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19 騎士団への加入
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治癒魔術師が寮に到着したのは、シュヴァルツのことが一段落したあと。
他の団員から睨まれ、かなり肩身が狭そうだった。
魔術師は念の為とシュヴァルツの身体を魔法でスキャンしたが、間違いなく毒は完璧に浄化されているということだった。
「この寮には治癒魔法を使える魔術師がいたのですか?」
困惑する魔術師が問いかけると、シュヴァルツとカーティスは一斉に、アリッサを見た。
「あなたが?」
「……そうみたいです」
正直、自分に魔術師としての素養があったなんてことははじめて知ったから困惑するばかりだ。
「見せていただくことは可能ですか?」
「見せるというのはどうしたら……」
魔術師はナイフを取り出したかと思うと、迷うことなく自分の手の平を傷つけ、それをアリッサに差
し出す。
アリッサはあっさり自分の体を傷つける行動に戸惑いつつ、手を突き出す。そして治癒するよう念じ
る。
シュヴァルツの時と同じように蜂蜜色の輝きが放たれればみるみる傷が癒え、何もなかったように塞がった。
「正真正銘の治癒魔法、だろ」
シュヴァルツが言うと、男は頷く。
「……そのようだ」
魔術師は頭を下げ、寮を出て行く。
「いやあ、すごいよな。傷が一瞬で消えるなんて」
カーティスがしみじみと呟く。
「そうですね……」
正直、自分でやっておきながら驚いてしまう。
「アリッサちゃん、これまで魔法は使えなかったのに、とつぜん治癒魔法を? ……もしかして愛の力か?」
「か、カーティスさん!?」
妙に真面目ぶった顔をして恥ずかしいことを言い出すカーティスに、びっくりしたアリッサの声は上擦ってしまう。
「でもそうとしか考えられないだろ」
「あ、愛だなんて……!」
慌てふためくアリッサを、カーティスがニヤニヤして見つめる。
シュヴァルツと言えば、心底呆れているようだ。
「下らないことを言うな」
シュヴァルツはバッサリと否定する。
その時、団員が踵を鳴らして「失礼いたします」と部屋に入ってくる。
「アリッサさん、団長室までいらっしゃってください」
「わかりました。それじゃあ、シュヴァルツ様、私はこれでって……?」
「なんだ」
「どうしてシュヴァルツ様とカーティス様も立ち上がって?」
「一緒に行くに決まってるだろう」
「俺はどんな話になるか興味があって」
「わ、分かりました」
アリッサは結局、シュヴァルツたちと一緒に団長室を訪ねた。
「お、嬢ちゃん、よく来た……って、おいおい、お前ぇらは呼んでねえぞ」
団長はシュヴァルツとカーティスを前にしてぼやく。
「アリッサについては俺にも知る権利はあります。彼女に関しての全責任を負う立場にあるので」
シュヴァルツは臆面も無く告げる。
「俺は、シュヴァルツのダチとして」
「分かった。好きにしろ。ただ口を挟むなよ」
団長の目が、アリッサへ向く。
「嬢ちゃんに来てもらったのは他でもない。君を団員の一人として迎えたい」
「私を!?」
「そうだ。前にも言ったが、治癒魔法が使える魔術師は稀少だ。是非うちにも一人欲しかったところだ」
「団長。アリッサは一般人です」
「俺は、口を挟むなって言ったぞ」
団長がじっと見つめると、シュヴァルツは気圧されたように怯んだ。
――あのシュヴァルツ様を怯ませるとか、団長様って凄い……。
アリッサからすると、団長はノリのいいおじさんという印象なのに。
さすがに騎士団の猛者たちをまとめ上げるだけのことはあるということか。
「別に嬢ちゃんに戦えだなんて無茶は言わない。怪我人の治療をしてもらいたいんだが、どうだい?」
答えは決まっている。
「喜んでお手伝いさせていただきます!
「お、即決か。いいねえ。気に入った。臨時とはいえ、うちの団員だ。給金も出すからな。話は以上だ」
「失礼いたします」
そして団長室を出るなり、シュヴァルツが立ちはだかった。
「どうして受けた」
いつも以上に、ピリピリした雰囲気のシュヴァルツに見つめられる。
――シュヴァルツ様、怒ってる……?
アリッサからしたらよかれと思って引き受けたというのに。
「私の力がお役に立てるならと……」
「後方要員でも魔獣退治に派遣される以上は、いつ危険に巻き込まれないとも分からないんだぞ。分かっているのか」
「でも私に貴重な力が芽生えた以上は、それを活かすべきだと思ったんです。治癒魔法が使えれば、団員さんたちを助けることだってできますっ」
シュヴァルツと一緒の時間をより過ごせるかもしれないという考えがあったことは否定はしない。
今のアリッサはどこにも寄る辺がない。国には戻れず、家族の誰も頼れない。
大切なものと言われ、思い浮かぶのはシュヴァルツをはじめとしたこの騎士団の人たち。 これまでのアリッサはシュヴァルツに助けられた、お客様だった。
でもここの団員になれば、本当の意味でここが居場所になる。
「アリッサ――」
「そこまでだ、シュヴァルツ」
「カーティス。邪魔を……」
「してねえだろ。お前は実際、アリッサちゃんに助けてもらった。お前の言葉には説得力がないんだよ。俺からしたら、団員を庇って毒を浴びることのほうがよっぽど命知らずで危険だ」
シュヴァルツは言葉に詰まった。
「シュヴァルツ様。決して危険な真似はしませんし、ちゃんと指示に従います」
「……団長が判断したことである以上、俺には何も言えない」
シュヴァルツはマントを翻し、廊下を歩いて行った。
アリッサはその背中を見送り、息を吐き出す。
「カーティス様。私、シュヴァルツ様を怒らせるつもりなんてなかったんです。少しでもシュヴァルツ様たちのお役に立てればと思って……」
「大丈夫。あいつは怒ってないよ」
「そうですか?」
どこからどう見ても怒っているようにしか見えなかったが。
「あれは怒ってるんじゃなくて、心配してるんだよ、あいつは不器用なんだよ、ガキの頃から。だから気にしなくていい」
「……そうなんですね」
カーティスとシュヴァルツの間にある信頼関係に、少し嫉妬してしまう。
他の団員から睨まれ、かなり肩身が狭そうだった。
魔術師は念の為とシュヴァルツの身体を魔法でスキャンしたが、間違いなく毒は完璧に浄化されているということだった。
「この寮には治癒魔法を使える魔術師がいたのですか?」
困惑する魔術師が問いかけると、シュヴァルツとカーティスは一斉に、アリッサを見た。
「あなたが?」
「……そうみたいです」
正直、自分に魔術師としての素養があったなんてことははじめて知ったから困惑するばかりだ。
「見せていただくことは可能ですか?」
「見せるというのはどうしたら……」
魔術師はナイフを取り出したかと思うと、迷うことなく自分の手の平を傷つけ、それをアリッサに差
し出す。
アリッサはあっさり自分の体を傷つける行動に戸惑いつつ、手を突き出す。そして治癒するよう念じ
る。
シュヴァルツの時と同じように蜂蜜色の輝きが放たれればみるみる傷が癒え、何もなかったように塞がった。
「正真正銘の治癒魔法、だろ」
シュヴァルツが言うと、男は頷く。
「……そのようだ」
魔術師は頭を下げ、寮を出て行く。
「いやあ、すごいよな。傷が一瞬で消えるなんて」
カーティスがしみじみと呟く。
「そうですね……」
正直、自分でやっておきながら驚いてしまう。
「アリッサちゃん、これまで魔法は使えなかったのに、とつぜん治癒魔法を? ……もしかして愛の力か?」
「か、カーティスさん!?」
妙に真面目ぶった顔をして恥ずかしいことを言い出すカーティスに、びっくりしたアリッサの声は上擦ってしまう。
「でもそうとしか考えられないだろ」
「あ、愛だなんて……!」
慌てふためくアリッサを、カーティスがニヤニヤして見つめる。
シュヴァルツと言えば、心底呆れているようだ。
「下らないことを言うな」
シュヴァルツはバッサリと否定する。
その時、団員が踵を鳴らして「失礼いたします」と部屋に入ってくる。
「アリッサさん、団長室までいらっしゃってください」
「わかりました。それじゃあ、シュヴァルツ様、私はこれでって……?」
「なんだ」
「どうしてシュヴァルツ様とカーティス様も立ち上がって?」
「一緒に行くに決まってるだろう」
「俺はどんな話になるか興味があって」
「わ、分かりました」
アリッサは結局、シュヴァルツたちと一緒に団長室を訪ねた。
「お、嬢ちゃん、よく来た……って、おいおい、お前ぇらは呼んでねえぞ」
団長はシュヴァルツとカーティスを前にしてぼやく。
「アリッサについては俺にも知る権利はあります。彼女に関しての全責任を負う立場にあるので」
シュヴァルツは臆面も無く告げる。
「俺は、シュヴァルツのダチとして」
「分かった。好きにしろ。ただ口を挟むなよ」
団長の目が、アリッサへ向く。
「嬢ちゃんに来てもらったのは他でもない。君を団員の一人として迎えたい」
「私を!?」
「そうだ。前にも言ったが、治癒魔法が使える魔術師は稀少だ。是非うちにも一人欲しかったところだ」
「団長。アリッサは一般人です」
「俺は、口を挟むなって言ったぞ」
団長がじっと見つめると、シュヴァルツは気圧されたように怯んだ。
――あのシュヴァルツ様を怯ませるとか、団長様って凄い……。
アリッサからすると、団長はノリのいいおじさんという印象なのに。
さすがに騎士団の猛者たちをまとめ上げるだけのことはあるということか。
「別に嬢ちゃんに戦えだなんて無茶は言わない。怪我人の治療をしてもらいたいんだが、どうだい?」
答えは決まっている。
「喜んでお手伝いさせていただきます!
「お、即決か。いいねえ。気に入った。臨時とはいえ、うちの団員だ。給金も出すからな。話は以上だ」
「失礼いたします」
そして団長室を出るなり、シュヴァルツが立ちはだかった。
「どうして受けた」
いつも以上に、ピリピリした雰囲気のシュヴァルツに見つめられる。
――シュヴァルツ様、怒ってる……?
アリッサからしたらよかれと思って引き受けたというのに。
「私の力がお役に立てるならと……」
「後方要員でも魔獣退治に派遣される以上は、いつ危険に巻き込まれないとも分からないんだぞ。分かっているのか」
「でも私に貴重な力が芽生えた以上は、それを活かすべきだと思ったんです。治癒魔法が使えれば、団員さんたちを助けることだってできますっ」
シュヴァルツと一緒の時間をより過ごせるかもしれないという考えがあったことは否定はしない。
今のアリッサはどこにも寄る辺がない。国には戻れず、家族の誰も頼れない。
大切なものと言われ、思い浮かぶのはシュヴァルツをはじめとしたこの騎士団の人たち。 これまでのアリッサはシュヴァルツに助けられた、お客様だった。
でもここの団員になれば、本当の意味でここが居場所になる。
「アリッサ――」
「そこまでだ、シュヴァルツ」
「カーティス。邪魔を……」
「してねえだろ。お前は実際、アリッサちゃんに助けてもらった。お前の言葉には説得力がないんだよ。俺からしたら、団員を庇って毒を浴びることのほうがよっぽど命知らずで危険だ」
シュヴァルツは言葉に詰まった。
「シュヴァルツ様。決して危険な真似はしませんし、ちゃんと指示に従います」
「……団長が判断したことである以上、俺には何も言えない」
シュヴァルツはマントを翻し、廊下を歩いて行った。
アリッサはその背中を見送り、息を吐き出す。
「カーティス様。私、シュヴァルツ様を怒らせるつもりなんてなかったんです。少しでもシュヴァルツ様たちのお役に立てればと思って……」
「大丈夫。あいつは怒ってないよ」
「そうですか?」
どこからどう見ても怒っているようにしか見えなかったが。
「あれは怒ってるんじゃなくて、心配してるんだよ、あいつは不器用なんだよ、ガキの頃から。だから気にしなくていい」
「……そうなんですね」
カーティスとシュヴァルツの間にある信頼関係に、少し嫉妬してしまう。
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