SPとヤクザ

魚谷

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 景は朝早く起きて、いつものように弁当づくりにかかった。ご飯を炊き、おかずをつくる。レンジでするのもあるが、一、二品は必ず手作りのものを作るようにしている。
 それはいつも自分の為に朝から晩まで働いてくれている母へのお礼だった。
 出来上がったおかずを弁当箱に詰める。いつもは二つしかないお弁当が、三つある。

(喜んでくれたら良いな……)

 おかずには唐揚げを少し大目に入れていた。
 弁当箱は昨日、スーパーで買ってきたものだ。母以外の誰かにお弁当を作るのは初めてだった。中学時代は、父もいたし、母が弁当を作ってくれた。景が自分で家事をする機会はなかった。
 涼介は喜んでくれたが、今日はどうだろう……。胸を少しドキドキさせて温かなお弁当を包んだ。



 その日の昼休み。
 景は二人分のお弁当をもって屋上へ上がった。そして階段室を振り仰ぐ。

「……涼介くん?」

 呼びかけると、涼介が顔を覗かせた。

「よぉ、景。ほらっ」

 また手を借りて上がった。

「もう昼か……。今日はめっちゃ良い天気だろ。それでずっと寝てた」
「ずっとって、朝から?」
「ああ」涼介は大きな欠伸をした。「ちょっと待っててくれ。メシ買ってくるから」
「待って。これ。もし良かったら……」

 景は恐る恐る、青いバンダナで包んだなお弁当箱を差し出した。

「マジかよっ! サンキュ! 開けて良いか……ってか、良いよなっ」涼介は目を輝かせた。
「唐揚げが美味しいって言ってくれたから、少し多めに入れたけど」

 涼介ははしゃいで笑う。まるで子どものように純真で無垢な笑顔だった。

「景! マジ最高。ありがとなっ」

 涼介は唐揚げを頬張ると、「んー!」と声を漏らす。

「やっぱうめえよ、お前の唐揚げ。あ、この卵焼きもな」
「卵焼きの味付けはどう? うちの親は甘いのも、だし巻きもオーケーだから、もし、甘いのが苦手だったら……」
「お前は俺の嫁かよ。ったく。そこまで気を回しすぎると疲れないか? いや、俺としてはめちゃくちゃありがてぇけどさ」

 何て言うことはないのに、“嫁”という言葉に、ドキッとしてしまう。

「だ、大丈夫。料理は好きだから……」景は表情に出さないよう気を付けて言う。
「ふうん。俺は全然だな。ほとんど夜はコンビニ弁当か、外食だし」
「そうなんだ」
「だから、こういう手作り感溢れる料理っていうの? すげえ、飢えてたんだよなあ」
「ご飯の量をもっと多くとか要望があったら教えてね」
「お前……そんなに甘やかすなよ。よし、今日学校終わったらどっかに寄ろうぜ。弁当の礼だよ」
「いいよ。見返りが欲しくってやったわけじゃ……」
「お前がよくても俺が駄目なんだよ。良いな。今日はつきあえ。飯でも、服でも、何でも良いから。ちゃんと考えておけ」
「う、うん」

 こうして楽しい昼食の時間はあっという間に過ぎていった。
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