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番外編「隆介の本音」
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「隆介さん、ちょっといいですか」
思い出の骨董通りのビルは、例の騒ぎ以来マスコミに尾け回されることが増えすぎて、完全に事務所としての仕様に変えたらしい。
どんなに高くてもいいから気にいる部屋に引っ越そうという多田の提案を、彼は全く受け付けなかった。結局引越し先を決めるまでという約束だったはずが、そのまま半年以上ホテルに住んでいる。
雫はというと、彼が借りていたレジデンスの隣の部屋が空いたからと、そのままその部屋をあてがわれたものの――調度品の高級な雰囲気に呑まれてしまって居心地が悪く、ほとんどの時間を隆介の部屋で過ごしていた。
「ん? どうした?」
180超えの隆介が広々とくつろげるサイズのベッドでタブレットを弄っていた隆介は、雫に呼ばれるとすぐに画面から目を離して雫の方を向いた。伸びたままでノーセットの髪が、さらりと流れる。何をしていてもすぐにこちらを優先してくれるところは、案外嫌いじゃない。
ソファは窓ガラス向きに配置されていて、夕日のオレンジが部屋に差し込む風情がある。
雫は左腕を飾る黒革の腕時計を確認した。時刻はもうすぐ18時。隆介が20時にホテルディナーを予約してくれたから、もう少し時間がある。今日は早めに帰宅し、視界の端で共に存在を感じられる距離で、各々の持ち帰った仕事をしていた。
今夜は久しぶりのディナー。その後はきっと……会話する余裕なんてない。交渉するなら今だ。
「私たち、ずっとこのホテルに住むわけじゃないですよね……?」
「んー。別に今のところ不便は感じてないけど」
「私はちょっと……感じてます」
ソファの上から話しかけると、バックハグするように隆介が寄ってきた。何が不便なの?と耳元で囁いて、隆介は雫の耳を齧る。
「ん……っそんなことされたら、話せない……っ」
実のところ、雫が一番悩んでいるのは彼との夜の生活のことだった。ラブホテルならまだしも、こんなにも立派なホテルの清掃者に乱れたシーツを片付けさせるのは、申し訳ないやら恥ずかしいやら。さらに、廊下から離れているとはいえ薄いドア一枚隔てただけのベッドで抱かれると、声が漏れていないか不安でもある。
さっぱりとしたカップルなら良いのかもしれない。けれど、隆介はいつも雫が記憶を無くすギリギリまで抱き潰す。朝でも、昼でも、深夜でも、時間なんて関係ない。部屋を出るまであと1時間足らずという時間から抱かれ、ギリギリで走って出勤したこともある。
勤め先は祖母のギャラリーから婚約者のギャラリーへと変わったけれど、雇われている以上はどんな立場であっても遅刻したくない。隆介はタクシーに乗っていけばいいと簡単に言うけれど、タクシーなんて、一般人にはよほど緊急の時にしか使わないものだ。
そんなことを考えているうちに、Vネックのニットワンピースの間から、隆介の手が入り込んでくる。軽さと締め付けかんの緩さが好きでよく着けているノンワイヤーのブラレットは、この角度からの侵入に弱い。そのわずかな隙間から、肌に添うように侵入してくる冷たい指先。きちんと調節された室温で暖かな体に、鳥肌が立つ。雫はたったそれだけでほんのりと子宮が収縮するのを感じた。
「あっ……お話したいのに、それ……っダメっ」
「いいよ、続けて?」
彼のしっかりとした手首を雫が静止するけれど、もちろん止められるわけがない。指先でつつつと丸みをなぞった後、隆介の指先は、淡い期待で尖った雫の先端を弾いた。
「あっ……あっ! も……っ」
雫の欲望はとろりと溢れ出した。上から触れてくる彼に見透かされている気がして、思わず足をもじもじとくねらせて誤魔化す。
「何? ここも触れてほしいって?」
全く違う意図を組みとった隆介は、逆の手でニットの上から下腹部を撫でた。その指のずっと奥にある子宮がこちらに触れてと返事をするように、きゅうっと縮む。
はしたないとは思いながらも、我慢できない体にされてしまった。一度火の着いた体は疼き、簡単にその火を消し去ることはできない。彼のしっかりとした腕をもう少し下げて欲しいと引き寄せると、隆介はどうしたのと悪い顔でしらばっくれる。
「ここ……苦しい」
「へぇ。じゃ、どうして欲しい?」
身を乗り出すようにニコニコと笑いながら、でも確実に、この意地悪な恋人は雫の弱いところばかりを攻めてくる。
「意地悪……」
「雫が可愛いのがいけないんじゃない?」
隆介の顔が近づいてきて、いつの間にか流していた涙をちゅっと音を立てて吸った。
「はぁ」
声をあげてのため息に、一瞬びくりと不安になる。少し悲しげな顔をした――と思ったことをすぐに後悔する。
「泣かせたくてたまらなくなる顔してるよね、雫って」
竜介の長い腕が両脇に伸びたかと思うと、そのまま持ち上げられて、背もたれ部分に座らされた。抱きしめられるかと思いきや、そのままワンピースをずるりと剥かれる。
「っきゃ! ちょっと……!」
摩擦でインナーまでも一緒に持っていかれてしまった雫は、透け感の強いブラレットとショーツだけの姿だ。数箇所に咲いている白い花が、凹凸の少ない雫の体を飾っている。これなら胸元の寂しさも少しは緩和されるだろうと、最近流行りのイタリア製下着ブランドで購入したものだ。
部屋は13階。窓の向こうに見えるいくつかのビルから、見られているような気分になる。向こうのビルはオフィスビルのようで、会議をしていたり、パソコンに向かっていたり……真面目に働くサラリーマンたちが、目視でギリギリ確認できる距離。必死に腕で体を隠すようにすると、隆介は後ろから抱きしめるようにして胸元と下腹部を揉み上げた。
「ね、隆介さん……向こうから、見えちゃい、ますっ」
「大丈夫。マジック加工されてるし、夕日が反射してるから見えない」
見せてやれと言わんばかりに、隆介の腕に内腿を押されて足が開く。助けたブラレットとショーツの中へ、隆介の無骨な手がするりと侵入してきた。
それは求めていた強い刺激で――雫はあっという間に絶頂へと進む。甘くて高い声が勝手に溢れ、止まらない。
背筋は反り、背後にいる隆介へ体重をかける形になってしまう。腕を掴むと、隆介は嬉しそうに雫を見下ろしていた。
「あ……ひゃ、うっ、んん……あぁぁっ」
もはや、母音すらうまく発音できない。ただ与えられる刺激と、見られているかもしれないという羞恥心が雫を煽り続ける。
開かされていた足は力を入れたことで閉じ、足首はピンと伸びる。何度目かの大きな波が来る。全力で走った犬のように何度か大きく呼吸をした後、雫は弾けるように体を跳ねさせた。
「すごい、びっしょびしょ。見てこれ」
雫の浅瀬を爪弾いていた指先は、少し粘度のある蜜で手首まで濡れていた。
「もうっ……見せないで、ください」
隆介ははははと声をあげて笑いながら、雫の身体をくるりと半回転させて、窓に背を向けさせた。
飾り気のないグレーのニットを脱ぎ捨て、デニムの前を寛げる。ボクサーパンツにはもう濃い滲みができていて、彼の高まりが雫の奥を更にぐずぐずと溶かす。
全てを抱きしめるような深いキスをすると、互いの下着越しに触れるたび、どちらともなく声が漏れた。
「んっ……ん」
相手の頭を固定するように手を伸ばして、届く限りの奥を求める。絡み合って離れない舌先。どちらの唾液かわからない液体が顎を伝って、二人の性器を濡らす。
ひたひたになった布はさらに刺激感を強め、擦れ合うとクチュリと音を立てた。今朝も出勤前に何度も解された雫の体は、その熱を思い出してすぐにその気になってしまっている。
何度も何度も求め合い、キスに夢中になった雫のショーツがズラされる。元々、有って無いようなクロッチ部分の布はすぐに膣口を顕にさせた。ヒクつくその源泉につるりとした質感の先端があてがわれる。先端のねばつきと雫の蜜が絡み合い、数回隆介が腰を動かすだけで、それはずっぷりと鞘へ収まった。
「んっ、う……んん」
「っく……雫、雫」
「あ、すご……りゅ、すけ……さんっ」
互いの名前を呼ぶ声だけで興奮するなんて。
隆介は直に感じる雫の膣圧を楽しみながら、その鞘の形を確かめるように抜き差しした。それはメインディッシュを勿体ぶるように、ゆっくりと。雫はその穴のどこをなぞられても快感を得る体にされてしまっていて、声を抑えることもできない。
「あぁぁぁああっ」
ただ隆介の首に捕まり揺さぶられると、我慢耐性のない体はすぐに絶頂へと雫を押し上げる。身体を反らしぐねぐねと揺れる腰は隆介の怒張をさらに進行させ、昂らせる。
「あっ、あっ、まだイってるっ、のに……おっき……ん!」
「わり、もう止まんね……っく」
隆介の言葉が少し荒くなっているのは、雫に余裕を見せていられないくらいに欲情している証拠だ。
「も、こ、われちゃう……っ」
「壊してんだ、よ……っ」
雫の穴へ、容赦無くずんずんと打ち込まれる杭。擦り上げられるほどに高まる快感で、視界がチカチカする。
背もたれから落ちそうな恐怖で隆介の腰をホールドしていた雫は、いつの間にか隆介に膝裏を抱き上げられていた。
「一瞬休憩。捕まって」
汗だくの隆介は、首に抱きついている雫の腕に触れて離すなよと呟くと、そのまま雫をベッドへ運んだ。隆介が歩く度、雫は自重でずるずると下がり、奥を突き上げられる。
「あっ、あっ、これだめっ」
繋がったまま、ソファから数歩の距離のベッドへ移動しただけ。言葉ではわかっていても、雫の子宮はきゅっと下へ降りてきて次の刺激を待っている。
「だめ、じゃなくて、気持ちいい、だろ」
頭を撫でるような位置に手を置いた隆介は、ベッドサイドに横たわる雫を1ミリも逃さない。シーツを掴んだ雫の手には、隆介の大粒の汗がぼたぼたと垂れる。
あまりに淫らな表情をして自分を抱く隆介の表情で、雫の奥はまた痙攣をし始めた。
「あっあっあっ、気持ち、いい……っ気持ちよすぎ、て、もう……っ」
クラクラして目を開いていられない。たまらず目を閉じると、隆介の顔が近くへ降りてきた。
「雫、俺ももう……限、界っ」
一番奥まで肌をぶつける音が激しくなって数回。雫の腰は跳ね上がり、喉を反らせて高い声を上げた。
「あっ、やっ……ぁあんっ!」
ほぼ同時に放たれた熱い白濁は雫の蜜穴の中でじんわりと広がった。雫の全身がヒクヒクと震える。膣穴は全てを搾り取るように、ぎゅっぎゅっぎゅっと隆介を強く締め付けて離さない。
「雫……それはやばいって」
「う、そんなこと言われても、コントロール……できない、です」
皮の真下には内臓しかないような薄い身体。ゼロ距離まで近づいていた二人の体が離れると、その皮膚の下にまだ隆介の屹立が見える。
「はぁ……えっろ」
隆介の手が、皮膚越しの自身に触れる。
「ひ……っんぅ!」
まだしっかりと質量のある欲棒と彼の手の圧力で押し潰された子宮がきゅんと鳴いた。
「何、こんなことまで気持ちいの?」
大汗をかいた隆介は、一度前髪を一気に掻き上げる。額の汗を拭いながら、腰をゆるゆると前後に揺さぶった。
「っあ……っはぁ……っんんぅ」
「雫の体、まじでえろい」
ペロリと舌なめずりする顔は、どの雑誌で見た隆介よりもセクシーで、野獣そのものの顔をしていた。
「隆介さんが、そう……したん、でしょっ」
これ以上は無理だと一度腰を引いて、一歩分枕側へ離れた。隆介の復活した怒張が、ずるりと抜ける。
うつ伏せではぁはぁと肩で息をして、体を落ち着かせる。彼との行為は本当に頭がおかしくなりそうなほど、快感が何度も何度も押し寄せる。
「雫はさ……」
足元に引っかかっていたボクサーパンツをカーペットへ放った隆介は、雫のブラもショーツも剥ぎ取って、地面へ落とした。
わずかに空いた雫の腹部へ腕を入れて、お尻を上げさせる。苦しくないようにと枕を挟んでくれるところは優しいけれど、この後の行為を予想させるその対位に、雫の胸は早鐘を打った。
「俺にこんな体にされて、よく離れようと思ったよね」
ぬちゅ、といやらしい水音がして、隆介の全力が雫の膣の最奥を探し当てる。時間をかけてゆっくり入ってくるその愛情は、この形以外のものを受け入れられるわけないと主張しているようだった。
「もう……他の男で満足できるわけないのに」
一度ギリギリまで抜かれ、また雫の最奥までの道をゆっくりと擦り上げる。
「俺が探さなかったら、どうしてたんだよ」
怒り混じりの、低い声。多分一生言われ続けるんだろうなと思いながら、ごめんなさいと謝った。申し訳ないと思っているのに、隆介に組み敷かれているという支配感に興奮してしまう。
雫の肉襞はその独占欲にヒクヒクと喜んで、蜜を溢れさせた。先ほど飲み込んだ白濁と混ざって、ぬちゃぬちゃとした卑猥な音が部屋に鳴り響く。
「りゅ、すけさん、がっ、幸せに、なる、なら、それがいい、って……」
子宮口までの抽送のたびに、言葉が詰まる。必死に息を吸いながら、獣のように欲望をぶつける隆介の方へ手を伸ばす。しかし彼の手は雫の腰をがっしりと掴んでいて、触れることはできない。
「でも、もう、無理……っ」
何度か両手を後ろへパタパタと動かすと、隆介はようやくその手に気付いて手を繋ぐようにして雫を起こした。勃起したままの肉棒を抜き、胡座の上で、雫を横抱きにするように座らせる。
「何が無理だって?」
何度も激しく突き上げられたい部位をゆっくり、ねっとり、突かれた雫はだいぶ体力を消耗していた。
「もう…………ない、から」
「聞こえないな」
恥ずかしげに顔を隠す雫の左手には、隆介が与えた大粒のエタニティがギラギラと光る。それは隆介の強い嫉妬心をほんの少し和らげたようだった。
「もう私、隆介さんじゃなきゃ……イけない、からっ」
首まで真っ赤になった雫は、手のひらの隙間からちらりと隆介を見る。先ほどまで嫉妬で怒っていたとは思えない、安心したような表情。自分が追い詰めてしまったことを謝りたくて、雫は隆介の首元へ抱きついた。
「もう絶対、離れたりしません」
伸びた髪を撫でるように、後頭部を撫でる。繋がることだけが愛じゃない。
「あの日は、雫の意見を、尊重しなきゃと思ってた。でも……この先いつ離れるって言っても、もう離さない。後悔したくないんだ」
彼の腕が強く雫を抱きしめて、力が弱まる。これから先、何度同じように責められたとしてもいい。彼の気が澄むまで、あの日の彼の痛みを受け止める。
あなたが欲しいとねだることくらいしか、今はできないけれど。
思い出の骨董通りのビルは、例の騒ぎ以来マスコミに尾け回されることが増えすぎて、完全に事務所としての仕様に変えたらしい。
どんなに高くてもいいから気にいる部屋に引っ越そうという多田の提案を、彼は全く受け付けなかった。結局引越し先を決めるまでという約束だったはずが、そのまま半年以上ホテルに住んでいる。
雫はというと、彼が借りていたレジデンスの隣の部屋が空いたからと、そのままその部屋をあてがわれたものの――調度品の高級な雰囲気に呑まれてしまって居心地が悪く、ほとんどの時間を隆介の部屋で過ごしていた。
「ん? どうした?」
180超えの隆介が広々とくつろげるサイズのベッドでタブレットを弄っていた隆介は、雫に呼ばれるとすぐに画面から目を離して雫の方を向いた。伸びたままでノーセットの髪が、さらりと流れる。何をしていてもすぐにこちらを優先してくれるところは、案外嫌いじゃない。
ソファは窓ガラス向きに配置されていて、夕日のオレンジが部屋に差し込む風情がある。
雫は左腕を飾る黒革の腕時計を確認した。時刻はもうすぐ18時。隆介が20時にホテルディナーを予約してくれたから、もう少し時間がある。今日は早めに帰宅し、視界の端で共に存在を感じられる距離で、各々の持ち帰った仕事をしていた。
今夜は久しぶりのディナー。その後はきっと……会話する余裕なんてない。交渉するなら今だ。
「私たち、ずっとこのホテルに住むわけじゃないですよね……?」
「んー。別に今のところ不便は感じてないけど」
「私はちょっと……感じてます」
ソファの上から話しかけると、バックハグするように隆介が寄ってきた。何が不便なの?と耳元で囁いて、隆介は雫の耳を齧る。
「ん……っそんなことされたら、話せない……っ」
実のところ、雫が一番悩んでいるのは彼との夜の生活のことだった。ラブホテルならまだしも、こんなにも立派なホテルの清掃者に乱れたシーツを片付けさせるのは、申し訳ないやら恥ずかしいやら。さらに、廊下から離れているとはいえ薄いドア一枚隔てただけのベッドで抱かれると、声が漏れていないか不安でもある。
さっぱりとしたカップルなら良いのかもしれない。けれど、隆介はいつも雫が記憶を無くすギリギリまで抱き潰す。朝でも、昼でも、深夜でも、時間なんて関係ない。部屋を出るまであと1時間足らずという時間から抱かれ、ギリギリで走って出勤したこともある。
勤め先は祖母のギャラリーから婚約者のギャラリーへと変わったけれど、雇われている以上はどんな立場であっても遅刻したくない。隆介はタクシーに乗っていけばいいと簡単に言うけれど、タクシーなんて、一般人にはよほど緊急の時にしか使わないものだ。
そんなことを考えているうちに、Vネックのニットワンピースの間から、隆介の手が入り込んでくる。軽さと締め付けかんの緩さが好きでよく着けているノンワイヤーのブラレットは、この角度からの侵入に弱い。そのわずかな隙間から、肌に添うように侵入してくる冷たい指先。きちんと調節された室温で暖かな体に、鳥肌が立つ。雫はたったそれだけでほんのりと子宮が収縮するのを感じた。
「あっ……お話したいのに、それ……っダメっ」
「いいよ、続けて?」
彼のしっかりとした手首を雫が静止するけれど、もちろん止められるわけがない。指先でつつつと丸みをなぞった後、隆介の指先は、淡い期待で尖った雫の先端を弾いた。
「あっ……あっ! も……っ」
雫の欲望はとろりと溢れ出した。上から触れてくる彼に見透かされている気がして、思わず足をもじもじとくねらせて誤魔化す。
「何? ここも触れてほしいって?」
全く違う意図を組みとった隆介は、逆の手でニットの上から下腹部を撫でた。その指のずっと奥にある子宮がこちらに触れてと返事をするように、きゅうっと縮む。
はしたないとは思いながらも、我慢できない体にされてしまった。一度火の着いた体は疼き、簡単にその火を消し去ることはできない。彼のしっかりとした腕をもう少し下げて欲しいと引き寄せると、隆介はどうしたのと悪い顔でしらばっくれる。
「ここ……苦しい」
「へぇ。じゃ、どうして欲しい?」
身を乗り出すようにニコニコと笑いながら、でも確実に、この意地悪な恋人は雫の弱いところばかりを攻めてくる。
「意地悪……」
「雫が可愛いのがいけないんじゃない?」
隆介の顔が近づいてきて、いつの間にか流していた涙をちゅっと音を立てて吸った。
「はぁ」
声をあげてのため息に、一瞬びくりと不安になる。少し悲しげな顔をした――と思ったことをすぐに後悔する。
「泣かせたくてたまらなくなる顔してるよね、雫って」
竜介の長い腕が両脇に伸びたかと思うと、そのまま持ち上げられて、背もたれ部分に座らされた。抱きしめられるかと思いきや、そのままワンピースをずるりと剥かれる。
「っきゃ! ちょっと……!」
摩擦でインナーまでも一緒に持っていかれてしまった雫は、透け感の強いブラレットとショーツだけの姿だ。数箇所に咲いている白い花が、凹凸の少ない雫の体を飾っている。これなら胸元の寂しさも少しは緩和されるだろうと、最近流行りのイタリア製下着ブランドで購入したものだ。
部屋は13階。窓の向こうに見えるいくつかのビルから、見られているような気分になる。向こうのビルはオフィスビルのようで、会議をしていたり、パソコンに向かっていたり……真面目に働くサラリーマンたちが、目視でギリギリ確認できる距離。必死に腕で体を隠すようにすると、隆介は後ろから抱きしめるようにして胸元と下腹部を揉み上げた。
「ね、隆介さん……向こうから、見えちゃい、ますっ」
「大丈夫。マジック加工されてるし、夕日が反射してるから見えない」
見せてやれと言わんばかりに、隆介の腕に内腿を押されて足が開く。助けたブラレットとショーツの中へ、隆介の無骨な手がするりと侵入してきた。
それは求めていた強い刺激で――雫はあっという間に絶頂へと進む。甘くて高い声が勝手に溢れ、止まらない。
背筋は反り、背後にいる隆介へ体重をかける形になってしまう。腕を掴むと、隆介は嬉しそうに雫を見下ろしていた。
「あ……ひゃ、うっ、んん……あぁぁっ」
もはや、母音すらうまく発音できない。ただ与えられる刺激と、見られているかもしれないという羞恥心が雫を煽り続ける。
開かされていた足は力を入れたことで閉じ、足首はピンと伸びる。何度目かの大きな波が来る。全力で走った犬のように何度か大きく呼吸をした後、雫は弾けるように体を跳ねさせた。
「すごい、びっしょびしょ。見てこれ」
雫の浅瀬を爪弾いていた指先は、少し粘度のある蜜で手首まで濡れていた。
「もうっ……見せないで、ください」
隆介ははははと声をあげて笑いながら、雫の身体をくるりと半回転させて、窓に背を向けさせた。
飾り気のないグレーのニットを脱ぎ捨て、デニムの前を寛げる。ボクサーパンツにはもう濃い滲みができていて、彼の高まりが雫の奥を更にぐずぐずと溶かす。
全てを抱きしめるような深いキスをすると、互いの下着越しに触れるたび、どちらともなく声が漏れた。
「んっ……ん」
相手の頭を固定するように手を伸ばして、届く限りの奥を求める。絡み合って離れない舌先。どちらの唾液かわからない液体が顎を伝って、二人の性器を濡らす。
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何度も何度も求め合い、キスに夢中になった雫のショーツがズラされる。元々、有って無いようなクロッチ部分の布はすぐに膣口を顕にさせた。ヒクつくその源泉につるりとした質感の先端があてがわれる。先端のねばつきと雫の蜜が絡み合い、数回隆介が腰を動かすだけで、それはずっぷりと鞘へ収まった。
「んっ、う……んん」
「っく……雫、雫」
「あ、すご……りゅ、すけ……さんっ」
互いの名前を呼ぶ声だけで興奮するなんて。
隆介は直に感じる雫の膣圧を楽しみながら、その鞘の形を確かめるように抜き差しした。それはメインディッシュを勿体ぶるように、ゆっくりと。雫はその穴のどこをなぞられても快感を得る体にされてしまっていて、声を抑えることもできない。
「あぁぁぁああっ」
ただ隆介の首に捕まり揺さぶられると、我慢耐性のない体はすぐに絶頂へと雫を押し上げる。身体を反らしぐねぐねと揺れる腰は隆介の怒張をさらに進行させ、昂らせる。
「あっ、あっ、まだイってるっ、のに……おっき……ん!」
「わり、もう止まんね……っく」
隆介の言葉が少し荒くなっているのは、雫に余裕を見せていられないくらいに欲情している証拠だ。
「も、こ、われちゃう……っ」
「壊してんだ、よ……っ」
雫の穴へ、容赦無くずんずんと打ち込まれる杭。擦り上げられるほどに高まる快感で、視界がチカチカする。
背もたれから落ちそうな恐怖で隆介の腰をホールドしていた雫は、いつの間にか隆介に膝裏を抱き上げられていた。
「一瞬休憩。捕まって」
汗だくの隆介は、首に抱きついている雫の腕に触れて離すなよと呟くと、そのまま雫をベッドへ運んだ。隆介が歩く度、雫は自重でずるずると下がり、奥を突き上げられる。
「あっ、あっ、これだめっ」
繋がったまま、ソファから数歩の距離のベッドへ移動しただけ。言葉ではわかっていても、雫の子宮はきゅっと下へ降りてきて次の刺激を待っている。
「だめ、じゃなくて、気持ちいい、だろ」
頭を撫でるような位置に手を置いた隆介は、ベッドサイドに横たわる雫を1ミリも逃さない。シーツを掴んだ雫の手には、隆介の大粒の汗がぼたぼたと垂れる。
あまりに淫らな表情をして自分を抱く隆介の表情で、雫の奥はまた痙攣をし始めた。
「あっあっあっ、気持ち、いい……っ気持ちよすぎ、て、もう……っ」
クラクラして目を開いていられない。たまらず目を閉じると、隆介の顔が近くへ降りてきた。
「雫、俺ももう……限、界っ」
一番奥まで肌をぶつける音が激しくなって数回。雫の腰は跳ね上がり、喉を反らせて高い声を上げた。
「あっ、やっ……ぁあんっ!」
ほぼ同時に放たれた熱い白濁は雫の蜜穴の中でじんわりと広がった。雫の全身がヒクヒクと震える。膣穴は全てを搾り取るように、ぎゅっぎゅっぎゅっと隆介を強く締め付けて離さない。
「雫……それはやばいって」
「う、そんなこと言われても、コントロール……できない、です」
皮の真下には内臓しかないような薄い身体。ゼロ距離まで近づいていた二人の体が離れると、その皮膚の下にまだ隆介の屹立が見える。
「はぁ……えっろ」
隆介の手が、皮膚越しの自身に触れる。
「ひ……っんぅ!」
まだしっかりと質量のある欲棒と彼の手の圧力で押し潰された子宮がきゅんと鳴いた。
「何、こんなことまで気持ちいの?」
大汗をかいた隆介は、一度前髪を一気に掻き上げる。額の汗を拭いながら、腰をゆるゆると前後に揺さぶった。
「っあ……っはぁ……っんんぅ」
「雫の体、まじでえろい」
ペロリと舌なめずりする顔は、どの雑誌で見た隆介よりもセクシーで、野獣そのものの顔をしていた。
「隆介さんが、そう……したん、でしょっ」
これ以上は無理だと一度腰を引いて、一歩分枕側へ離れた。隆介の復活した怒張が、ずるりと抜ける。
うつ伏せではぁはぁと肩で息をして、体を落ち着かせる。彼との行為は本当に頭がおかしくなりそうなほど、快感が何度も何度も押し寄せる。
「雫はさ……」
足元に引っかかっていたボクサーパンツをカーペットへ放った隆介は、雫のブラもショーツも剥ぎ取って、地面へ落とした。
わずかに空いた雫の腹部へ腕を入れて、お尻を上げさせる。苦しくないようにと枕を挟んでくれるところは優しいけれど、この後の行為を予想させるその対位に、雫の胸は早鐘を打った。
「俺にこんな体にされて、よく離れようと思ったよね」
ぬちゅ、といやらしい水音がして、隆介の全力が雫の膣の最奥を探し当てる。時間をかけてゆっくり入ってくるその愛情は、この形以外のものを受け入れられるわけないと主張しているようだった。
「もう……他の男で満足できるわけないのに」
一度ギリギリまで抜かれ、また雫の最奥までの道をゆっくりと擦り上げる。
「俺が探さなかったら、どうしてたんだよ」
怒り混じりの、低い声。多分一生言われ続けるんだろうなと思いながら、ごめんなさいと謝った。申し訳ないと思っているのに、隆介に組み敷かれているという支配感に興奮してしまう。
雫の肉襞はその独占欲にヒクヒクと喜んで、蜜を溢れさせた。先ほど飲み込んだ白濁と混ざって、ぬちゃぬちゃとした卑猥な音が部屋に鳴り響く。
「りゅ、すけさん、がっ、幸せに、なる、なら、それがいい、って……」
子宮口までの抽送のたびに、言葉が詰まる。必死に息を吸いながら、獣のように欲望をぶつける隆介の方へ手を伸ばす。しかし彼の手は雫の腰をがっしりと掴んでいて、触れることはできない。
「でも、もう、無理……っ」
何度か両手を後ろへパタパタと動かすと、隆介はようやくその手に気付いて手を繋ぐようにして雫を起こした。勃起したままの肉棒を抜き、胡座の上で、雫を横抱きにするように座らせる。
「何が無理だって?」
何度も激しく突き上げられたい部位をゆっくり、ねっとり、突かれた雫はだいぶ体力を消耗していた。
「もう…………ない、から」
「聞こえないな」
恥ずかしげに顔を隠す雫の左手には、隆介が与えた大粒のエタニティがギラギラと光る。それは隆介の強い嫉妬心をほんの少し和らげたようだった。
「もう私、隆介さんじゃなきゃ……イけない、からっ」
首まで真っ赤になった雫は、手のひらの隙間からちらりと隆介を見る。先ほどまで嫉妬で怒っていたとは思えない、安心したような表情。自分が追い詰めてしまったことを謝りたくて、雫は隆介の首元へ抱きついた。
「もう絶対、離れたりしません」
伸びた髪を撫でるように、後頭部を撫でる。繋がることだけが愛じゃない。
「あの日は、雫の意見を、尊重しなきゃと思ってた。でも……この先いつ離れるって言っても、もう離さない。後悔したくないんだ」
彼の腕が強く雫を抱きしめて、力が弱まる。これから先、何度同じように責められたとしてもいい。彼の気が澄むまで、あの日の彼の痛みを受け止める。
あなたが欲しいとねだることくらいしか、今はできないけれど。
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番外編「彼と私と甘い月 番外編 ーその後の二人の甘い日々ー」も別掲載しました。あわせてお楽しみください。

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