21 / 38
過去②
しおりを挟む
馬車がガタゴトと街道を進む。
アリッサは母と一緒にそばの街まで買い物をした帰りだった。今日は、ルゥは家で留守番だ。女同士の買い物だから、とルゥには言ったのだ。
しかしそれは嘘だ。母にはルゥも一緒にと言われていた。
連れて来なかったのは、母にルゥが魔術師であることを相談したかったからだ。
母は父のように魔術師に偏見がない。
来客がどこそこの村で魔術師が出たらしいという話をすると、それ以上の話を聞きたくなくて中座したり、アリッサと二人きりの時に子どもであろうと問答無用に処刑することに対して怒りを口にしたりしていた。
母ならきっと相談に乗ってくれるだろうし、建設的な意見を聞けると思ったのだ。
『お母様、相談にのって欲しいことがあるんだけど……』
意を決して、アリッサはルゥのことを話した。
母はルゥのことに耳を傾け、話し終わるまで口を挟んだりしなかった。
『……どうしたらいいと思う?』
『魔塔と言われる魔術師がたくさん集まっている場所があるわ。そこに連絡するのはどう?』
『魔塔?』
『魔法について教えたりしてるみたい。魔塔は魔術師だけの世界。ルゥ君もきっと、お友達ができるんじゃないかしら』
もしそんな場所が本当にあるのだとしたら、それはルゥにとって最高の選択肢だ。
ただ魔塔へ連絡するということは、ルゥと別れるということだ。
寂しい。せっかくルゥと実の姉弟のように仲良くなれたというのに。
――でも、このままうちにいて誰かにルゥが魔術師だって知られてしまったら……。
考えたくない。それだけはあってはいけない。
屋敷に戻ったアリッサは、ルゥが喜びそうなお菓子を手に部屋を尋ねた。
『ルゥ君』
『ようやく戻ってきたのか。遅いぞ』
ルゥは読んでいた本を置くと、ふて腐れたみたいに唇を尖らせた。
その仕草の愛らしさに、口元が緩んだ。
『これ、お菓子』
『俺は子どもじゃない』
そう言いいながらちゃっかりお菓子を受け取る姿に、アリッサは笑ってしまう。
『無駄にするのはもったいないから、食べてやるよ』
ルゥは本当に偉そうだ。将来、きっと大物になる。
こんなにも他愛ないやりとりができることが嬉しい。
そう思うと同時に、そんなルゥと別れなければならないことに、胸が締め付けられた。 でもいつまでも一緒にいたいというのはアリッサのわがままで、ルゥのためにはならない。
『ねえ、魔塔って知ってる?』
『しらない』
ルゥは首を傾げた。
『たくさんの魔術師がいるんだって。ルゥ君の仲間がたくさんいるんだよ』
その時、ルゥの顔から表情が消えた。
『俺を追い出すのか』
『違うわ。追い出すんじゃない。でも魔塔はここより、もっといい場所だと思うの。ここにいたら、ルゥ君が魔術師だっていつ知られるか分からないんだよ』
『じゃあ、俺、魔法は絶対に使わない。だから、魔塔になんて行かないっ』
ルゥが見せてくれた綺麗な氷の魔法。あの魔法を使ったときのあの誇らしげな表情を忘れられるわけがない。
『ルゥ君は魔塔に行くべきだよ』
『なんで勝手に決めるんだよ!』
『決めてるわけじゃない。言ったほうがあなたのためだと思って……』
『俺はどこにもいかない!』
『ルゥ君。ま、待って!』
部屋を飛び出すルゥを、アリッサは慌てて後を追いかけたが、すばしっこい彼にあっという間に撒かれてしまった。
アリッサは母と一緒にそばの街まで買い物をした帰りだった。今日は、ルゥは家で留守番だ。女同士の買い物だから、とルゥには言ったのだ。
しかしそれは嘘だ。母にはルゥも一緒にと言われていた。
連れて来なかったのは、母にルゥが魔術師であることを相談したかったからだ。
母は父のように魔術師に偏見がない。
来客がどこそこの村で魔術師が出たらしいという話をすると、それ以上の話を聞きたくなくて中座したり、アリッサと二人きりの時に子どもであろうと問答無用に処刑することに対して怒りを口にしたりしていた。
母ならきっと相談に乗ってくれるだろうし、建設的な意見を聞けると思ったのだ。
『お母様、相談にのって欲しいことがあるんだけど……』
意を決して、アリッサはルゥのことを話した。
母はルゥのことに耳を傾け、話し終わるまで口を挟んだりしなかった。
『……どうしたらいいと思う?』
『魔塔と言われる魔術師がたくさん集まっている場所があるわ。そこに連絡するのはどう?』
『魔塔?』
『魔法について教えたりしてるみたい。魔塔は魔術師だけの世界。ルゥ君もきっと、お友達ができるんじゃないかしら』
もしそんな場所が本当にあるのだとしたら、それはルゥにとって最高の選択肢だ。
ただ魔塔へ連絡するということは、ルゥと別れるということだ。
寂しい。せっかくルゥと実の姉弟のように仲良くなれたというのに。
――でも、このままうちにいて誰かにルゥが魔術師だって知られてしまったら……。
考えたくない。それだけはあってはいけない。
屋敷に戻ったアリッサは、ルゥが喜びそうなお菓子を手に部屋を尋ねた。
『ルゥ君』
『ようやく戻ってきたのか。遅いぞ』
ルゥは読んでいた本を置くと、ふて腐れたみたいに唇を尖らせた。
その仕草の愛らしさに、口元が緩んだ。
『これ、お菓子』
『俺は子どもじゃない』
そう言いいながらちゃっかりお菓子を受け取る姿に、アリッサは笑ってしまう。
『無駄にするのはもったいないから、食べてやるよ』
ルゥは本当に偉そうだ。将来、きっと大物になる。
こんなにも他愛ないやりとりができることが嬉しい。
そう思うと同時に、そんなルゥと別れなければならないことに、胸が締め付けられた。 でもいつまでも一緒にいたいというのはアリッサのわがままで、ルゥのためにはならない。
『ねえ、魔塔って知ってる?』
『しらない』
ルゥは首を傾げた。
『たくさんの魔術師がいるんだって。ルゥ君の仲間がたくさんいるんだよ』
その時、ルゥの顔から表情が消えた。
『俺を追い出すのか』
『違うわ。追い出すんじゃない。でも魔塔はここより、もっといい場所だと思うの。ここにいたら、ルゥ君が魔術師だっていつ知られるか分からないんだよ』
『じゃあ、俺、魔法は絶対に使わない。だから、魔塔になんて行かないっ』
ルゥが見せてくれた綺麗な氷の魔法。あの魔法を使ったときのあの誇らしげな表情を忘れられるわけがない。
『ルゥ君は魔塔に行くべきだよ』
『なんで勝手に決めるんだよ!』
『決めてるわけじゃない。言ったほうがあなたのためだと思って……』
『俺はどこにもいかない!』
『ルゥ君。ま、待って!』
部屋を飛び出すルゥを、アリッサは慌てて後を追いかけたが、すばしっこい彼にあっという間に撒かれてしまった。
26
お気に入りに追加
961
あなたにおすすめの小説
大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました
扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!?
*こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。
――
ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。
そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。
その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。
結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。
が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。
彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。
しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。
どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。
そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。
――もしかして、これは嫌がらせ?
メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。
「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」
どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……?
*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
【R18】利害一致のお飾り婚だったので初夜をすっぽかしたら大変なことになった
春瀬湖子
恋愛
絵に描いたような美形一家の三女として生まれたリネアだったが、残念ながらちょっと地味。
本人としては何も気にしていないものの、美しすぎる姉弟が目立ちすぎていたせいで地味なリネアにも結婚の申込みが殺到……したと思いきや会えばお断りの嵐。
「もう誰でもいいから貰ってよぉ~!!」
なんてやさぐれていたある日、彼女のもとへ届いたのは幼い頃少しだけ遊んだことのあるロベルトからの結婚申込み!?
本当の私を知っているのに申込むならお飾りの政略結婚だわ! なんて思い込み初夜をすっぽかしたヒロインと、初恋をやっと実らせたつもりでいたのにすっぽかされたヒーローの溺愛がはじまって欲しいラブコメです。
【2023.11.28追記】
その後の二人のちょっとしたSSを番外編として追加しました!
※他サイトにも投稿しております。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!
仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。
18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。
噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。
「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」
しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。
途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。
危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。
エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。
そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。
エルネストの弟、ジェレミーだ。
ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。
心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――
美貌の騎士団長は逃げ出した妻を甘い執愛で絡め取る
束原ミヤコ
恋愛
旧題:夫の邪魔になりたくないと家から逃げたら連れ戻されてひたすら愛されるようになりました
ラティス・オルゲンシュタットは、王国の七番目の姫である。
幻獣種の血が流れている幻獣人である、王国騎士団団長シアン・ウェルゼリアに、王を守った褒章として十五で嫁ぎ、三年。
シアンは隣国との戦争に出かけてしまい、嫁いでから話すこともなければ初夜もまだだった。
そんなある日、シアンの恋人という女性があらわれる。
ラティスが邪魔で、シアンは家に戻らない。シアンはずっとその女性の家にいるらしい。
そう告げられて、ラティスは家を出ることにした。
邪魔なのなら、いなくなろうと思った。
そんなラティスを追いかけ捕まえて、シアンは家に連れ戻す。
そして、二度と逃げないようにと、監禁して調教をはじめた。
無知な姫を全力で可愛がる差別種半人外の騎士団長の話。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【R18】お飾りの妻だったのに、冷徹な辺境伯のアレをギンギンに勃たせたところ溺愛妻になりました
季邑 えり
恋愛
「勃った……!」幼い頃に呪われ勃起不全だったルドヴィークは、お飾りの妻を娶った初夜に初めて昂りを覚える。だが、隣で眠る彼女には「君を愛することはない」と言い放ったばかりだった。
『魅惑の子爵令嬢』として多くの男性を手玉にとっているとの噂を聞き、彼女であれば勃起不全でも何とかなると思われ結婚を仕組まれた。
淫らな女性であれば、お飾りにして放置すればいいと思っていたのに、まさか本当に勃起するとは思わずルドヴィークは焦りに焦ってしまう。
翌朝、土下座をして発言を撤回し、素直にお願いを口にするけれど……?
冷徹と噂され、女嫌いで有名な辺境伯、ルドヴィーク・バルシュ(29)×魅惑の子爵令嬢(?)のアリーチェ・ベルカ(18)
二人のとんでもない誤解が生みだすハッピ―エンドの強火ラブ・コメディ!
*2024年3月4日HOT女性向けランキング1位になりました!ありがとうございます!
騎士団長の欲望に今日も犯される
シェルビビ
恋愛
ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。
就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。
ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。
しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。
無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。
文章を付け足しています。すいません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる