14 / 38
14 過去①
しおりを挟む
命を助けた少年――ルゥは、順調に回復していった。
最初は拾ってきたばかりの猫のように警戒心を剥き出しにした。
詳しい事情は分からなかったが、彼がひどい境遇にあったことは察せられたから、アリッサたちを警戒するのは無理からぬこと。
服を着替えさせようとした使用人たちに対しても暴れ回ったり、お風呂へ入れようとしても、ちょとした隙を突いて部屋を飛び出して、裸で廊下を走り回ったりと手を焼いた。
唯一、大人しかったのは食事時くらい。
だからお腹いっぱいにして眠っているところをお風呂に入れたり、服を着替えさせたりした。
一度眠るとなかなか起きないのが、ルゥの特徴だった。
でもそんな彼もアリッサやアリッサの両親、使用人たちが自分に敵意を持っていないことを少しずつだが理解しはじめてくれた。
屋敷に引き取って二ヶ月も経つと屋敷の生活にも馴染み、人から言われなくても自分の意思で服を着替えたり、風呂に入るようになった。
そう、そして彼がはじめてアレを見せてくれたのは、屋敷で過ごして半年ほど経った頃。
ある晴れ昼下がり、アリッサはルゥと一緒に散歩に出かけていた。
『なあ、アリッサ』
『アリッサお姉ちゃん、でしょ?』
『アリッサがお姉ちゃん!? ありえねー! アリッサは俺より、子どもっぽいだろ! お人形遊びとかしてるし!』
『! あ、あれは、大人でも集めてる人がいるくらいなんだから、子どもの遊びとは違うのよ。それに、子どもに子どもっぽいとか言われたくないんだけど。ルゥクンよりはぜんぜん大人なんだから』
『胸も小さいくせに』
『こら! そんなこと言ったらダメだって言ってるでしょ。どこでそんな言葉を覚えるんだか……』
笑いながらアリッサはルゥのほっぺたをぎゅうぎゅう引っ張った。
手を離すと、ルゥは赤くなった頬をさすった。
そんな風にじゃれあいつつ、道を進んでいくと、いつも渡っている橋がなくなっていた。
昨夜の大雨で流されてしまったのだろう。
『しょうがない。遠回りになるけど、あっちから回ろう』
『大丈夫、渡れる』
『危ないよ。水かさも増してるし、流れも早いでしょ。無理に渡ったら絶対に流されるから』
『大丈夫だって言ってるだろ』
『あのね、ルゥ君……』
『これから見せるのは誰にも言うなよ』
ルゥは両手を川へ向けると目を閉じると、その小さな体が青白い輝きに包まれた。
同時に川がみるみる凍り付きはじめた。
『う、嘘……これって……魔法?』
『母ちゃんはそう言ってた』
『じゃあ、ルゥ君が大怪我を負ったのは……』
『母ちゃんに人前で使ったらダメだって言われたんだけど、でも使っちゃったんだ。でも見せびらかすためじゃない。今日みたいに川が増水してて村のみんなが困ってたから。でも使ったら……俺は悪魔の子どもだって。母ちゃんが悪魔と契約して生まれたんだって。危うく殺されそうになったところを逃げ出して』
『それであんなひどい傷を』
『でもアリッサは、俺を助けてくれたから……だから、特別に見せたんだ』
ルゥは、アリッサの反応を怖々と窺う。
その目は不安に揺れていた。魔法を使ったら村の人間みたいに、アリッサが変わってしまうことを恐れているようだった。
アリッサは満面の笑みで、ルゥを抱きしめた。
『大丈夫だよ。私は魔法を使ってもルゥを嫌ったりしない。魔法ってとっても素敵だと思うよ』
ルゥの顔に笑顔が戻っていく。
『だろ! もっとすごいことだって……
『調子にのならないの』
『へへ! アリッサ! 早く行こうぜ!』
ルゥに手を引かれ、アリッサは笑いながら一緒に走った。
アリッサは、ルゥが魔法を見せてくれたことよりも、魔法を見せるくらい自分のことを信頼しはじめてくれていることが嬉しかった。
最初は拾ってきたばかりの猫のように警戒心を剥き出しにした。
詳しい事情は分からなかったが、彼がひどい境遇にあったことは察せられたから、アリッサたちを警戒するのは無理からぬこと。
服を着替えさせようとした使用人たちに対しても暴れ回ったり、お風呂へ入れようとしても、ちょとした隙を突いて部屋を飛び出して、裸で廊下を走り回ったりと手を焼いた。
唯一、大人しかったのは食事時くらい。
だからお腹いっぱいにして眠っているところをお風呂に入れたり、服を着替えさせたりした。
一度眠るとなかなか起きないのが、ルゥの特徴だった。
でもそんな彼もアリッサやアリッサの両親、使用人たちが自分に敵意を持っていないことを少しずつだが理解しはじめてくれた。
屋敷に引き取って二ヶ月も経つと屋敷の生活にも馴染み、人から言われなくても自分の意思で服を着替えたり、風呂に入るようになった。
そう、そして彼がはじめてアレを見せてくれたのは、屋敷で過ごして半年ほど経った頃。
ある晴れ昼下がり、アリッサはルゥと一緒に散歩に出かけていた。
『なあ、アリッサ』
『アリッサお姉ちゃん、でしょ?』
『アリッサがお姉ちゃん!? ありえねー! アリッサは俺より、子どもっぽいだろ! お人形遊びとかしてるし!』
『! あ、あれは、大人でも集めてる人がいるくらいなんだから、子どもの遊びとは違うのよ。それに、子どもに子どもっぽいとか言われたくないんだけど。ルゥクンよりはぜんぜん大人なんだから』
『胸も小さいくせに』
『こら! そんなこと言ったらダメだって言ってるでしょ。どこでそんな言葉を覚えるんだか……』
笑いながらアリッサはルゥのほっぺたをぎゅうぎゅう引っ張った。
手を離すと、ルゥは赤くなった頬をさすった。
そんな風にじゃれあいつつ、道を進んでいくと、いつも渡っている橋がなくなっていた。
昨夜の大雨で流されてしまったのだろう。
『しょうがない。遠回りになるけど、あっちから回ろう』
『大丈夫、渡れる』
『危ないよ。水かさも増してるし、流れも早いでしょ。無理に渡ったら絶対に流されるから』
『大丈夫だって言ってるだろ』
『あのね、ルゥ君……』
『これから見せるのは誰にも言うなよ』
ルゥは両手を川へ向けると目を閉じると、その小さな体が青白い輝きに包まれた。
同時に川がみるみる凍り付きはじめた。
『う、嘘……これって……魔法?』
『母ちゃんはそう言ってた』
『じゃあ、ルゥ君が大怪我を負ったのは……』
『母ちゃんに人前で使ったらダメだって言われたんだけど、でも使っちゃったんだ。でも見せびらかすためじゃない。今日みたいに川が増水してて村のみんなが困ってたから。でも使ったら……俺は悪魔の子どもだって。母ちゃんが悪魔と契約して生まれたんだって。危うく殺されそうになったところを逃げ出して』
『それであんなひどい傷を』
『でもアリッサは、俺を助けてくれたから……だから、特別に見せたんだ』
ルゥは、アリッサの反応を怖々と窺う。
その目は不安に揺れていた。魔法を使ったら村の人間みたいに、アリッサが変わってしまうことを恐れているようだった。
アリッサは満面の笑みで、ルゥを抱きしめた。
『大丈夫だよ。私は魔法を使ってもルゥを嫌ったりしない。魔法ってとっても素敵だと思うよ』
ルゥの顔に笑顔が戻っていく。
『だろ! もっとすごいことだって……
『調子にのならないの』
『へへ! アリッサ! 早く行こうぜ!』
ルゥに手を引かれ、アリッサは笑いながら一緒に走った。
アリッサは、ルゥが魔法を見せてくれたことよりも、魔法を見せるくらい自分のことを信頼しはじめてくれていることが嬉しかった。
36
お気に入りに追加
965
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
人形な美貌の王女様はイケメン騎士団長の花嫁になりたい
青空一夏
恋愛
美貌の王女は騎士団長のハミルトンにずっと恋をしていた。
ところが、父王から60歳を超える皇帝のもとに嫁がされた。
嫁がなければ戦争になると言われたミレはハミルトンに帰ってきたら妻にしてほしいと頼むのだった。
王女がハミルトンのところにもどるためにたてた作戦とは‥‥
5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる
西野歌夏
恋愛
ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー
私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
婚活に失敗したら第四王子の家庭教師になりました
春浦ディスコ
恋愛
王立学院に勤めていた二十五歳の子爵令嬢のマーサは婚活のために辞職するが、中々相手が見つからない。そんなときに王城から家庭教師の依頼が来て……。見目麗しの第四王子シルヴァンに家庭教師のマーサが陥落されるお話。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる