ロングシュート。

少女××

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【おまけ】執着のすすめ。

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俺はあの瞬間を今でも忘れない。

コートの中央で手を伸ばした彼女は
他の誰にもない輝きを持っているように見えた。

美しく放たれたボールは吸い込まれるように
ゴールに入る。

誰もが息を呑むほど完璧なロングシュート。
なのに、当の本人はなんでことなさげに
次の動作に移る。

彼女の一挙一動に目が離せない。


中学の夏。
俺は初めてバスケの試合で感動を覚えた。

その美しい人に近づきたくて、
小さい頃から続けていた剣道をやめて
バスケを始めた。

思うように動けなくて全然ダメで、
それでも彼女を思い出しては必死に努力した。

中学二年の大会で女子バスケを見れば
その人の姿はなく、ひどく落胆したのを覚えている。

それでもいつか、彼女を打ち負かしてみたくて、
あの美しいロングシュートを崩してみたくて、
俺はただバスケをした。

その思いはだんだんといびつに曲がり、
彼女への欲望に変わる。

あの伸びた腕を掴んで引いてみたい、
あの美しい指先を俺の指に絡めてみたい、
あの浮き出た喉に噛みつきたい、
弓形に反らした背を俺の上で、、。

沸々と湧き上がる欲望をボールに乗せて
ゴールに叩きつける。

俺の得意技がダンクシュートになっていたのは
身長のせいだけではないようだ。 

二度目にその人をみたのは体育館ではなくグラウンドだった。

彼女は美しい足を惜しげもなく晒し、
薄汚れた白黒の球を蹴っている。

俺は思わず股間を押さえた。

いや、蹴られたいとか思ったわけじゃない、
本当です。

彼女の動きは無茶苦茶で、
ボールなど捨て置いてしまうかのように素早いのに
磁石でも入っているのかと錯覚するほど
ボールが彼女から離れない。

時に蹴り上げ、時に撫で回すように左右へ、、
彼女の足が動くたびに俺の欲望を刺激した。

俺はすぐにサッカーをはじめた。
バスケを辞める際にはかなり揉めたが
彼女に近づくためならなんだってよかった。

運動をするための下地ができていたからか、
さして苦労することもなく
サッカーの技術を伸ばした。

次にその人を見たのは水泳場。

もう、、何があったのかは察してくれ。

俺は水泳には向かなかった。
泳ごうとするたびに彼女の水着姿が
頭をチラついて人前に出れる格好では
いられなかったからだ。

そうして気づいたが、彼女は天才だ。

何事も必要以上にできてしまうし、
それゆえに何にも本気を出していない。

彼女に近づくために一体何をしたらいいのか
分からなかった。

考えているうちに高校生になって、
結局初めて彼女を美しいと思った
バスケを伸ばすことにした。

きっとあの人はバスケなんて好きでもなんでもなくて、
俺のことなんて記憶の彼方にすらないのだろう。

それでも巡り合わせがあればと、
本腰を入れて技術を磨いた。

そもそも、俺だって別にバスケが好きなんじゃない。

俺が好きなのはあの人の美しく綺麗で、
汚したいほど清らかなロングシュートなのだから。

そんな俺に転機がやってきた。

頭の軽そうなバスケ野郎に絡まれて、
面倒なのでやり過ごそうと俯いた時のことだ。

「楽しそうなことしてるね。」

凛とした声に少し悪戯な音を乗せて紡がれた言葉を聞いて
本能が 彼女だ、と言った。

バッと顔を上げれば焦がれたあの人の姿。

重心をずらすことなくまっすぐ歩く様は
動き慣れた人の姿勢で、
図るような歩幅はきっと
すぐにでも動けるようになのだろう。

男たちの視線が彼女に集まる瞬間、
目にも止まらぬ速さで視界の外に消えた彼女に
俺ですら一瞬彼女を見失った。

ボールを奪った彼女はひどく楽しそうに笑っている。

対峙する男たちはまだ彼女の実力を測れないのか、
にやにやとその人に手を伸ばした。

その男に、殺意が湧く。

俺の夢見た彼女との対峙を
なんの苦労もなく他の人間がやっている。

殺してやりたいほど憎いと思ったその時、
あえて男たちの合間を縫ってドリブルをする彼女は無造作にボールを放った。

その姿は、あの時俺に感動を与え
俺を欲望に溺れさせた、美しすぎるロングシュートと
変わらぬものだった。

溢れ出す気持ち、、あの人は、俺のものだ。

見せつけるように、何度も何度も点を入れる彼女から
目が離せない。

だんだんと勢いを無くしていく男たちとは逆に
俺は足を正してひたすらに彼女に熱を上げていく。

熱い、、。
体の奥から湧き上がるほど彼女のプレーに魅せられて、
俺は再び彼女の虜になった。

ずっと後悔していた、声をかけなかったことを。

今回こそはと張り切って声を上げかければ、
彼女は俺のことなど眼中にないと言うように
フェンスを超えて颯爽と大通りに消える。

彼女との会話が(あれは会話だ、異論は認めない。)引き金となって抑えきれなくなった。

彼女を捕らえなくてはいけない。

何事にも本気にならない彼女に、
今度は俺が教えてあげるんだ。

俺への執着の方法を。


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