悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷

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 その日からルーファスと、クリス、ジェレミー、ラインハルトの交友がはじまった。
 ラインハルトは警戒しつづけているが、ルーファスは特別気にせず、クリスだけでなく、ラインハルトにも話を振ったりしている。

 ジェレミーのアドバイス通り、仕草や会話の端々には傲慢さはだしていない。
 それは他の学生との交流にも現れていて、当然のように第二王子の悪口が聞こえていたうちのクラスでも、ルーファスが最近紳士で素敵だと噂する女子たちの声がチラホラ聞こえてきた。これはいい兆候だ。
 そんなある日の昼休み、ルーファスがなぜか教室にやってきた。

「ジェレミー、行くぞ」
「え、殿下? どうして……?」
「授業が早く終わったから、迎えに来た。なにかおかしいか?」
「あ、いえ……」
 早くしろ、とルーファスは歩き出すので、慌てて後を追いかける。
「殿下、最近いい感じですね」
「いい感じ? 貴族としてその言葉遣いはどうなんだ?」
「僕と殿下の仲じゃないですか。硬いことを言わないでください。最近の殿下は紳士だって、みんな驚いてるみたいですよ」
「私は元々紳士だ」
「……それが周知されてきたということです」
「たしかに私の態度に問題があったようだ。それに気づけたのはお前のおかげだ」

 なんとも殊勝な反応だ。

「最近、王宮でのメイドたちの態度も変わってきた。前までは私のそばにいるだけで、こっちの様子を窺うそぶりでビクビクしていたのに、今は普通だ。細かい失敗もしなくなった」
「以前は、細かいところまでいちいち注文をつけていたのでは?」
「当然だ。私は王族だぞ。細心の注意を払えと言うのは当たり前だ……そんなところが、彼女たちを萎縮させていたんだろうな。無能だと勝手に判断してクビにしてきたメイドたちに謝れるものなら謝りたい。まったく、自分の未熟さが恥ずかしい」
「それが分かっただけでも大きな進歩ですよ。クリスも殿下に懐いてきてますし! まあ、ラインハルトという番犬はどうにもなってはいませんけど」
「うん……まあ、そうだな……」
「?」

 ルーファスは曖昧に頷く。

「あ、クリスはと言えば、殿下、少し相談があるんですが」

 クリスに友人がいないことを相談する。その原因も含めて。

「イジメに加担していたのはクラス全員なのか?」
「いいえ。一部です。どうにかクラスに馴染ませる手伝いができればな、と。もし殿下が力添えすれば、クリスは感謝すると思いますっ」

 それだけじゃない。実はクラスで浮くことで、本編中でトラブルに巻き込まれて苦しむということが起こるのだ。それをきっかけにラインハルトとの仲がこじれたりも(もちろん、最終的には元鞘だが)。本編だから放っておいても解決の方向性にいくが、分かっていて放置するのはさすがに転生者として忍びなかった。

「考えておこう」

 カフェに到着すると、クリスとラインハルトが待っていた。
 彼らと一緒にテラス席に移動し、昼食を取る。

「クリス。ジュレミーから聞いたが、クラスに馴染めていないというのは本当か?」

 ジュレミーは飲んでいた紅茶を吹き出しそうになって咽せた。

「殿下!? もっとオブラートに……」
「こういうことは遠回りな聞き方をするべきじゃない」

 ルーファスは涼しい顔で言った。一方、ジェレミーは、憤るラインハルトから穴があくほど睨まれ、生きた心地がしない。

「……本当です」

 クリスは気まずそうに頷く。

「もし必要なら手を貸す」

 ラインハルトの目つきが鋭くなる。

「余計なことをするなよ。だいたい、こいつのクラスの連中は――」
「細かい事情は、ジェレミーから聞いて承知している。ラインハルト、君がクリスを守ったんだろう。そ
れは賞賛に値する。大切な人のために動けるのは尊いことだ」
「当然だっ」
「無論、クリスが望まないのなら、何もしない。だが、三年間の学生生活は貴重だ。もし仲良くなりたいクラスメートがいるのなら、手を貸そう。仲良くしてくれなんて世話を焼くつもりもない。ただ一緒にお茶を飲み、クリスとの距離が近くなる手助けがしたい。そう思っただけだ。迷惑だったらこの話はなかったことにしてくれ」

 クリスはちらりとラインハルトを見た。

「まさか、いるのか」
「……う、うん」
「そいつらはお前がいじめられていた時に何もせず、見て見ぬふりをしてた連中だろ。それでもか?」

 ラインハルトの怒りも理解できる。でも誰もがラインハルトのような強さを持っている訳ではない。

「でもその人たちの気持ちも分かるんだ。僕も、孤児院でいじめられてる子がいたけど見て見ぬフリをしちゃってたから……」
「状況が違う。孤児院は弱肉強食の場だ」
「教室だってそうだよ。みんな、それぞれ家柄の違いもあるし、家同士の付き合いもある。僕をいじめていた人たちは伯爵家お人たちで、教室では一番高い地位にあったんだ。僕をかばったらどうなるか……。あの、ルーファス先輩、お願いしてもいいですか?」

 ルーファスは、ラインハルトを気にする。彼はしかめ面のまま、「勝手にしろっ」と席を立ってしまう。

「あ、ライン……」

 クリスは手を伸ばすが、ラインハルトはそれを避け、歩き去ってしまう。
 ジェレミーは、しゅんと肩を落とすクリスの肩を優しく叩く。

「心配いらないよ、クリス。ラインハルト先輩は怒ってるわけじゃないから」

 ただ、ラインハルトも自分の不甲斐なさを感じているのだろう。いじめは解決できたが、そのせいでクリスがクラスで浮いた存在になってしまっていることに。

「助けてくれて感謝してるんです。ラインはいつも僕を守ってくれるから」
「クリスのその気持ちも伝わってるよ」
「……そうでしょうか」
「うん、絶対に」

 クリスは泣き笑いの顔をする。

「先輩、まるでラインの気持ちが分かるみたいですね」
「う。知った風な口をききすぎたかな。あはは……」

 クリスは首を横に振る。

「いいえ。ライン、少しずつ先輩たちに馴染んできていて、嬉しいんです。ラインは僕以外の他人と交流しようとしないから」

 ラインハルトは本当に、クリス以外の人間と交流する必要がないと考えているのだ。

「僕が先輩方とお茶を飲むって知っても腹を立てなくなりましたから」
「あいつもいい大人だ。頭が冷えたら、すぐに戻って来る。では、早速、放課後にでも開こう。ここで」
「お願いします」
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