をもって目に飛び込んできたそれから目が離せなくなってしまう。
(あんなに……大きいものが、私の中に……)
性経験などあるはずもないマリアであったが、一応閨の作法は知っている。
もちろん男性の身体についても。
しかしこうして実際、男性がいきり立った姿を目の当たりにするのは初めてなのだ。
心臓が痛いほど高鳴り、身体の体温がさらに上昇する。
散々、彼によって慰め続けた秘部が甘く痺れ――ジクムントの裸身を前に昂奮してしまっているのだと自覚した。
「マリア、そろそろいくぞ。俺も正直我慢できなくなってきた」
ジクムントが身を乗り出し、マリアに覆い被さる。
「ジーク様!」
マリアははしたないことを口には出来ない代わりに、眼差しで「私もです」と訴える。
伝わったのかどうかは分からなかったが、ジクムントの力強い牡がぐっと股の間に潜り込んでくる衝撃が全身を貫く。
「んッ……!」
ヌルヌルに濡れそぼった隘路《あいろ》を、逞しい獣棹が押し入ってくる。
「ジーク様ぁっ」
ジークのそれは太く、漲《みなぎ》る。
とても普通の状況では受け容れることは出来なかっただろう。
そうしてマリアの中を満たす。
痛みは無かった。自分でも身構える暇も無いほどのはじめての交わりだった。
しかしそれよりも何よりもジクムントとの一体感を悦んでいた。
マリアはそこでようやく自分の想いを知る。
決してこれまで具体的に考えたことなどなかった。
ジクムントの傍にいたい。ジクムントの役に立ちたい。
そんな気持ちで王都まで来た。
だが、違う。違うのだ。
マリアが自分自身すら意識してこなかったが、ずっとこうしてジクムントと一つになりたかったのだ。
「ジーク様、私……幸せ、です……」
言葉がひとりでにこぼれ、手を伸ばす。
ジクムントの大きく分厚い指先に絡めとられる。
男の人の身体だと強く意識させられた。
「俺もだ。マリア。ずっと……こうして、お前と……こうなりたかった」
「ジーク様にそう思って頂けて幸せに、ございますっ」
大勢の女性にかけた言葉とは思いたくなかった。
今だけはそれを本当なのだと、この交わりは解毒のためだけではないのだと信じたかった。
ジクムントの眼差しの中には先程までとは異なり、爛々とした強い光が差す。
「動いても良いか」
「もちろんです、ジーク様」
ジクムントがゆっくりと腰を動かす。
それは自分の形にマリアを馴染ませるということもあるのだろうが、それ以上に剛直の形や硬さを教え込むようかのよう……マリアにはそう感じられた。
蜜穴に没すれば、雄棹の表面は体液をまとわりつかせて、ぬめぬめと輝く。
(あんなに大きなものが)
マリアは目を瞠らずにはいられなかった。
「ああっ」
自分の中をかきまぜられている。
接合部で水音が爆ぜ、交わっている部分が火傷してしまいそうなくらい滾《たぎ》る。
ジクムントの手が胸を握りしめる。
強い力だったが、ジクムントに好き勝手されているのだと思うとどんな刺激も恍惚としたものだった。
「マリアっ」
ジクムントは腹の底から声を上げ、マリアの可憐な唇を貪る。
さっきのように花弁の一枚一枚を優しくほぐすようなものとは違う。
もっと直情的で、荒々しいものだった。
唾液を飲まれる。
口内を蹂躙《じゅうりん》され、息が苦しくなる。
しかしその分、ジクムントの欲望が染みいってくるようで嬉しかった。
ジクムントに身を捧げられるほどの至福などこの世にはない。
腰が打ち付けられ、寝台の軋みが大きく、間断ないものになる。
「俺がお前を守る。もう誰にも手出しはさせない」
「ジーク様……!」
腰の動きががむしゃらなものに変わる。
力では無く、ジクムントの全てが押し寄せてくるような息も吐かせぬ抽送。
「んっ! んぁっ! ぁあんっ! ぁああ……っ!」
打ち付ける肉の塊が溢れるマリアの体液を潤滑油に激しく、肉の壁を削ぐように行きつ戻りつする。
どこまでも深く抉《えぐ》られてしまう。
「お前の身体が俺を締め付けてとまらないぞっ」
ジクムントは感に堪《た》えないという風に呟く。
「そんなこと、仰らないでくださいっ」
マリアは敷布《シーツ》を掴み、こみあげる激情に白い喉を反らせる。
激しく動くジクムントの身体に滲んだ汗が滴り落ちる。
猛々しく身体を重ねることでそれが塗り広げられ、ジクムントの香りに包まれた。
激情に囚われ、何も考えられなくなってしまう。
「ああぁ、ジーク様、もう、私っ」
「俺も……。マリア、一緒に、だぞ」
それは命令のようにも懇願にも聞こえた。
汗でヌルヌルの手の平を重ね合わせ、二人はある一点を目指して駆け上がっていく。
深奥まで抉り抜く男根が大きさを増した。
「駄目ですっ、ごめんなさい、ジーク様……もう……っ!」
こらえることも出来ずマリアは乱れる。
「マリアッ!」
「あああ、ジーク様ッ……あああ、だめえッ……っ」
マリアは啜り泣きながら感極まった。
刹那、お腹の奥めがけ熱い飛沫が迸る。
「あああぁぁぁぁぁ……」
マリアは身も世も無くなり果ててしまう。
ドクンドクン……と体内深くに没している、牡の象徴が激しく戦慄いていた。
「マリア」
熱く湿った溜息まじりにジクムントが囁いてきた。
「ジーク様……」
マリアは息も絶え絶えに呟く。
「とても良かったぞ。お前の、心地は」
そんな直接的なことを面と向かって言われて、マリアはどう返答すれば良いのか分から
ず目を伏せてしまう。
ジクムントは答えを求めていなかったのか、何も言わずに逞しいその腕で痙攣に戦慄く
マリアを抱きしめる。
汗と熱気をまとった引き締まった身体は驚くほどに熱かった。
しかしその熱が、マリアからすればとても居心地の良いものに思えた。
「俺のそばにいてくれ」
ジクムントは聞こえるか聞こえないかの声で言うと、そっと唇を合わせてくる。
ほんのり汗の味がした。
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