愛されてみることにする。

少女××

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【起】愛してやるよ。

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「俺がお前を愛してやるよ。」

信じているわけではないけど、
なんとなく、その手を取った。


           ×××


山?森?みたいな、場所だと思う。
捨てられた、それだけは覚えてる。
12?13?そのくらいの年齢かな?
よく知らない。
ごめんね、曖昧で。
引きずられて、気づいたらここだった。
名前は確か、、まぁいいや。

名無しとでも呼べばいい。

そういえば海の向こうの向こうの国では
私みたいな奴をナナシノゴンベエというらしい。

、、、どうでもいいな。

さて、森で捨てられた餓鬼がすることなんて
限られてる。

入水自殺は苦しい。
なぜなら息絶えるまでに時間がかかる。
息ができない苦しみを味わいながら
なかなか死ねないのだ。

なので目の前に川があるけれど、
その死に方は却下。

餓死が手っ取り早いかな?
空腹もまぁ、苦しいっちゃ苦しいけど、
慣れてるから。

でも時間がかかるな。
死ぬまであと三日?四日?
何日食べないと人間て死ぬんだっけ?

手元に刃物があればなぁ、、。

もうそろそろ見切りをつけたいところなんだけど。

「なぁ、そこの愛らしいお嬢ちゃん?」

あら、こんなところに人がいる。
結構な山奥なはずなんだけど。

返事をするのも面倒なので
顔だけ向けて首を傾げてみた。

「あぁ、喋れねぇの?」

首を振る。
ただの面倒くさがりです、ごめんなさいね。

「なんだ、じゃあ声、聞かせてくんない?」

黒い、髪。服も、暗い、色。
目は血溜まりみたいな、赤。

「お兄さん、悪魔?」

お兄さんはくすくす笑って真っ赤な目を細めた。

「随分なご挨拶だな。」

「根が正直なの。ごめんなさい。」

「悪魔相手かもしれないのにその態度なのか?」

「あ、やっぱり悪魔なの?
あ、悪魔相手なら態度を改める。
やっぱり悪魔なのデスカ?」

お兄さんはそれでも笑って近づいてきた。

ありゃあ、これは冥界行きかな?

「なぁお嬢ちゃん、俺と来るか?」

ん?

「なんで?」

そもそも、誰なんだろ、この人。
見た目が悪魔っぽい、くらいしか
この人のこと、知らない。

「こんなとこにいたら死ぬだろ?
俺と来れば不自由なく暮らさせてやる。
どうだ?」

「悪魔の誘いってやつ?
あ、間違えた。
悪魔の誘いってやつデスカ?」

お兄さんは笑いを噛み殺している。

「まぁ、そんなとこだな。
悪い悪魔にかどわかされてみないか?」

あれ?
気づいたらお兄さんに抱き上げられてた。

「もしかして、選択肢ない?デスカ?」

「悪魔ってのはどんな手を使ってでも
自分の欲を満たすもんだ。」

「あら、欲だなんてナニするデスカ。」

「案外マセた餓鬼だな。」

「そんな特殊なプレイことはできないよ。」

「餓鬼に特殊なプレイなんて求めるかよ。」

「餓鬼にプレイを求めることが特殊じゃない?」

「なんだ、元気そうだな。」

「思ってたのと違った?」

「いい意味でな。」

お兄さんに抱えられたまま会話する。
落ちそうだな、まぁいいか、落ちても。

「おい、ちゃんと掴まれ。」

「あ、アレをいうの忘れてた。」

「なんだ?」

「ヤダー、ワタシッタラ重イデスヨネ?」

テンプレみたいなやつ、 
やってみたかったんだよね。

「あー、羽のように軽いぜ?」

お兄さんもノってくれたようだ。
満足したのでお兄さんにしっかり掴まった。

「森で一人で居た割に気丈な餓鬼だな。」

「別に生き抜こうと言う気概もないから、」

「俺が来なかったらどうしてたんだ?」

「その時はもう死んでたかな?
いや、まだ2、3日は生きてたかもしれない。」

「生きたくないのか?」

「どっちでもいい?かな??
こだわりないことがこだわり的な?」

「よくわからん餓鬼だな、、。」

お兄さんは少し押し黙って
やや低めの声で聞いて来た。

「なぁ、お前、望むものはあるか?」

お兄さんに抱えられて揺れ動く腕の中で考える。

望むもの、、?

「んー、
じゃあお兄さんがいらないもの。」

「なるほどな、、」

その一瞬、本物の悪魔だと思った。

嫌悪と憎悪と殺意と、、
そんな表情。

それじゃあ、と言ったお兄さんは
既に表情を変え、歪に口角を上げた。

「俺がお前を愛してやるよ。」

闇夜の森、漆黒の髪とは対照的な
白い肌がやけに明瞭に見える。

月に照らされた鮮血のような赤い目が
愛おしげに細められた。

森に捨てられたその日、私は悪魔にかどわかされた。
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