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1. 朱色①
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本は不思議だ。
作家が膨大な時間をかけ、己の知識と想像力を詰め込んだ言葉の海は読者に多くの感情を与えてくれる。それを読者はたった2000円以下で得られる至極の産物だ。
だからだろうか。
ベルによって開発された電話は手のひらに収まる形に改良されてスマートフォンが主流となった。
だが、この本という産物は電子書籍もあるものの、ほぼ形状が変化していない。
人間はいくつになっても紙をめくり、物語の中に入り込むこのワクワクと高揚感がとめられないのだろう。
それゆえに時代が変わろうとも、この本という形状は変わらない。
小学2年生のアカリは赤色のランドセルを背負いながら、ため息を吐いた。
これから塾に行って宿題をして、ピアノの練習をして……。遊ぶ時間が全然ない。テレビを見たくてもママに怒られるし。
本当はみんながやっているゲームとかやりたいけれど、そんなことママが許してくれない。
少しでいいからゆっくりしたい。
そんなことを考えながらランドセルの肩ベルトを握りしめていると、目の前にステンドグラスで彩られた花がたくさんある古書店についていた。
「あれ、ここ」
アカリの通学路にあるこの店はレトロな雰囲気を纏っており、陽に焼けた看板には「虹色古書店」とかかれている。
店先のガラスは彩り豊かなステンドガラスがあり、薔薇の花や紫陽花、ひまわりなどの花々が模様されており、太陽の光を浴びて緑、青、黄、桃色など反射して地面に美しく映し出している。
だが、これだけ綺麗なステンドグラスなのに、何故か赤色がない。
赤なんて青と同じくらい選びやすいし、花模様なのだから、むしろ青よりも赤があっても良さそうなのに、変なの。
そう思ったものの、アカリはそれ以上気に止めることはなかった。
この店のステンドグラスが美しいので前々から気にはなっていたものの、友達は本には興味ないと言って、入ったことはないし、ママは古い本なんて不衛生だわ、と言って、通り過ぎたことはあっても入ったことがなかった。
だから、気に留める以前にじっくりと考える機会などなかった。
今日は一人だし、誰も止める人はいない。日直で帰りが遅くなったし、周りにランドセルを背負っている子はいないことを確認すると、アカリは何かを決め込んだように、ごくりと、唾を喉に流し込む。
おそるおそる店の中へと続く扉を押すと、チリンチリンと金属の風鈴の音が鳴ったので、緊張していまアカリは少しだけピクリとと体を動かした。
「いらっしゃいませ」
店内では10歳くらいの少女が二人カウンターの奥の椅子にちょこんと行儀よく並んで座っており、二人はニコニコしてアカリを見ていた。
日本人形のようなおかっぱ頭の二人は、双子なのかそっくりだったのでアカリにとっては、少し気味悪く感じたのだが、店内に広がる本の香りに心が踊っていた。
「好きな本を奥の部屋で見ることができますよ」
少女の一人がそう言って、自身もそうしているのか、カウンターに広げていた本を広げたまま背表紙を持ち上げて見せてくれた。
(すぐ帰っても、ママに勉強させられるし、ゲームをしたら怒られるけれど、本を読んでここで時間潰していても、怒られないし、本を読むのもありよね)
アカリは店内の奥に歩いていくと、本棚に並べられている本の一つを取ると、それは金糸や銀糸で施された花の模様の刺繍が朱色の布張りの表紙に施されていた。
「うわあ、綺麗」
ただ、ページの端や表紙の一部が擦り切れており、ページ自体が茶色に沈着していた。
それを加味しても充分魅力的なオーラを放っているので、アカリはページをめくってみたいという衝動にかられ、思わず背表紙の次のページを開こうとした。
その時、「読んでみますか?」と背中から声が聞こえ、アカリはびっくりして、肩をピクリと動かした。
無理もない。
カウンターにいたはずの少女たちがなぜかアカリの後ろに立っており、アカリは少しびっくりしたものの「うん」と答えると、不安を拭い去るように先ほどの本を抱きしめる。
「案内しますね」
少女の一人は了解したと言わんばかりに、ニコリと笑顔を見せたので、アカリは少しだけ不安が払拭された。
少女はこの古書店にあるという本を読める部屋に案内してくれるのだろう。
「ごめんなさいね」
そう言ってアカリの前を歩いて、奥へと進んでいく。
もう一人の少女はというと、アカリの持った本の表紙を凝視したかと思うとカウンターにそそくさと戻って行き、何やら帳簿のようなものに鉛筆で認めているのが、歩きながら確認できた。
アカリが案内された部屋は2畳ほどの広さしかない部屋で、アンティーク調の椅子とテーブルが置いてあるだけで、少しだけ寂しい雰囲気のある部屋だった。
「ここにお掛けください」
少女が椅子を引いてくれたので、アカリはランドセルをテーブルの端におくと、ゆっくりと腰を下ろした。
何だかわからないが随分と座り心地の良い椅子で、早く本を読みたいという気持ちに駆られる。
アカリは本をテーブルに置き、布張りの表紙をゆっくりとめくっていく。
その間、窓なんてないのに、何故か時が止まったかのような、風が全身を包むようなそんな感覚だった。
作家が膨大な時間をかけ、己の知識と想像力を詰め込んだ言葉の海は読者に多くの感情を与えてくれる。それを読者はたった2000円以下で得られる至極の産物だ。
だからだろうか。
ベルによって開発された電話は手のひらに収まる形に改良されてスマートフォンが主流となった。
だが、この本という産物は電子書籍もあるものの、ほぼ形状が変化していない。
人間はいくつになっても紙をめくり、物語の中に入り込むこのワクワクと高揚感がとめられないのだろう。
それゆえに時代が変わろうとも、この本という形状は変わらない。
小学2年生のアカリは赤色のランドセルを背負いながら、ため息を吐いた。
これから塾に行って宿題をして、ピアノの練習をして……。遊ぶ時間が全然ない。テレビを見たくてもママに怒られるし。
本当はみんながやっているゲームとかやりたいけれど、そんなことママが許してくれない。
少しでいいからゆっくりしたい。
そんなことを考えながらランドセルの肩ベルトを握りしめていると、目の前にステンドグラスで彩られた花がたくさんある古書店についていた。
「あれ、ここ」
アカリの通学路にあるこの店はレトロな雰囲気を纏っており、陽に焼けた看板には「虹色古書店」とかかれている。
店先のガラスは彩り豊かなステンドガラスがあり、薔薇の花や紫陽花、ひまわりなどの花々が模様されており、太陽の光を浴びて緑、青、黄、桃色など反射して地面に美しく映し出している。
だが、これだけ綺麗なステンドグラスなのに、何故か赤色がない。
赤なんて青と同じくらい選びやすいし、花模様なのだから、むしろ青よりも赤があっても良さそうなのに、変なの。
そう思ったものの、アカリはそれ以上気に止めることはなかった。
この店のステンドグラスが美しいので前々から気にはなっていたものの、友達は本には興味ないと言って、入ったことはないし、ママは古い本なんて不衛生だわ、と言って、通り過ぎたことはあっても入ったことがなかった。
だから、気に留める以前にじっくりと考える機会などなかった。
今日は一人だし、誰も止める人はいない。日直で帰りが遅くなったし、周りにランドセルを背負っている子はいないことを確認すると、アカリは何かを決め込んだように、ごくりと、唾を喉に流し込む。
おそるおそる店の中へと続く扉を押すと、チリンチリンと金属の風鈴の音が鳴ったので、緊張していまアカリは少しだけピクリとと体を動かした。
「いらっしゃいませ」
店内では10歳くらいの少女が二人カウンターの奥の椅子にちょこんと行儀よく並んで座っており、二人はニコニコしてアカリを見ていた。
日本人形のようなおかっぱ頭の二人は、双子なのかそっくりだったのでアカリにとっては、少し気味悪く感じたのだが、店内に広がる本の香りに心が踊っていた。
「好きな本を奥の部屋で見ることができますよ」
少女の一人がそう言って、自身もそうしているのか、カウンターに広げていた本を広げたまま背表紙を持ち上げて見せてくれた。
(すぐ帰っても、ママに勉強させられるし、ゲームをしたら怒られるけれど、本を読んでここで時間潰していても、怒られないし、本を読むのもありよね)
アカリは店内の奥に歩いていくと、本棚に並べられている本の一つを取ると、それは金糸や銀糸で施された花の模様の刺繍が朱色の布張りの表紙に施されていた。
「うわあ、綺麗」
ただ、ページの端や表紙の一部が擦り切れており、ページ自体が茶色に沈着していた。
それを加味しても充分魅力的なオーラを放っているので、アカリはページをめくってみたいという衝動にかられ、思わず背表紙の次のページを開こうとした。
その時、「読んでみますか?」と背中から声が聞こえ、アカリはびっくりして、肩をピクリと動かした。
無理もない。
カウンターにいたはずの少女たちがなぜかアカリの後ろに立っており、アカリは少しびっくりしたものの「うん」と答えると、不安を拭い去るように先ほどの本を抱きしめる。
「案内しますね」
少女の一人は了解したと言わんばかりに、ニコリと笑顔を見せたので、アカリは少しだけ不安が払拭された。
少女はこの古書店にあるという本を読める部屋に案内してくれるのだろう。
「ごめんなさいね」
そう言ってアカリの前を歩いて、奥へと進んでいく。
もう一人の少女はというと、アカリの持った本の表紙を凝視したかと思うとカウンターにそそくさと戻って行き、何やら帳簿のようなものに鉛筆で認めているのが、歩きながら確認できた。
アカリが案内された部屋は2畳ほどの広さしかない部屋で、アンティーク調の椅子とテーブルが置いてあるだけで、少しだけ寂しい雰囲気のある部屋だった。
「ここにお掛けください」
少女が椅子を引いてくれたので、アカリはランドセルをテーブルの端におくと、ゆっくりと腰を下ろした。
何だかわからないが随分と座り心地の良い椅子で、早く本を読みたいという気持ちに駆られる。
アカリは本をテーブルに置き、布張りの表紙をゆっくりとめくっていく。
その間、窓なんてないのに、何故か時が止まったかのような、風が全身を包むようなそんな感覚だった。
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