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第一章(2)

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 今回のインタビューは駆け出しの頃でさえこんなひどいインタビューはしたことがないと思うほど、お粗末だった。
 事前に考えてきた質問を読み上げるのに何度も噛み倒し、暗記しておいたはずの会社概要は頭が真っ白になってしまったせいで思い出せず、言葉に詰まるたびに彰から助け船を出された。
 インタビューが終わるなり由季は頭を抱え、それを彰が愉快そうに見つめ、そんな二人の様子をさつきがミーハー全開で観察するという構図が出来あがる。
 そしてさつきが我慢できないと言うように口を挟んできた。

「彰さん、由季とはどれくらい付き合っていたんですか?」
「高一から同じクラスで、三年の夏前に俺から告白したんです。で、秋くらいにフられました」

 さつきは信じられないという顔で、由季を見る。

「由季、あんた、なんて罰当たりなことを! なんでフったの?」
「……どうして私を取材してるのよ」
「そんなことはどうでも良いから。なんでフったの?」
「……そ、そんなの忘れたわよ。高校なんて大昔のことをいちいち覚えてないから。だいたい、さつき。あなた、いくらなんでも馴れ馴れしすぎない? こちらの方は……」
「俺は別に馴れ馴れしくっても構わない。それに、こちらの方なんて他人行儀な言い方はしないでくれ。彰で良い」
「司馬さんという名字って珍しいですよね。司馬商事の司馬と同じ名字なんです……」

 さつきは名刺を眺めながら独りごちる。

「それは実家がやってるんです」
「え! 本当ですか!? なのに、ベンチャーを立ち上げられたんですね。すごい……。ちなみに、どうしてベンチャーを? さきほどのインタビューでは介護分野を選んだ理由はお聞きしたんですが」
「アメリカに留学していたんですが、向こうはこっちよりも起業が盛んですし、今や名だたる大企業もガレージから始まったものが数多いのはご存じだと思います。そういう意気盛んな空気にあてられたんです。家業を継ぐのも悪くない。でも一から全てをはじめるのも楽しそうだって」

 彰は屈託なく笑いながら言った。
 彰とさつきは大いに盛り上がっている。
 二人がにぎやかになるたび、由季は身の置き所がなくなってしまう。
 そこへ救い主が登場する。秘書の田村だ。

「常務。そろそろ次の予定が……」

 途端、彰は真面目な顔になる。その横顔はとても絵になった。

「分かった。というわけで申し訳ない。今日はこの辺で。次回までに草薙と話して、インタビューに応じられるよう説得しておきますから」

 ――よ、ようやく終わり……。

 これからのことを考えると、少し憂鬱だったが、これも仕事。
 しっかりやろう、と由季は心の中で念じるように思う。

「ああ、そうだ。由季。今晩暇か? 良かったら一緒に飲まないか。今後のインタビューについての打ち合わせがてら」
「……申し訳ありませんが」

 由季が断りを入れようとした瞬間、さつきが脇を肘でつっついてくる。

「なに言ってるのよ。仕事の打ち合わせよ。他にやらなきゃいけない仕事があったとしても、ここはしっかり受けるべきじゃないの? 私は由季のどんな相手とも打ち解けて、他のインタビュアーが聞き出せなかった情報を取ってくるその腕を信用して、一緒に組んでるの。公私混同はやめて、プロに徹しなさい」

 さつきは今のいままでミーハー全開だったくせに、いきなり真面目な顔で言ってくる。

 ――なにが公私混同はやめて、よ……。

 げんなりはするものの、さつきの言うことは最もでもある。
 もちろん他に仕事があるのなら断ってもしょうがないが、今は急ぎの仕事はない。
 由季は彰を見る。彼は期待するように、由季をその色素の薄い眼差しで見つめてきた。
 何を考えているのかよく分からない。

「……分かりました。お付き合いします」
「それじゃ電話するから。この名刺に書かれたケータイ番号で良いんだよな?」
「う、うん」
「番号、変えたんだな……」
「あれから十年も経ってるし」
「だよな。じゃ、また後で」

 爽やかな笑顔で言われた由季は曖昧な表情を浮かべ、会議室を出て行く。
 会社を後にし、エレベーターに乗り込むなり、

「彰さん、めちゃくちゃイケメンじゃない? あんな人と付き合ってたとか、すごい! どうして言ってくれなかったの!?」

 さつきはまたもミーハーさを全開にした。

「もう十年も前だし、彰と会うなんて想像も……」
「彰!? うわあ。あんな人を呼び捨てとか、やるわね。ねぇ――」
「付き合ってた頃の話は絶対にしないから」
「えーっ! ずるーい! もう十年も前のことなんでしょ? だったら話しても良いじゃん!」
「勘弁して」
「まさか、司馬さんってあんなイケメンだけど、中身がヤバいとか?」
「そんな訳ないでしょ。彰は……」

 反射的に彰をかばったことに由季は頬を染め、そんな由季の普段は絶対見せない態度に、さつきは興味津々だった。



 彰から連絡があったのは、午後八時を回った頃だった。
 その時、由季は自宅で今回の分の文字起こしと、別件の仕事を片付けていた。
 スマホ画面に『司馬彰』という名前が表示された時、

 ――あ、本当に来た。

 そう思った。ドキドキする。まるではじめて付き合った時の頃のよう。

「も、もしもし」
『メシは?』
「済ませた」
『じゃ、軽く飲もう。迎えに行く。家は?』
「仕事相手に自宅なんて教えるわけないでしょ。最寄り駅を教えてくれれば行くから」
『遠慮するなよ。俺とお前の仲だろ』
「……最寄り駅は?」
『他人行儀だな』

 ため息混じりに彰は駅を教えてくれる。

「じゃあ、また後で」

 電話を切る。由季の自宅からだいたい三十分ほどだ。服はどうしようかと考え、

 ――いやいや、なにオシャレしていこうとしてるのよ……。

 とりあえずブラウスにジーンズというところに落ち着き、家を出た。







 彰から連絡があったのは、午後八時を回った頃だった。

 その時、由季は自宅で今回の分の文字起こしと、別件の仕事を片付けていた。

 スマホ画面に『司馬彰』という名前が表示された時、



 ――あ、本当に来た。



 そう思った。ドキドキする。まるではじめて付き合った時の頃のよう。



「も、もしもし」

『メシは?』

「済ませた」

『じゃ、軽く飲もう。迎えに行く。家は?』

「仕事相手に自宅なんて教えるわけないでしょ。最寄り駅を教えてくれれば行くから」

『遠慮するなよ。俺とお前の仲だろ』

「……最寄り駅は?」

『他人行儀だな』



 ため息混じりに彰は駅を教えてくれる。



「じゃあ、また後で」


 電話を切る。由季の自宅からだいたい三十分ほどだ。服はどうしようかと考え、

 ――いやいや、なにオシャレしていこうとしてるのよ……。

 とりあえずブラウスにジーンズというところに落ち着き、家を出た。
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