6 / 10
6. 朱色⑥
しおりを挟む
舞踏会当日になっても、結局ドレスは出来上がらず、シンデレラは家の庭で野菜の手入れをしていた。
「仕方ないよ。間に合わなかったから」
一度でいい。だから、胸を躍らせて、煌びやかな世界に行ってみたかった。
けれど、分不相応な希望や夢は打ち砕かれた。
「灰かぶりだもんなあ」
目頭に熱いものが溢れ出し、視界がぼやけていく。
すっかりと傾いた陽が野菜を照らしながら、一筋の涙が頬を伝った時、シンデレラの視界が少しだけ暗くなり、思わず顔を上げると、見知らぬ人が立っていた。
老女というには少しばかり違う。白髪の髪を結い上げているのに、顔には皺がほとんどない。
そのアンバランスさが、奇妙で、涙を流すのをやめた代わりにシンデレラは首を傾けた。
「あなたは?」
女性はシンデレラの土いじりをしていた手を握ると、ふふっと笑った。
「摩訶不思議よね」
「え?」
「いいえ。あなたの望みをかなえてあげるわ」
シンデレラが訝しい気持ちで眉を寄せると、女性はシンデレラの手から己の手を離した。
すると爪の中にまで泥が入っていたというのに、跡形もなく、その汚れはなくなっているばかりか、爪には美しい装飾が施されていた。
「信じるか否かは、あなた次第よ」と言って、ウィンクをする女性を見ながら、シンデレラは心を決めたように、ツバを飲み込んだ。
普通ならば有り得ぬことだが、なぜかシンデレラは信じてしまった。
それはあまりにも普通の出来事のように、じっくりと感じているのだ。
「信じるわ」
まだ望みはある。
シンデレラの答えを聞いて、女性は嬉しそうにわらった。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
陽がすっかり沈み、舞踏会の会場には多くの人が集まっていた。
その中を豪華絢爛な装いで現れた一人の女性に会場が騒がしくなった。
会場の視線を全て攫っていくその女性は紛れもなく、シンデレラなのだが、あまりの変わりようで、彼女の姉や義母も気づいていない。
無理もない。
金糸や銀糸をふんだんに用いた刺繍にビジューを散りばめ、柔らかそうな生地を幾重にも重ねたドレス、首元には大粒のブルーの宝石をあしらい、女性の瞳の色とあっており、それがまた息を呑むほどの洗練さを醸し出していた。
足元はすっきりとしたガラスの靴は歩く度に輝きを放ち、さらに彼女を際立たせた。
数日に分けて城下町に住む未婚の女性を集め、王子の誕生日パーティーが催される。
名目は婚約者探しだ。
王子の婚約者になれるとは思っていない。
人生に一度だけ、この世界を経験したい。
シンデレラは胸を高鳴らせ、着飾った人々、装飾品、調度品に目を奪われていると、目の前に白い手袋が見えたので、ゆっくりと視線を上げていく。
そこにはブラウンの髪に青色の瞳を持つ高貴な男性がいた。
「踊っていただけますか?」
それは王子だった。
「仕方ないよ。間に合わなかったから」
一度でいい。だから、胸を躍らせて、煌びやかな世界に行ってみたかった。
けれど、分不相応な希望や夢は打ち砕かれた。
「灰かぶりだもんなあ」
目頭に熱いものが溢れ出し、視界がぼやけていく。
すっかりと傾いた陽が野菜を照らしながら、一筋の涙が頬を伝った時、シンデレラの視界が少しだけ暗くなり、思わず顔を上げると、見知らぬ人が立っていた。
老女というには少しばかり違う。白髪の髪を結い上げているのに、顔には皺がほとんどない。
そのアンバランスさが、奇妙で、涙を流すのをやめた代わりにシンデレラは首を傾けた。
「あなたは?」
女性はシンデレラの土いじりをしていた手を握ると、ふふっと笑った。
「摩訶不思議よね」
「え?」
「いいえ。あなたの望みをかなえてあげるわ」
シンデレラが訝しい気持ちで眉を寄せると、女性はシンデレラの手から己の手を離した。
すると爪の中にまで泥が入っていたというのに、跡形もなく、その汚れはなくなっているばかりか、爪には美しい装飾が施されていた。
「信じるか否かは、あなた次第よ」と言って、ウィンクをする女性を見ながら、シンデレラは心を決めたように、ツバを飲み込んだ。
普通ならば有り得ぬことだが、なぜかシンデレラは信じてしまった。
それはあまりにも普通の出来事のように、じっくりと感じているのだ。
「信じるわ」
まだ望みはある。
シンデレラの答えを聞いて、女性は嬉しそうにわらった。
それからどれくらいの時間が経っただろうか。
陽がすっかり沈み、舞踏会の会場には多くの人が集まっていた。
その中を豪華絢爛な装いで現れた一人の女性に会場が騒がしくなった。
会場の視線を全て攫っていくその女性は紛れもなく、シンデレラなのだが、あまりの変わりようで、彼女の姉や義母も気づいていない。
無理もない。
金糸や銀糸をふんだんに用いた刺繍にビジューを散りばめ、柔らかそうな生地を幾重にも重ねたドレス、首元には大粒のブルーの宝石をあしらい、女性の瞳の色とあっており、それがまた息を呑むほどの洗練さを醸し出していた。
足元はすっきりとしたガラスの靴は歩く度に輝きを放ち、さらに彼女を際立たせた。
数日に分けて城下町に住む未婚の女性を集め、王子の誕生日パーティーが催される。
名目は婚約者探しだ。
王子の婚約者になれるとは思っていない。
人生に一度だけ、この世界を経験したい。
シンデレラは胸を高鳴らせ、着飾った人々、装飾品、調度品に目を奪われていると、目の前に白い手袋が見えたので、ゆっくりと視線を上げていく。
そこにはブラウンの髪に青色の瞳を持つ高貴な男性がいた。
「踊っていただけますか?」
それは王子だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
(完結)私より妹を優先する夫
青空一夏
恋愛
私はキャロル・トゥー。トゥー伯爵との間に3歳の娘がいる。私達は愛し合っていたし、子煩悩の夫とはずっと幸せが続く、そう思っていた。
ところが、夫の妹が離婚して同じく3歳の息子を連れて出戻ってきてから夫は変わってしまった。
ショートショートですが、途中タグの追加や変更がある場合があります。
未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした
星ふくろう
恋愛
カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。
帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。
その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。
数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。
他の投稿サイトでも掲載しています。
【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」
そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。
彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・
産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。
----
初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。
終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。
お読みいただきありがとうございます。
(完)私を裏切る夫は親友と心中する
青空一夏
恋愛
前編・中編・後編の3話
私を裏切って長年浮気をし子供まで作っていた夫。懲らしめようとした私は・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風。R15大人向き。内容はにやりとくるざまぁで復讐もの。ゆるふわ設定ご都合主義。
※携帯電話・テレビのある異世界中世ヨーロッパ風。当然、携帯にカメラも録音機能もありです。
(完)「あたしが奥様の代わりにお世継ぎを産んで差し上げますわ!」と言うけれど、そもそも夫は当主ではありませんよ?
青空一夏
恋愛
夫のセオは文官。最近は部署も変わり部下も増えた様子で帰宅時間もどんどん遅くなっていた。
私は夫を気遣う。
「そんなに根を詰めてはお体にさわりますよ」
「まだまだやらなければならないことが山積みなんだよ。新しい部署に移ったら部下が増えたんだ。だから、大忙しなのさ」
夫はとても頑張り屋さんだ。それは私の誇りだった……はずなのだけれど?
形だけの妻ですので
hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。
相手は伯爵令嬢のアリアナ。
栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。
形だけの妻である私は黙認を強制されるが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる