9 / 30
第二章(1)
しおりを挟む
(あんな奴に抱かれた後に、あの頃のことを思い出すなんて……)
景は気怠い身体を動かした。景はペントハウスに同居するよう富永から命じられた。
雇われてから二週間ほどが経っていた。
ここには寝室が二部屋あり、その一つをあてがわれたのだった。
ボディガード兼性処理要員として。それこそ毎夜、貪られ続けている。
富永は景を抱く時にも決して服を脱ごうとしない。それは公安が調べた事前情報にあったことだ。
動くと、かすかに尻が疼く。まだ富永に突っ込まれた時の余韻が、痺れとして残っていた。忌まわしいのは、あんな物同然に扱われ弄ばれたというのに、肉体は浅ましく反応してしまうことだった。
(しっかりしろ……っ)
今の所、スーパーEに関する情報は得られていない。
ここ数日、富永は自分の部屋に籠もるか、食事を取りに外に出るか程度で、それらしい動きはない。
今の所、景を疑っている様子はない。
今はとにかく富永に気に入られることを優先していた。
しかし下手に動けば、すぐに目を付けられ、身元を見破られるだろう。
実際、富永は部下に調べさせたであろう景の経歴(無論、岩槻たちによって偽造されたデータだ)を読み上げられた。その経歴を疑っている様子はなかった。
※
ネクタイを締めてリビングに出ると、スーツ姿の富永がソファーに座っていた。
景は背筋を伸ばす。
「すみません。遅れました」
「そうびくつくなよ。別にこの程度で殴りつけたりはしないさ」
料理は基本外で食べる。実力者が無防備なと思うが、景にはそれがわざと狙わせているという風に見える。
情報には、富永が次々と古参の幹部たちを失脚させているというものがあった。わざと狙わさせ、失脚の証拠を掴もうとしているのかもしれない、と。
「お前、料理は出来るか?」
「え、ええ……まあ」
「うまいのか?」
景が誰かに食事を作ったのは、本当に数人の話だ。
「……それは分かりませんが。家族くらいですので」
「ふうん。じゃあ何でも良い。作ってくれ」
「材料は……」
「必要なもんを部下に買わせる」
「分かりました。好き嫌いはありますか?」
「いや。だが、唐揚げを……」
「唐揚げ、ですか」
「一から作れよ」
子どもっぽいおかずが好きらしい。景は手早くメモ書きをすると、それをボディガードの同僚――向こうは敵愾心満載だろうが――に渡した。
キッチンには一通りの料理道具や、家電があった。
もしかしたら、これまでも抱いた男達に作らせたのかもしれない。
※
しばらくしてボディガードの買ってきた具材で料理を作る。
揚げる道具はないから、フライパンで焼く。生姜と醤油で作ったタレに、切った鶏肉をひたす。さすがに味が染みるまではさすがに時間がかかりすぎるので、そこそこのところで片栗粉をまぶして焼き上げる。
富永がキッチンを覗き込んできた。
「涼介。手慣れたもんだな」
涼介。そう呼ばれることにはまだ抵抗があった。
「そ、そうですか。……富永さんは」
「俊也だ。そう呼べと言っただろう。それから敬語もやめろ」
「……分かった」
後は卵焼きに、サラダ。ご飯はレンジでチンをして、インスタントの味噌汁を用意する。
「お前も食え。一人じゃ味気ない」
富永は唐揚げを食べると、少し驚いたように目を見開く。
「うまいな」
「……喜んでもらえてよかった
「だが、味はもっと濃くても良い」
「今日は時間が無かったから、味を十分に染みさせることが出来なかったんだ。次はもっと馴染ませる」
涼介も唐揚げが好きだった。
「そうか。なら、毎日唐揚げを作ってくれ」
「分かった」
景はうなずいた。
景は気怠い身体を動かした。景はペントハウスに同居するよう富永から命じられた。
雇われてから二週間ほどが経っていた。
ここには寝室が二部屋あり、その一つをあてがわれたのだった。
ボディガード兼性処理要員として。それこそ毎夜、貪られ続けている。
富永は景を抱く時にも決して服を脱ごうとしない。それは公安が調べた事前情報にあったことだ。
動くと、かすかに尻が疼く。まだ富永に突っ込まれた時の余韻が、痺れとして残っていた。忌まわしいのは、あんな物同然に扱われ弄ばれたというのに、肉体は浅ましく反応してしまうことだった。
(しっかりしろ……っ)
今の所、スーパーEに関する情報は得られていない。
ここ数日、富永は自分の部屋に籠もるか、食事を取りに外に出るか程度で、それらしい動きはない。
今の所、景を疑っている様子はない。
今はとにかく富永に気に入られることを優先していた。
しかし下手に動けば、すぐに目を付けられ、身元を見破られるだろう。
実際、富永は部下に調べさせたであろう景の経歴(無論、岩槻たちによって偽造されたデータだ)を読み上げられた。その経歴を疑っている様子はなかった。
※
ネクタイを締めてリビングに出ると、スーツ姿の富永がソファーに座っていた。
景は背筋を伸ばす。
「すみません。遅れました」
「そうびくつくなよ。別にこの程度で殴りつけたりはしないさ」
料理は基本外で食べる。実力者が無防備なと思うが、景にはそれがわざと狙わせているという風に見える。
情報には、富永が次々と古参の幹部たちを失脚させているというものがあった。わざと狙わさせ、失脚の証拠を掴もうとしているのかもしれない、と。
「お前、料理は出来るか?」
「え、ええ……まあ」
「うまいのか?」
景が誰かに食事を作ったのは、本当に数人の話だ。
「……それは分かりませんが。家族くらいですので」
「ふうん。じゃあ何でも良い。作ってくれ」
「材料は……」
「必要なもんを部下に買わせる」
「分かりました。好き嫌いはありますか?」
「いや。だが、唐揚げを……」
「唐揚げ、ですか」
「一から作れよ」
子どもっぽいおかずが好きらしい。景は手早くメモ書きをすると、それをボディガードの同僚――向こうは敵愾心満載だろうが――に渡した。
キッチンには一通りの料理道具や、家電があった。
もしかしたら、これまでも抱いた男達に作らせたのかもしれない。
※
しばらくしてボディガードの買ってきた具材で料理を作る。
揚げる道具はないから、フライパンで焼く。生姜と醤油で作ったタレに、切った鶏肉をひたす。さすがに味が染みるまではさすがに時間がかかりすぎるので、そこそこのところで片栗粉をまぶして焼き上げる。
富永がキッチンを覗き込んできた。
「涼介。手慣れたもんだな」
涼介。そう呼ばれることにはまだ抵抗があった。
「そ、そうですか。……富永さんは」
「俊也だ。そう呼べと言っただろう。それから敬語もやめろ」
「……分かった」
後は卵焼きに、サラダ。ご飯はレンジでチンをして、インスタントの味噌汁を用意する。
「お前も食え。一人じゃ味気ない」
富永は唐揚げを食べると、少し驚いたように目を見開く。
「うまいな」
「……喜んでもらえてよかった
「だが、味はもっと濃くても良い」
「今日は時間が無かったから、味を十分に染みさせることが出来なかったんだ。次はもっと馴染ませる」
涼介も唐揚げが好きだった。
「そうか。なら、毎日唐揚げを作ってくれ」
「分かった」
景はうなずいた。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
61
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる