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第四章(6)※

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 花火は午後八時から九時までの一時間。
 開始十分前に、由季は脱衣所へ向かった。
 籠に脱いだ服と下着を置き、浴槽へ。
 由季たちが留守にしている間、業者が入って風呂場を掃除してくれたらしいから、気持ち良く入浴できる。

 かけ湯をし、体と髪を洗い、温泉につかる。
 二日目ともなると温泉の熱さにも馴れた。
 その時、電気が消えた。

 ――停電?

 しかしここから見える限り、付近に点在している建物の明かりはついている。
 電球が切れたのか。それともこの施設だけが停電なのか。

 ――でもこれくらいの規模の建物だったら容量も大きいだろうし、二人しかいないからブレーカーが落ちたって訳じゃなさそう。

 内線に連絡した方が良いだろうかと考えていると、脱衣所へ続く扉から、彰が顔を出す。

「彰、良いところに。電気が消えたんだけど……って……」

 暗闇に目がなれてくると、由季は慌てて顔を背けた。彰は裸だった。

「消えたんじゃなくって、消したんだよ。こうすれば花火がより鮮やかに見える」

 彰はかけ湯をし、体と髪を洗うと、浴槽に入ってきた。

「どうして」
「なんだよ。俺は花火みながらの温泉はお預けか?」
「そういうことじゃなくって」

 彰の気配を濃厚に感じていると、耳元に息遣いが伝わる。視覚が制限されているせいか、妙に触覚が敏感になっていた。

「昨日、俺が一緒に入らなくて寂しかったんだろ」

 図星を指摘され、ドキッとした。ここですぐにそんなことはないと反論すればいつもの軽口で終わったかもしれないが、この時は由季はすぐに反応できなかったばかりか、自覚してしまうくらい赤面してしまう。
 きっと彰からすれば他愛のない、いつもの軽口にすぎなかったのだろうが、由季の動揺する表情を目の当たりにして、彼の心の琴線に何かが触れたのが分かった。

「お前……その顔、反則」

 彰は眉をひそめ、切なげな表情をしたかと思うと、抱きしめてきた。

「わ、私、変な顔してる……?」
「変な顔だなんて言ってないだろ。男をその気にさせる顔、だよ」

 厚い胸板ごし、トクントクンと早いペースで脈打つ鼓動が、由季の体に響く。
 熱めの温泉よりもさらに、彰の引き締まった厚みのある体は火照っていた。
 その時、夜空で七色の華が咲く。
 明かりの落とされた露天風呂が、明るく照らし出された。

「ね、ねえ、明かりつけてよ……」
「花火があるから必要ないだろ」

 由季はお腹に押し当てられている雄々しい存在感に、赤面してしまう。
 少しでも身動ぐと、ゴリゴリと硬いもので押されるのだ。

 ――彰のが、当たって……。

 温泉の中にあっても、その熱は際立っている。
 ドン、ドン、とお腹に響くような打ち上げ花火の音。
 たしかに打ち上げ花火の明かりに彩られると、電灯など必要ない。
 由季の心臓も騒がしいくらいドキドキしていた。今の動揺を悟られたくなくて、

「ちょ、ちょっと……花火、見られない……」

 そう早口に言った。

「こうすれば良いだろう」

 彰は位置を変えて、今の格好でちゃんと由季が花火が見られるように調整する。
 花火の輝きに照らされ、彰の逞しい体が深い陰影に縁取られた。
 そうこうしている間も、下腹をグリグリと彼の肉茎で圧迫され続ける。
 もう何度も、彼を受け入れているというのに、彼のものをその細かな形が分かるくらい密着させられるのは初めてだ。

 ――……いつもはゴムごしだから、感じ方が違う。

 ちょっとした段差がある先端部分。まるで体の一部というより、凶器に近いような形状に、意識せずごくりと唾を飲み込んでしまう。

「あ……」

 左手でお尻を握られると、思わず気の抜けたような声がこぼれる。
 妙に卑猥な手つきで、捏ね回された。
 由季は恥ずかしさに、彼の肩口に額を押し当てるようにして体を震わせる。

「由季のケツ、気持ちいいな。揉みごたえもある」
「へ、変なことしないで……」
「断る。昼間から襲いたくてしょうがなかったのを、ずっと我慢してたんだからな。お前が妙に熱っぽい眼差しで俺を見てくるから……」

 気付いてたのか、と驚き、恥ずかしくなる。
 由季は彼の手から逃れようと上半身を身動がせると、下腹に半ば食い込むように押し当てられている肉杭がビクッと反応した。
 彰が切なげに目を細め、悩ましげな呼気をこぼす。

「由季」

 覆い被さるように、唇を奪われる。生き急ぐように強引に唇を開くように舌が侵入してきた。口腔を引っ掻くように舌が蠢けば、それだけで全身から力が抜ける。

 舌のうねりから、彰の言葉が嘘でないと分かる。確かに彰はかなり昂奮しているようだ。
 いつもはもっと由季の具合を確かめるように舌を使うのに、今日の彼はそれより自分の欲求を満たすことを優先しているようだった。
 でもそんないつもとは違う彼からの荒っぽい愛撫に、由季は高揚感を覚える。

「ぁあ……」

 口づけに夢中になっているところに、熱く潤んだ秘裂に指が一気に二本も入れられてしまう。
 柔らかな粘膜が反応し、指をギュウギュウと締め付けてきた。

「由季の中、もうドロドロだな。そんなにキスが良かったか?」

 彰は額を擦り合わせるように敏感になっている唇を舐め、舌先を吸いながら聞いてくる。

「……そう、かも」

 指が深くまで挿入され、引かれる。

「ああぁん」

 鉤状にされた指で引っかかれ、由季はますます彼に体を押しつけた。それによって彼の怒張と触れあうと分かっていても止められなかった。
 彰の指が前後に動く。同時に秘処に温泉が入り込んでくるようで、下腹に熱気が広がる。

「由季、いつもより昂奮してるんだ。マジでエロい」

 節くれ立った男の指をいつもよりもずっと強く意識し、体が芯から溶かされていく。
 溺れそうになるような濃厚なキスがほどける。二人の唇をつないでいた糸が切れた。
 彰は胸の突起を口に含む。

「んんっ」

 甘噛みしながら吸い付き、舌先で弾かれた。いつものように唾液を交えた音をあげながら、敏感なところを強く吸われ、刺激にさらされる。
 由季がどうすれば蕩けさせられるかを知り尽くしている彼の口腔でめちゃくちゃにされ、腰に甘い痺れが走った。

 ――彰……。

 由季は下腹に押し当てられっぱなしの鋼におもわず触れる。

「うく」

 彰が小さく咽せる。

「ごめん。痛かった?」
「……違う。ヤバかった」

 由季は熱い息を吐きながら呟く。

 ――今のヤバいは、悪くないってことだよね……。

 一度手を離したものの、もう一度触れてみる。
 また、彰が声を上擦らせる。それでも由季の胸をいじるのをやめるつもりはないらしい。

 ――彰の、硬くて……ビクビクって力強く脈打っている……。

 こういう時に触れて良いのか分からなかった。

 ――いつも触られてばっかりなんだから、時々くらいは。

 こぼれた汁で根元のほうまでぐっしょりと濡れていた。
 これがいつも由季の中を擦っていたのかと思うと、不思議な気分にさせられる。
 脈打つ感触が手の平に、熱気と共にじんわりと染みる。
 まるで鉄の棒のように硬いそれを手の平で擦った。

 先端部分を指で擦ると、「ぐ」と彰は一際大きい反応を見せる。彰の顔を見る限り、痛みを感じているようには見えなかった。
 段差のような部分になっている場所を刺激されると、リアクションが大きくなる。
 気付くと、彰はいつもと違って由季を抱きしめたまま、胸を刺激する舌先も緩慢だ。

「……ど、どう? 気持ちいい?」
「お前、マジで……く……こんな変な知識、誰に吹き込まれた?」
「別に吹き込まれたわけじゃ……だって、さっきからここ、当たってたし」
「当ててんだよ。お前の困り顔が可愛かったからさ」

 遊ばれていたのかと思うと、気恥ずかしさに耳が熱くなる。仕返しとばかりに少し強めに、丸みのある先端から、傘の部分を刺激する。

「ぐぁ……」

 びくんびくんと手の中で震え、白く濁った体液がこぼれた。
 先端部分を集中的に刺激すると、彰は少し前屈みになった。彫りの深いシックスパックに力がこもり、小刻みにひくつく。

「っく……悪い……」

 切なげに呻いたかと思うと、握っていた肉槍がビクビクと震えて、熱いものを解き放つ。
 由季の手がどろりしたもので濡れた。

「彰」
「……だから言っただろ。いつもより昂奮してるって。なのに、普段してこないことをされたら我慢できないだろ、普通」

 潤んだ眼差しでじっと見つめられる。それでも一度出したばかりとは思えないくらい怒張は力強いまま。

「由季……」
「私も、彰が」

 彰は避妊具を装着する。
 腰に手がかけられるだけで、ぴくっと反応してしまう。水の浮力も手伝い、あっさり持ち上げられると、割れ目に押し当てられる。
 ズッ、と柔肉に食い込んだ肉茎を飲みこまさせられていく。

「あぁ……ん、んん……」

 もう何度も受け入れているというのに、肉槍が埋没していく時の背筋にゾクゾクしたものが駆け抜けていく感覚には馴れるということがなかった。

 狭隘が広げられ、自重もあいまって最深部を突き上げられ、由季は眉をひそめた。
 完全に結合を遂げた瞬間、由季は彰の首に縋り付くように抱きつく。
 中が引き攣り、ミチミチと締め付けてしまうのだ。

「イったんだな。良かった。俺ひとりが先走って気持ち良くなるんじゃさすがに申し訳なかったから」

 下腹を押し上げられるだけで、恍惚としてうまく呼吸ができない。ずっと快感が注がれ続け、窒息してしまいそう。
 なのに、この息の詰まりそうなほどに濃厚な甘美がたまらなかった。
 すっかり彰の痕跡を心身に刻まれてしまったらしい。
 ほとんど同時に口づけを求め、唇を擦り合わせながら舌を深く絡めあう。
 唾液に濡れた繊細な器官を擦り合わせると、なおさら中で脈打つものの存在を意識する。

「本当に由季とのキス、気持ち良すぎだ。これだけで溶けそう……」

 彰が切なげな顔をする。その表情に既視感を覚えた。そう、さっきの手で刺激した時もそうだった。

「……はじめての時も」
「え?」

 彰が不思議そうに首をかしげた。

「私とはじめてした時も……彰、今みたいに溜まらないって顔してたの、思い出したの」
「マジ? 自覚はなかったんだけどな……ぐ……う……でもそれだけお前の中が良かったってことなんだろうな」

 こうしている間も、海上では花火が上がり、夜空を極彩色で飾り立てていた。
 そのたびに、闇の中で激しく交わる由季たちの姿があかるみに出る。

「ごめん。どうでも良いこと思い出しちゃった……良いよ、動いて」
「りょーかいっ」

 冗談めかした返事をすると彰は、由季の背中に筋肉質な腕を回し、突き上げてきた。

「あん」

 力強く奧を突き上げられ、由季は身をよじった。



 由季に言われて思い返してみる。
 はじめて由季を抱いた時も、たしかに今みたいに彰は冷静ではなかったかもしれない。
 それくらい由季に惹かれていた。そのせいではじめてだった彼女には負担をかけてしまったことは否めない。でもあれだけ我を忘れるくらい没頭してしまった自分に、彰自身が一番驚いたし、動揺もしてしまった。
 あれから月日も経ったし、それに由季とこうして愛し合うことは、今の彰にとっては日常だ。それで
も居ても立ってもいられない気持ちになってしまう。

 ――もっと蕩けた声をきかせてくれ。

 彼女の声がさらに彰を高揚させ、貪りたいと思わせてくれるのだ。
 刺激の強さから由季が腰を逃がそうとするが、そうはさせまいと両手でくびれをガッチリと掴んで引き留め、自分のペースに巻き込むように腰を抱き寄せる。

「はああぁぁん」

 由季は首に回した両腕に力を込め、仰け反った。
 中は彰を受け入れながら、きつく食い締めてくれる。
 柔らかく、温かく締め付けてくる感触を堪能しつつ、何度も奧を突く。
 由季の豊かな胸やしなやかな腰が揺れ、ますます感度が上がっているのか、由季は悩ましい声を上げた。
 腰のうねりが大きくなれば、湯面が白く泡立つ。

「あ、あぁ……彰……ぁあん……はぁ……あぁん……」

 彰は目の前で弾む由季の胸に顔を寄せ、頂きを甘噛みする。噛んだ後は、その刺激を癒やすように舌と口をつかって優しく吸う。

「そ、それ……ぁああ」
「少し強めに噛まれると、神経が敏感になって気持ち良さが強くなるだろ。大丈夫。傷つくほど強く噛んでないから」
「だめ……それ、……ああ……あぁ……っ」

 ――締め付けが……。

 彰は由季の腰に抱きつくような格好になると、腰全体でぶつかるように、腰遣いを激しくさせる。
 肌に絡みつくお湯を邪魔くさく思いながら、硬い鏃で由季の最奥を穿つ。
 彼女の中を満たしているという征服感が、彰の劣情をかきたてた。
 おっぱいの先端だけにとどまらず、胸そのものを頬張る勢いで味わう。
 温泉のしょっぱさの中に、淫らな甘さが口いっぱいに広がった。

「……あっ、あああ……彰! も、もう!」

 由季が切なげに啜り泣く。手が、彰の髪にかかり、くしゃっとする。

「イク……!」
「……く……俺ももう……出る……!」

 互いの下半身が密着するくらい深くつながりあった瞬間、彰は二度目の精を迸らせた。
 ビクンビクンと脈打った剛直が戦慄くたび、夥しい熱がゴムの先端を重くする。

「はぁ、はぁ……んん……彰、すごい……」

 由季は浅い呼吸を繰り返し、ピクンと体を震わせる。伏し目がちにすることで長い睫毛が強調され、さらに色艶が醸し出された。
 そんな彼女の横顔を、打ち上がったばかりの赤紫色の花火が照らす。


 
 行為が終わった後の気怠くも甘い時間を過ごしながら、由季たちは風呂に浸かった。
 彰の体に身を預け、二人で花火を眺める。
 そんな由季たちの目に、夜景を真昼のように染め上げるような連続花火が打ち上がった。

「すごい……!」

 由季は思わず歓声を上げた。
 白と金の混じり合った、大輪の花が何十発と短時間のうちに上げられる。
 真円の形をしたかと思えば、金色の筋を引き、やがて柳の木のように形を崩し、夜の闇へ溶けていく。

「……これで終わり、だな」
「ぜんぜん集中して見られなかったね」
「悪かった」
「あ、文句じゃなくって。それも含めて楽しかったっていうか……」
「なんだよそれ」

 ぷ、っと、彰は小さく吹き出す。

「だから私が言いたいのは……連れて来てくれてありがとう、彰」
「こっちこそ付き合ってくれてありがとな」

 唇を交わし、由季は彰の胸に身を預けた。
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