虹色古書店

カズモリ

文字の大きさ
1 / 11

1. 朱色①

しおりを挟む
 本は不思議だ。
 作家が膨大な時間をかけ、己の知識と想像力を詰め込んだ言葉の海は読者に多くの感情を与えてくれる。それを読者はたった2000円以下で得られる至極の産物だ。

 だからだろうか。

 ベルによって開発された電話は手のひらに収まる形に改良されてスマートフォンが主流となった。
 だが、この本という産物は電子書籍もあるものの、ほぼ形状が変化していない。
 人間はいくつになっても紙をめくり、物語の中に入り込むこのワクワクと高揚感がとめられないのだろう。
 それゆえに時代が変わろうとも、この本という形状は変わらない。


 小学2年生のアカリは赤色のランドセルを背負いながら、ため息を吐いた。
 これから塾に行って宿題をして、ピアノの練習をして……。遊ぶ時間が全然ない。テレビを見たくてもママに怒られるし。
 本当はみんながやっているゲームとかやりたいけれど、そんなことママが許してくれない。
 少しでいいからゆっくりしたい。

 そんなことを考えながらランドセルの肩ベルトを握りしめていると、目の前にステンドグラスで彩られた花がたくさんある古書店についていた。

「あれ、ここ」

 アカリの通学路にあるこの店はレトロな雰囲気を纏っており、陽に焼けた看板には「虹色古書店」とかかれている。
 店先のガラスは彩り豊かなステンドガラスがあり、薔薇の花や紫陽花、ひまわりなどの花々が模様されており、太陽の光を浴びて緑、青、黄、桃色など反射して地面に美しく映し出している。
 だが、これだけ綺麗なステンドグラスなのに、何故か赤色がない。


 赤なんて青と同じくらい選びやすいし、花模様なのだから、むしろ青よりも赤があっても良さそうなのに、変なの。

 そう思ったものの、アカリはそれ以上気に止めることはなかった。

 この店のステンドグラスが美しいので前々から気にはなっていたものの、友達は本には興味ないと言って、入ったことはないし、ママは古い本なんて不衛生だわ、と言って、通り過ぎたことはあっても入ったことがなかった。
 だから、気に留める以前にじっくりと考える機会などなかった。

 今日は一人だし、誰も止める人はいない。日直で帰りが遅くなったし、周りにランドセルを背負っている子はいないことを確認すると、アカリは何かを決め込んだように、ごくりと、唾を喉に流し込む。

 おそるおそる店の中へと続く扉を押すと、チリンチリンと金属の風鈴の音が鳴ったので、緊張していまアカリは少しだけピクリとと体を動かした。

「いらっしゃいませ」
 店内では10歳くらいの少女が二人カウンターの奥の椅子にちょこんと行儀よく並んで座っており、二人はニコニコしてアカリを見ていた。

 日本人形のようなおかっぱ頭の二人は、双子なのかそっくりだったのでアカリにとっては、少し気味悪く感じたのだが、店内に広がる本の香りに心が踊っていた。

「好きな本を奥の部屋で見ることができますよ」
 少女の一人がそう言って、自身もそうしているのか、カウンターに広げていた本を広げたまま背表紙を持ち上げて見せてくれた。


(すぐ帰っても、ママに勉強させられるし、ゲームをしたら怒られるけれど、本を読んでここで時間潰していても、怒られないし、本を読むのもありよね)

 アカリは店内の奥に歩いていくと、本棚に並べられている本の一つを取ると、それは金糸や銀糸で施された花の模様の刺繍が朱色の布張りの表紙に施されていた。
「うわあ、綺麗」

 ただ、ページの端や表紙の一部が擦り切れており、ページ自体が茶色に沈着していた。
 それを加味しても充分魅力的なオーラを放っているので、アカリはページをめくってみたいという衝動にかられ、思わず背表紙の次のページを開こうとした。

 その時、「読んでみますか?」と背中から声が聞こえ、アカリはびっくりして、肩をピクリと動かした。

 無理もない。
 カウンターにいたはずの少女たちがなぜかアカリの後ろに立っており、アカリは少しびっくりしたものの「うん」と答えると、不安を拭い去るように先ほどの本を抱きしめる。

「案内しますね」
 少女の一人は了解したと言わんばかりに、ニコリと笑顔を見せたので、アカリは少しだけ不安が払拭された。
 少女はこの古書店にあるという本を読める部屋に案内してくれるのだろう。
「ごめんなさいね」
 そう言ってアカリの前を歩いて、奥へと進んでいく。

 もう一人の少女はというと、アカリの持った本の表紙を凝視したかと思うとカウンターにそそくさと戻って行き、何やら帳簿のようなものに鉛筆で認めているのが、歩きながら確認できた。

 アカリが案内された部屋は2畳ほどの広さしかない部屋で、アンティーク調の椅子とテーブルが置いてあるだけで、少しだけ寂しい雰囲気のある部屋だった。

「ここにお掛けください」
 少女が椅子を引いてくれたので、アカリはランドセルをテーブルの端におくと、ゆっくりと腰を下ろした。

 何だかわからないが随分と座り心地の良い椅子で、早く本を読みたいという気持ちに駆られる。
 アカリは本をテーブルに置き、布張りの表紙をゆっくりとめくっていく。

 その間、窓なんてないのに、何故か時が止まったかのような、風が全身を包むようなそんな感覚だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

処理中です...