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リースの森
抜け道
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「まさか、こんな抜け道があるとはな。」
シャクドウは屈んで穴を覗き込む。
その穴はギリギリ大人一人が通れる程の小さな穴だった。
わずかだが奥からひんやりと肌をくすぐる風が吹いてきている。
「ここから村の外れまで逃げられるわ。」
「なんでこんな抜け道知ってるんだ?」
純粋に疑問に思ったゲンはユズハに尋ねた。
「詳しいことは後で話すわ。奴らに気付かれる前にまずは逃げましょう。ここは見張ってるから二人は先に行って!」
「いや、女の子を置いて先に行くわけには……」
「鈍感な男ね! いいから早く!」
ユズハは呆れたようにゲンの背中を少し強めに押す。
油断していたゲンは思わずバランスを崩して転びそうになる。
振り返って文句を言おうとしたが、ユズハが頬を膨らませ鋭い目つきで睨んでいた。
機嫌を損ねたらまた矢が飛んでくるかもしれないと身震いしたゲンは、渋々穴を潜るためしゃがみ込み穴に入って行く。
その様子を見て察したシャクドウはやれやれといった表情をするとゲンに続いた。
「……全く、よりによってなんであんな男なのよ。」
ユズハは二人が穴の奥に進んでいった姿を確認した後、静かに独り呟く。
そして、周りの安全を確認すると、二人の後を追いかけるように穴に潜り込み、そっと穴を塞いでいた布を元に戻した。
✳︎
細く長い穴を抜けた先には再び霧の深いリースの森が広がっていた。
ゲンは立ち上がり身体中に付着した土汚れを払う。
ゲンに続いてシャクドウ、ユズハも穴から出てきた。
「……本当に抜けられた」
ゲンは明るいところに出られた安心感から安堵の声が漏れる。
「まさか、私を疑ってたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど……。あまりに長かったから」
「しかし、よくこんな抜け道知ってたな。」
シャクドウは感心したように言う。
「知ってたも何も、これ、私が作った道だからね。」
驚いた二人の視線がユズハに向く。
それに気がついたユズハだったが淡々と続ける。
「あ、勘違いしないでね。手で掘ったわけじゃないから。私みたいなか弱い女の子がそんなことできるわけないでしょ」
誰がか弱い女の子だ! とゲンはツッコミたかったが、そんな事を言ってしまった日には心臓を貫かれ兼ねないと思い、なんとか心の中に留めておいた。
「じゃあどうやってこんな道作ったんだよ。」
ゲンがそう言うと、ユズハは少し間を開けて口を開いた。
「実は私、あなた達と違って普通の人じゃないのよ。」
「へ?」
思わずゲンの口から情けない声が漏れる。
あまりに予想斜め上の返答に拍子抜けしてしまった。
頭の中にはいくつもの疑問符が浮かび上がる。
この女は何を言ってるんだ?
自分は人間じゃありません。実はゴリラだったんです。とでも言うつもりだろうか?
そんなゲンの反応とは裏腹に、シャクドウは至って冷静だった。
「もしや、妖精だ。って言うつもりではないだろうな?」
「お、鋭いね。でも残念。私は人間と妖精のハーフなの。」
ユズハは耳にかかった綺麗な淡い緑色の髪をかき上げる。
すると、普通の人にはない尖った耳が現れた。
「ガハハ! 道理で不思議な力を使うわけだ!」
シャクドウは頭の中で引っかかっていたものが解かれたようでスッキリしたのか豪快に笑ってみせた。
しかし、そんな二人を余所にゲンは全く話についていくことができなかった。
モンスターのことについては小さな頃に父親から聞かされていたが、妖精がいるなど初耳だった。
「ま、待って! 全然何言ってんのかわからない。俺にもわかるように説明してよ。」
「いいわ。妖精ってのはね、普段人間の目につかないような森の奥に住んでるの。例えばこのリースの森のようなね。そして妖精は自然の力を借りることができるの。私はハーフだから純血の妖精程強力では無いけど、それでもある程度力を使うことができるわ。」
ユズハはそう言って弓を取り出し左手で構えると、『何も持たない右手』を添えた。
すると、段々と右手に淡い光のようなものが集まっていき、それは次第に矢の形状へと変化していく。
「まあ、こんな感じ。」
ユズハが弓を下ろすと、矢は光の粒となって消えていった。
その光景を目の当たりにしたゲンは、驚きのあまりただただ目を丸くしていた。
シャクドウも興味深そうにその様子を眺めていた。
その時だった。
ここから少し離れた位置、ちょうど村があった方向からギャアギャアと騒ぎ立てる声が聞こえてくる。
「まずい、奴ら俺たちがいなくなっていることに気がついたようだ。」
いち早く反応したのはシャクドウだった。
いつでも攻撃できるように背中の斧に手を添える。
少し遅れてゲンも剣を構え、辺りを見渡した。
「戦っちゃダメ! アイツらは力は弱いけど頭はいいの! 数は圧倒的に向こうが有利なんだから逃げないと!」
そんな二人を見たユズハが慌てたように自分たちだけに聞こえるように声を張る。
「あ、あぁ、すまない」
その声で臨戦態勢に入っていたシャクドウは冷静になった。
ゲンも大人しく剣を背中の鞘に収める。
そして、3人は村から遠ざかるように、ユズハを筆頭に森の奥へと逃げていった。
この時、ゲンが持つ剣の光が僅かに強くなっていたことに誰も気がつくことはなかった。
シャクドウは屈んで穴を覗き込む。
その穴はギリギリ大人一人が通れる程の小さな穴だった。
わずかだが奥からひんやりと肌をくすぐる風が吹いてきている。
「ここから村の外れまで逃げられるわ。」
「なんでこんな抜け道知ってるんだ?」
純粋に疑問に思ったゲンはユズハに尋ねた。
「詳しいことは後で話すわ。奴らに気付かれる前にまずは逃げましょう。ここは見張ってるから二人は先に行って!」
「いや、女の子を置いて先に行くわけには……」
「鈍感な男ね! いいから早く!」
ユズハは呆れたようにゲンの背中を少し強めに押す。
油断していたゲンは思わずバランスを崩して転びそうになる。
振り返って文句を言おうとしたが、ユズハが頬を膨らませ鋭い目つきで睨んでいた。
機嫌を損ねたらまた矢が飛んでくるかもしれないと身震いしたゲンは、渋々穴を潜るためしゃがみ込み穴に入って行く。
その様子を見て察したシャクドウはやれやれといった表情をするとゲンに続いた。
「……全く、よりによってなんであんな男なのよ。」
ユズハは二人が穴の奥に進んでいった姿を確認した後、静かに独り呟く。
そして、周りの安全を確認すると、二人の後を追いかけるように穴に潜り込み、そっと穴を塞いでいた布を元に戻した。
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細く長い穴を抜けた先には再び霧の深いリースの森が広がっていた。
ゲンは立ち上がり身体中に付着した土汚れを払う。
ゲンに続いてシャクドウ、ユズハも穴から出てきた。
「……本当に抜けられた」
ゲンは明るいところに出られた安心感から安堵の声が漏れる。
「まさか、私を疑ってたの?」
「いや、そういう訳じゃないけど……。あまりに長かったから」
「しかし、よくこんな抜け道知ってたな。」
シャクドウは感心したように言う。
「知ってたも何も、これ、私が作った道だからね。」
驚いた二人の視線がユズハに向く。
それに気がついたユズハだったが淡々と続ける。
「あ、勘違いしないでね。手で掘ったわけじゃないから。私みたいなか弱い女の子がそんなことできるわけないでしょ」
誰がか弱い女の子だ! とゲンはツッコミたかったが、そんな事を言ってしまった日には心臓を貫かれ兼ねないと思い、なんとか心の中に留めておいた。
「じゃあどうやってこんな道作ったんだよ。」
ゲンがそう言うと、ユズハは少し間を開けて口を開いた。
「実は私、あなた達と違って普通の人じゃないのよ。」
「へ?」
思わずゲンの口から情けない声が漏れる。
あまりに予想斜め上の返答に拍子抜けしてしまった。
頭の中にはいくつもの疑問符が浮かび上がる。
この女は何を言ってるんだ?
自分は人間じゃありません。実はゴリラだったんです。とでも言うつもりだろうか?
そんなゲンの反応とは裏腹に、シャクドウは至って冷静だった。
「もしや、妖精だ。って言うつもりではないだろうな?」
「お、鋭いね。でも残念。私は人間と妖精のハーフなの。」
ユズハは耳にかかった綺麗な淡い緑色の髪をかき上げる。
すると、普通の人にはない尖った耳が現れた。
「ガハハ! 道理で不思議な力を使うわけだ!」
シャクドウは頭の中で引っかかっていたものが解かれたようでスッキリしたのか豪快に笑ってみせた。
しかし、そんな二人を余所にゲンは全く話についていくことができなかった。
モンスターのことについては小さな頃に父親から聞かされていたが、妖精がいるなど初耳だった。
「ま、待って! 全然何言ってんのかわからない。俺にもわかるように説明してよ。」
「いいわ。妖精ってのはね、普段人間の目につかないような森の奥に住んでるの。例えばこのリースの森のようなね。そして妖精は自然の力を借りることができるの。私はハーフだから純血の妖精程強力では無いけど、それでもある程度力を使うことができるわ。」
ユズハはそう言って弓を取り出し左手で構えると、『何も持たない右手』を添えた。
すると、段々と右手に淡い光のようなものが集まっていき、それは次第に矢の形状へと変化していく。
「まあ、こんな感じ。」
ユズハが弓を下ろすと、矢は光の粒となって消えていった。
その光景を目の当たりにしたゲンは、驚きのあまりただただ目を丸くしていた。
シャクドウも興味深そうにその様子を眺めていた。
その時だった。
ここから少し離れた位置、ちょうど村があった方向からギャアギャアと騒ぎ立てる声が聞こえてくる。
「まずい、奴ら俺たちがいなくなっていることに気がついたようだ。」
いち早く反応したのはシャクドウだった。
いつでも攻撃できるように背中の斧に手を添える。
少し遅れてゲンも剣を構え、辺りを見渡した。
「戦っちゃダメ! アイツらは力は弱いけど頭はいいの! 数は圧倒的に向こうが有利なんだから逃げないと!」
そんな二人を見たユズハが慌てたように自分たちだけに聞こえるように声を張る。
「あ、あぁ、すまない」
その声で臨戦態勢に入っていたシャクドウは冷静になった。
ゲンも大人しく剣を背中の鞘に収める。
そして、3人は村から遠ざかるように、ユズハを筆頭に森の奥へと逃げていった。
この時、ゲンが持つ剣の光が僅かに強くなっていたことに誰も気がつくことはなかった。
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