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第五章(7)※

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 父親の一件を彰が片付けてくれた一週間後、由季は彰のマンションにいた。もう父親の問題が解決している以上、自宅に戻っても問題なかったのだが、すっかり彰と一緒にいる生活から離れ難さを感じた。頭の中ではそろそろ戻ったほうが良いとは思うのだが、彼のいない部屋で過ごす寂しさに耐えられそうになかった。
 彰は『お前以外いらない』と言ってくれたけど、由季もまた彰以外の誰もいらないと思っていた。
 今は彰のマンションのリビングで仕事をしていた。その時、スマホがメッセージの着信を知らせる。彰からだった。

『今日は外で食事をしたいんだけど大丈夫か?』
『大丈夫。どこで食べるの?』
『ホテル。この間、買ったドレスを着てきて』

 そんなメッセージと一緒に、ホテルの住所、そしてすでに予約を取ってあるからとパーティーの時に出向いた美容院の予約時刻まで送られてきた。
 ――用意が良いのね。
 数日前から仕事の調子を聞かれて落ち着いていると言ったからこそのお誘いなのだろうけど。由季はキリのいいところまで仕事を仕上げると、美容院へ向かう為に腰を上げた。



 美容院でのヘアアレンジとネイルを終えた頃、彰が迎えに来てくれた。由季を見た彰は目を細め、口元を緩める。

「すごく綺麗だ。ドレスもよく似合ってる」
「……あ、ありがとう。美容師さんの腕が……」
「もちろん腕が良いのは当然だけど、元が良いからな」
「そ、そんなことないから。もう、行こう」

 由季は恥ずかしくなって彰を促して外に出た。助手席に乗り込むと、車が走り出す。

「ホテルで食事って、良いことでもあったの?」
「……良いことか。これから、かな」

 なにか新規事業で展望でも見えたのだろうか。
 ホテルのエントランス前に車を停めて、ポーターにカギを渡してホテルへ。
 彰にエスコートをしてもらいながらエレベーターで二十五階にあるフロアに入っているフレンチレストランへ。視界を遮る柱がなく、高い天井ともあいまって開放的だ。
 ピアノの生演奏が流れる中、夜景をのぞむ窓際の席へ案内される。
 食前酒で乾杯し、前菜のきのこのテリーヌを食べる。
 夜景の素晴らしさを楽しみながらも、由季は目の前の彰が気になって仕方がなかった。 別に何か気になる仕草をしているわけではない。ただ、以前よりもさらに彼のことを強く意識してしまうのだ。 ――彰のこと、ますます好きになってる。
 父親の件を解決してくれた恩人。彼に対する強い信頼が、きっとそうさせるのだろう。

「どうした?」
「ううん、美味しいなって」
「気に入ってくれたなら良かった」
「こんな夜景に、美味しい料理、気に入らない人なんていないよ」

 そんな風に話に花を咲かせ、デザートまで食べきり、レストランを出た。
 エレベーターに乗り込むなり、彰が押したのはエントランスのある一階ではなく、五十五階。

「帰るんじゃないの?」
「部屋を取ってあるから」

 その優しくも、強い意志を感じさせる言葉に、由季はおずおずと頷いた。
 目的のフロアに到着すると彰は部屋をカードキーで開けて、由季を先に行かせてくれる。

「立ってないで、座れよ。大事な話がある」
「う、うん」

 由季がソファーに座ると、彰がその場で片膝を折った。
 彰は手の平ほどのケースを取り出し、開けた。そこには、シルバーリングにダイヤモンドのはまった指輪。

「……あ、彰」
「この世界の誰より幸せにする。だから結婚して欲しい」

 由季はこみあげるものを押さえようと下唇を噛んだ。

「由季?」
「うん、平気……大丈夫……。ただ嬉しくって、感極まっちゃったみたい」

 瞬きをすると、視界が涙で揺らぐ。
 声が上擦るけど、彼の真摯な想いに応えなきゃ。
 小さく咳払いをして、「彰、愛してるわ」と頷く。
 彰は端正な顔に品の良い笑みをたたえると、由季の左手の薬指に指輪をはめた。

 そしてどちらからともなく吸い寄せられるように口づけを交わす。
 触れあわせた唇同士がじんわりと熱を持つ。
 唇を離すと、由季はのぼせあがりそうなほどの顔の火照りを覚え、彰と目を合わせるのが恥ずかしくって、彼の胸に顔を埋めた。

「結婚式の要望はあるか? ウェディングドレスのこととか」
「結婚式は本当に親しい友だちと身内だけが良いの」
「分かった。俺も賑やかな式は好きじゃないからな。他に何か言っとくことはあるか?」
「あなたとこうしてもう一度会えて嬉しかった……」

 ありがとう、と由季は呟くと、顔に響くくらい彰の心臓が激しく脈打っていることに気づいて顔を上げた。

「心臓の音、すごいけど大丈夫!?」
「……大丈夫では、ないかもな」

 彰は目元を染め、濡れた瞳で見つめてくる。
 彰はスーツを乱暴にソファーの背に引っかけると、ネクタイも外す。
 その潤んだ瞳の奧に見える欲情の炎に、由季は見入られ、小さく息を呑んだ。

「ま、待って」
「髪が崩れないように気を付ける」
「違う。さ、先にお風呂に……」
「風呂に入りながらしたいってことか?」
「そ、そういう訳じゃ……」
「黙れ」
「んんっ」

 さっきよりも強く唇を押しつけられ、舌がねじこまれる。舌を搦めとられ、少し強めに吸われた。鈍い痛みと一緒に感じたのは、うなじの粟立つ、ぞくりという感覚。
 荒く熱い息が、由季の中に入り込んでくる。まるで熱に浮かされるように、何も考えられず、気付けば身を預けていた。
 口内を動き回る舌が敏感な部分を探り、執拗にくすぐる。
 くすぐったいのに、何度も繰り返されると息が上がり、彼の心に燃える欲情が伝染したみたいに、体が芯から燃え上がる。
 キスをされながら、イブニングドレスが脱がされ、下着一枚にされてしまう。
 ブラジャーを外す僅かな時間さえ惜しむように、ブラがずりあげられれば、双つのふくらみがこぼれでる。たっぷり口内を犯し、由季の涎を味わった彰は二人の唾液でぬめぬめと輝く唇を、ふくらみへ寄せた。

「……もう勃ってる」
「い、言わないで……ぁあ」

 優しく舌で練られるだけで、弾んだ声が漏れ、全身をびくんと反応させてしまう。
 舌と歯を器用に使い、頂きを刺激されてしまう。
 強く吸われると、とても声を我慢できなかった。
 彰はもっと聞かせて欲しいとねだるように、巧みな口遣いで刺激してくる。
 体が反応してしまうのを押さえきれず、彰の頭を抱えながら震えた。
 彰の大きく筋張った手が、パンツの中に入り込んでくる。

「んうッ」
「すごいな。ここ、もうビショビショになってる」
「い、言わなくても、良いでしょ……」

「教えてやらないと分からないだろ。俺ももう、痛すぎてやばい」
 いつもならもっと手順を踏むであろう彰はいてもたってもいられないと訴えるような、切なげな顔でうめく。
 そんな目顔で訴えられたら、下腹が切なげに戦慄くのをおさえられなかった。

「後ろ、向いて」

 由季はソファーの上に膝立ちになり、背もたれに手を置く。

「……ソファー、汚しちゃうかも」
「じゃあ、もっと尻を突き出せ」

 背後でベルトを外す硬い音を聞く。

「……もう、必要ないよな」

 何を、と問いかける必要もなかった。

「あっ」

 これまで二人の間にあった薄いゴムはもう存在しない。彰の楔をそのまま飲むこむ。

 ――いつも以上に、彰をはっきり感じる!

「ぐ……ぁあ……」

 腰がゆっくりと動き、肉槍が柔らかな襞を巻き込むように、深くまで押し入った。

「お前の中、すごく温かい……生でするの、ヤバ……」

 彰の声はかすかに震えていた。
 先端部が最奥まで届き、強く押し上げられた。

「ああ」

 頭が真っ白になる。

「イったのか」

 由季は肩で息をしながら小刻みに頷く。

「本当は収まるまで待っててやりたいけど……ぐ……気持ち良すぎて、無理だ」

 彰が腰を引く。下腹ごしにもはっきりと、雄々しいものが動くのが分かった。
 質量も存在感もある肉杭が蕩ける秘処へ焼き付けられるかのようだ。
 ――私の中に、こんなに大きいものが……。
 再び腰が進み、胎内をみっちりと埋め尽くされる。お尻に腰が当たるたび、生々しい音が弾けた。

「ぐ……ぁ……はあ……由季……すごい。お前のに飲み込まれて……ぁああ」
「の、飲み込ませてるの、彰でしょ……」
「そのはずなんだけどな……ぐぁ……ぁあ……」

 彰の悩ましい声。今、彼がどんな顔をしながら、由季を犯しているのか無性に見たくなり、我慢できずに振り返った。
 一糸まとわぬ筋肉が躍動するたび、彼は切なげで、泣き出しそうな顔をみせた。逞しく、男らしい色香を漂わせながら。その表情とのギャップにゾクゾクしてしまう。
 彰の言う通り、責められているのは由季なのに、表情だけ見れば、責めているような不思議な気分になった。

「由季……」

 彰が唇を奪う。腰を掴んでいた彼の手が、胸を鷲掴みにしてくる。
 反射的に締まり、彼の声が上擦った。
 彰は太い肉茎を、蠕動する柔肉へ馴染ませるように擦りつけ、奧を何度も突く。
 剥き出しの愛情をぶつけてくるような、貪るような激しい腰遣いだ。
 彼の腰に合わせ、ぬちゃぬちゃと卑猥な水音が二人の繋がっている場所からこぼれる。

「あっ、ぁあっ、彰!」
「ゆ、由季!」

 由季は乱れながら彰の舌を甘噛みし、吸い上げた。
 深い場所を往復している彰のものがビクンビクンと切なげに脈打つ。
 自分と彰の肉体の境界線が溶けあっていくような、恍惚とした気持ちに包まれる。
 彰の腰のうねりが余裕を失い、汗に濡れた乳房を揉みしだく指使いも乱暴になっていく。
 しかし快感に身を預けた由季は乱れ、彰からもたらされるもの全てを受け入れる。

「彰……私……もう、イく……んんん!」
「俺も……ぐ……う!」

 ゴムごしでは分からなかった、絶頂が近い肉槍の引き攣り具合と、膨張していく様が、同じく限界を迎えようとする由季の柔らかな場所に刻み込まれる。
 ドクン、と深い場所で弾けた。

 ――彰の、ドクドク脈打って……。

 直接、深い場所に注ぎ込まれる激情の証を、由季は全身を痙攣させながら受け止めた。 下腹へ、まとわりつくような熱気がじわじわと広がっていく。
 まるで由季の中で迸らせたものを馴染ませるように、腰をゆるやかに前後に動かし続ける。胸をまさぐっていた手からも力が抜ければ、まるで繋がりをほどくことを惜しむように、由季を抱きしめたまま、カーペットに寝転がる。さすがはスイートルームだけあって、踏むのがもったいないと思えるくらい肌触りが良い。特に一糸まとわぬ柔肌には特に。

「由季、愛してる……」
「私も」

 彰は由季の婚約指輪の輝く左手を包むように取ると、その指先に口づけを落とした。
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