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第四章(1)
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週末。富永はいつものようにクラブへ足を運んだ。
何度も殺されかかっているというのに、不特定多数の人間が大勢いる場所に行かれるのはボディーガードとしては 溜まったものではない。とはいえ、富永を止めることも出来ない。
「……呆れているか?」
車で移動中、富永はまるで景の心を読んだかのように呟く。
「分かってるんだったら控えてくれ」
「それは出来ない相談だな」
「そんなにクラブが好きなのか?」
「あんなもの、うるさいだけだな」
「だったら、もっと静かなもんをやれば良い」
「元警察官がヤクザのシノギにご助言か?」
「そうじゃない」
「クラブはな、単純な趣味さ。何もかんがえず、はしゃぎまわっているガキを見ると自分の学生時代との差に、びっくり出来て面白いんだよ」
「お前は、騒いでなさそうだな」
「……そうだな。だが幸せだった。一生分の恋をしたからな」
その相手が誰で、どんな奴だったのか聞きたい衝動にかられてしまう。それは警官ではなく、景本人の気持ちだ。
「お前はどうだった?」
「そうだな……。地味で大人しい学生だったな」
と、富永が不意に笑みをこぼした。
「おかしいか?」
「いいや。今、ふと思ったんだ。よくもまあ、今日まで五体満足でいられたってしみじみ思ったんだ」
「死にたい……訳じゃあないんだよな」
「当たり前だ。俺には目標があるからな」
「組のトップか?」
「そんなちんけもんじゃないさ。もっと重要なこと。命をかけるに値する大仕事さ」
「だったら、人混みにはいかないことだ。今までが大丈夫でも、これからも大丈夫とは限らない」
「説教はやめろ。お前はボディガードだ」
「……お前がした話だ」
「それもそうだな」
微笑み、すぎゆく街の明かりを富永は見やった。
※
クラブに入る。身体の空洞に響く音に突き上げられる。
今日もクラブは若い少年少女たちで賑わう。
一応、身分確認はやっているようだが、とても二十代とは見えないグループが幾つもいた。無心で踊る奴、ナンパに勤しむ奴、酒をちびちび飲んで話しているだけの奴……様々だ。
(ん?)
バーカウンターに男がいた。若い人間の中で違和感があった。しかし目を惹いたのはそのせいではない。まるで、かつての自分――富永を待ち受けていた自分と重なったのだ。
だが、男は富永には目もくれず、ダンスフロアを見つめていた。あの男と同じ年代の人間が完全にいない訳でもない。
それでも目の端で男を確認してしまう。
ダンスフロアを横目にVIPルームへ続く階段を上がる。
他のボディガードと一緒に富永を挟む形で、景が富永の後ろについて、最後尾だ。
(気のせい、か)
そう思いかけたその時、男がスツールから下り、スーツの内ポケットに手をすべらせ、何かを取り出した。
「富永ぁっ!」
富永が足を止め、振り返る。
男が富永に向かって突きつけたのは拳銃だった。
富永を隠すスペースはない。景は富永を押しやり、背を向けて盾になる。
乾いた音が立て続けに三度、響いた。そして三度、背中を重たい衝撃が襲う。痛みよりもまず感じたのは熱、次いで透明な手で弾かれるような衝撃だった。
膝から力が抜けて倒れそうになるが、右膝を曲げただけでどうにかこうにか踏み止まった。
「涼介っ!」
富永が叫ぶ。
景の身体を富永が支えた。フロア中はパニックに陥る。男は踵を返して、出入り口に殺到する人混みの中に消えていく。
景は脂汗を滲ませながら、富永を見上げる。何故か、その顔が涼介のものと重なる。
富永は部下に命じる。
「車を回せ! それから医者の手配だ。あそこにつれていく。早くしろっ!」
ボディガードたちに囲まれながら、景は富永に支えられながら歩き出した。
「……りょう、すけ……っ」
景はほとんど無意識のうちに呟き、意識を失った。
何度も殺されかかっているというのに、不特定多数の人間が大勢いる場所に行かれるのはボディーガードとしては 溜まったものではない。とはいえ、富永を止めることも出来ない。
「……呆れているか?」
車で移動中、富永はまるで景の心を読んだかのように呟く。
「分かってるんだったら控えてくれ」
「それは出来ない相談だな」
「そんなにクラブが好きなのか?」
「あんなもの、うるさいだけだな」
「だったら、もっと静かなもんをやれば良い」
「元警察官がヤクザのシノギにご助言か?」
「そうじゃない」
「クラブはな、単純な趣味さ。何もかんがえず、はしゃぎまわっているガキを見ると自分の学生時代との差に、びっくり出来て面白いんだよ」
「お前は、騒いでなさそうだな」
「……そうだな。だが幸せだった。一生分の恋をしたからな」
その相手が誰で、どんな奴だったのか聞きたい衝動にかられてしまう。それは警官ではなく、景本人の気持ちだ。
「お前はどうだった?」
「そうだな……。地味で大人しい学生だったな」
と、富永が不意に笑みをこぼした。
「おかしいか?」
「いいや。今、ふと思ったんだ。よくもまあ、今日まで五体満足でいられたってしみじみ思ったんだ」
「死にたい……訳じゃあないんだよな」
「当たり前だ。俺には目標があるからな」
「組のトップか?」
「そんなちんけもんじゃないさ。もっと重要なこと。命をかけるに値する大仕事さ」
「だったら、人混みにはいかないことだ。今までが大丈夫でも、これからも大丈夫とは限らない」
「説教はやめろ。お前はボディガードだ」
「……お前がした話だ」
「それもそうだな」
微笑み、すぎゆく街の明かりを富永は見やった。
※
クラブに入る。身体の空洞に響く音に突き上げられる。
今日もクラブは若い少年少女たちで賑わう。
一応、身分確認はやっているようだが、とても二十代とは見えないグループが幾つもいた。無心で踊る奴、ナンパに勤しむ奴、酒をちびちび飲んで話しているだけの奴……様々だ。
(ん?)
バーカウンターに男がいた。若い人間の中で違和感があった。しかし目を惹いたのはそのせいではない。まるで、かつての自分――富永を待ち受けていた自分と重なったのだ。
だが、男は富永には目もくれず、ダンスフロアを見つめていた。あの男と同じ年代の人間が完全にいない訳でもない。
それでも目の端で男を確認してしまう。
ダンスフロアを横目にVIPルームへ続く階段を上がる。
他のボディガードと一緒に富永を挟む形で、景が富永の後ろについて、最後尾だ。
(気のせい、か)
そう思いかけたその時、男がスツールから下り、スーツの内ポケットに手をすべらせ、何かを取り出した。
「富永ぁっ!」
富永が足を止め、振り返る。
男が富永に向かって突きつけたのは拳銃だった。
富永を隠すスペースはない。景は富永を押しやり、背を向けて盾になる。
乾いた音が立て続けに三度、響いた。そして三度、背中を重たい衝撃が襲う。痛みよりもまず感じたのは熱、次いで透明な手で弾かれるような衝撃だった。
膝から力が抜けて倒れそうになるが、右膝を曲げただけでどうにかこうにか踏み止まった。
「涼介っ!」
富永が叫ぶ。
景の身体を富永が支えた。フロア中はパニックに陥る。男は踵を返して、出入り口に殺到する人混みの中に消えていく。
景は脂汗を滲ませながら、富永を見上げる。何故か、その顔が涼介のものと重なる。
富永は部下に命じる。
「車を回せ! それから医者の手配だ。あそこにつれていく。早くしろっ!」
ボディガードたちに囲まれながら、景は富永に支えられながら歩き出した。
「……りょう、すけ……っ」
景はほとんど無意識のうちに呟き、意識を失った。
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