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1 離婚宣言
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春も終わりの頃。
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
腰まで届く青い髪に紫の瞳のフリーデ・ヴァロワ・グリシールは戦場から帰ってきたばかりの夫、ギュスターブ・エゾフ・グリシールを玄関ホールで出迎えるなり、告げた。
黒髪に、ぞくりとするほどの血のように赤い目をもつ、堂々とした体躯の偉丈夫は、屋敷に入るなり告げられた一言にも、眉一つ動かさない。
「離婚するつもりはない」
「いいえ、していただきます!」
我慢の限界だった。
いい加減、この息苦しい結婚生活に終止符を打ちたかった。そのためなら何でも出来るし、するつもりだった。
もしそれが叶わないのであれば馬車で逃亡するつもりで、城の裏手に待機させていた。
ギュスターブと共に屋敷に戻ってきた騎士たちは、突然はじまった夫婦喧嘩を前に動揺の色を隠せない。
――戦場帰りでいきなり喧嘩を見せて申し訳ないけど、恨むならギュスターブ様を恨んでよね!
フリーデと共に主人を出迎えに来た執事長のルードをはじめとする使用人たちも、まさかの展開に唖然としている。
ただ一人、ギュスターブだけが何事もなく落ち着き払っていた。
その落ち着いた表情さえ、フリーデを馬鹿にしているようにしか見えない。
「ギュスターブ様――」
さらに迫ろうと口を開きかけたフリーデだが、次の瞬間、ギュスターブの背後からひょっこりと子どもが顔を出したのだ。
眩いほどの明るい金髪に、湖を思わせる鮮やかな青い瞳をした少年。
「……へ?」
あまりに予想外すぎる展開に、間の抜けた声が漏れた。
少年の表情にあるのは、不安と怯え、困惑。
夫が簡単に首を縦に振らないのは予想済みで、そのためのシミュレーションは何度となく頭の中で繰り返した。
でも、まさか隠し子まで連れて来ているとは予想外すぎて、頭の中が真っ白になってしまう。
「フリーデ、この子は……」
「こ、こ、こ、この子……?」
ギュスターブがそんな風に誰かを呼んだことが今まであっただろうか。
こいつ、とか、あいつ、というのは聞き覚えがある。
なのに、この子。
間違いなく、隠し子。それも、フリーデよりもずっと好きな相手との間に出来た……。
身勝手な貴族にとって別に珍しいことでも何でもない。
複数の愛人を囲う貴族など都には何人もいた。
公然の秘密で、本人は特別隠そうともしていない。
フリーデの父もそうだったから。
ちなみにフリーデは正妻だった亡き母との間の一人娘。
父は母が亡くなってすぐ愛人と再婚し、その間に生まれた子どもを連れて来た
そんな父親と同じことを、ギュスターブはした。
別にフリーデは、ギュスターブのことを信じていた訳ではなかった。
むしろ、これまで一度も寝室を共にしたことのない十年という歳月を考えれば、特別おかしくはない。
ただ、愛人との子どもを平気で屋敷に連れてくるとは思ってもみなかった。
それも、戦場帰りに。
「――――」
フリーデの理性は限界を迎え、卒倒してしまう。
「ギュスターブ様、離婚しましょう!」
腰まで届く青い髪に紫の瞳のフリーデ・ヴァロワ・グリシールは戦場から帰ってきたばかりの夫、ギュスターブ・エゾフ・グリシールを玄関ホールで出迎えるなり、告げた。
黒髪に、ぞくりとするほどの血のように赤い目をもつ、堂々とした体躯の偉丈夫は、屋敷に入るなり告げられた一言にも、眉一つ動かさない。
「離婚するつもりはない」
「いいえ、していただきます!」
我慢の限界だった。
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ただ一人、ギュスターブだけが何事もなく落ち着き払っていた。
その落ち着いた表情さえ、フリーデを馬鹿にしているようにしか見えない。
「ギュスターブ様――」
さらに迫ろうと口を開きかけたフリーデだが、次の瞬間、ギュスターブの背後からひょっこりと子どもが顔を出したのだ。
眩いほどの明るい金髪に、湖を思わせる鮮やかな青い瞳をした少年。
「……へ?」
あまりに予想外すぎる展開に、間の抜けた声が漏れた。
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夫が簡単に首を縦に振らないのは予想済みで、そのためのシミュレーションは何度となく頭の中で繰り返した。
でも、まさか隠し子まで連れて来ているとは予想外すぎて、頭の中が真っ白になってしまう。
「フリーデ、この子は……」
「こ、こ、こ、この子……?」
ギュスターブがそんな風に誰かを呼んだことが今まであっただろうか。
こいつ、とか、あいつ、というのは聞き覚えがある。
なのに、この子。
間違いなく、隠し子。それも、フリーデよりもずっと好きな相手との間に出来た……。
身勝手な貴族にとって別に珍しいことでも何でもない。
複数の愛人を囲う貴族など都には何人もいた。
公然の秘密で、本人は特別隠そうともしていない。
フリーデの父もそうだったから。
ちなみにフリーデは正妻だった亡き母との間の一人娘。
父は母が亡くなってすぐ愛人と再婚し、その間に生まれた子どもを連れて来た
そんな父親と同じことを、ギュスターブはした。
別にフリーデは、ギュスターブのことを信じていた訳ではなかった。
むしろ、これまで一度も寝室を共にしたことのない十年という歳月を考えれば、特別おかしくはない。
ただ、愛人との子どもを平気で屋敷に連れてくるとは思ってもみなかった。
それも、戦場帰りに。
「――――」
フリーデの理性は限界を迎え、卒倒してしまう。
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