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守り、護るもの
82.せめて温かな場所で
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長い眠りから目覚めたマリは、今もまだ夢の中にいるのか、それともこれまでの事が全部夢だったのか、判断がつかないほどにぼーっとしていた。
エカードという国に行き、長い時間をかけて乱暴されたことが悪い夢だったのならよかったと胸をなでおろしたが、今までに見たことのない布団、知らない壁に囲まれている。今この瞬間も夢なのかと額に汗をかいたところで、強いめまいと吐き気がマリを襲い、これは現実なのだということを、強制的に意識させられた。
横向きになり、少しでも楽な体勢を探し、はぁはぁと肩で息をしたところで、コンコンコンコン、とノックの音が鳴る。返事をする元気のないマリの元へやってきたのは、苦しい調教の日々をマリに強いていた執事、クロムだった。
「あぁ…目覚めていたのですね。安心しました。」
私の事なんて、ちっとも心配なんてしていないはずなのに、なんでこの人はそんなことを言うのだろうと警戒と苛つきを抱えたまま、マリは彼の顔を見つめた。
「ここはエカード国の王城、第一貴賓室内の寝室です。
貴方は今日からしばらくの間、この国の来賓となります。」
聞いてもいないのにつらつらとよく話す執事。ハイデル様の執事はいつも空気のように寄り添って何も言わずに対応してくれたのに、国の違いとはこんなにも変わるのかと純粋に納得した。
「私が来賓…?なぜですか。」
昨日までは人権もないほど虐げられ、乱暴され、心まで粉々になるような日々を送っていたのに、何事なのだろう。王も執事も狂っているこの国で、来賓になることがどういうことなのか想像するが、城の内情も国民性も知らないせいで何も判断ができない。
「…貴方が、クリストバル殿下の、そしてこのエカード王国の、お世継ぎを宿している可能性があるからです。マリ……様。」
マリが来賓として扱われることに、彼は余程抵抗があったのだろう。言葉がいつもより途切れ途切れなのは、冷徹で私に意地の悪い言葉ばかりをかけていたクロムらしくないと、マリは思った。
昨日、隙間から見える月を見ながらハイデルと過ごした日々を思い出した時に、急に襲ってきた吐き気から、なんとなくの想像はついていた。ここへ来てから少なくとも3週間は経っているし、東京で暮らしていた時につけていた体調管理アプリでは、2~3週置きに〈生理予定日まであと一週間 / 妊娠可能性:大〉と通知が来ていた気がする。だとすれば、仮に0週だとしても、始終眠かったり気持ち悪かったりするのは、簡単に説明がつく。
昨日の晩はそれに気付いたせいで、猛烈に悲しく、後悔し、もうあの人に会わせる顔がないと大泣きして、そのまま寝てしまったんだった、と思い出した
「まだ完全にご懐妊されたとは認められず、医師が数日おきにこちらへ参りますので、塔では示しがつかず移動したまでの事で、貴方を国母とする意志は一切ありません。
勘違いしないように。」
地位を求めてきたわけでもなければ、永遠にこの国にいるという決意があったわけでもないというのに、何を言っているのだろうと、マリは戸惑った。そもそも国母とは…国王の正妻となり、皇后となることを刺しているのだろうか。
生まれてくるかもしれない子供は世継ぎとして扱うのに、相手である自分を妻とは認めないなんて、小説に出てくる悪役でもなかなかやらないことするのね、と驚きで胸がいっぱいになった。ここまで卑劣な国王ならば、妻として認められたいとも思わなかった。
「わかりました。そのつもりで生きていきます。
その代わり、私が無事出産を終えた時は…この国における金品への権利などは一切、主張しませんから、どうか、しばらくの間、親子二人、城から離れた場所で暮らすことを、許していただけませんか。」
子を産むということは、この世界では命懸けのように思えた。マリの身体はいろんなことをされているけれど、結局は15~16歳の幼い体だ。
まだ実感はわいていないけれど、この国の世継ぎの可能性をもってるんだから、せめてそれくらいのわがままは聞いてくれと願った。あの凶悪国王の子を宿しているなどとても悲しくて喜べないけれど、生まれてくる命が尊いものであることに間違いはないし、育てるならこんな城じゃなくてそう、あのユーリの家のような、温かい場所がいいとも思った。
「…私の一存では決められませんので、クリストバル様へお伝えしておきます。」
クロムはいつもの100倍は豪華な朝食セットを机に並べ終えると、食べ終わったころに叉参ります、と声をかけて部屋を出て行った。
クロムの持ってきた朝食は彩り鮮やかだったけれど、お野菜のゴロゴロしたスープも、卵の両目焼きもとてもおいしそうなのに香りで吐き気を誘発するものばかり。結局マリが食べられたのは飾りのように食卓の中央に置かれていた、果物のカゴ盛りにのっていたブドウ3粒と小さくカットされたリンゴだった。
エカードという国に行き、長い時間をかけて乱暴されたことが悪い夢だったのならよかったと胸をなでおろしたが、今までに見たことのない布団、知らない壁に囲まれている。今この瞬間も夢なのかと額に汗をかいたところで、強いめまいと吐き気がマリを襲い、これは現実なのだということを、強制的に意識させられた。
横向きになり、少しでも楽な体勢を探し、はぁはぁと肩で息をしたところで、コンコンコンコン、とノックの音が鳴る。返事をする元気のないマリの元へやってきたのは、苦しい調教の日々をマリに強いていた執事、クロムだった。
「あぁ…目覚めていたのですね。安心しました。」
私の事なんて、ちっとも心配なんてしていないはずなのに、なんでこの人はそんなことを言うのだろうと警戒と苛つきを抱えたまま、マリは彼の顔を見つめた。
「ここはエカード国の王城、第一貴賓室内の寝室です。
貴方は今日からしばらくの間、この国の来賓となります。」
聞いてもいないのにつらつらとよく話す執事。ハイデル様の執事はいつも空気のように寄り添って何も言わずに対応してくれたのに、国の違いとはこんなにも変わるのかと純粋に納得した。
「私が来賓…?なぜですか。」
昨日までは人権もないほど虐げられ、乱暴され、心まで粉々になるような日々を送っていたのに、何事なのだろう。王も執事も狂っているこの国で、来賓になることがどういうことなのか想像するが、城の内情も国民性も知らないせいで何も判断ができない。
「…貴方が、クリストバル殿下の、そしてこのエカード王国の、お世継ぎを宿している可能性があるからです。マリ……様。」
マリが来賓として扱われることに、彼は余程抵抗があったのだろう。言葉がいつもより途切れ途切れなのは、冷徹で私に意地の悪い言葉ばかりをかけていたクロムらしくないと、マリは思った。
昨日、隙間から見える月を見ながらハイデルと過ごした日々を思い出した時に、急に襲ってきた吐き気から、なんとなくの想像はついていた。ここへ来てから少なくとも3週間は経っているし、東京で暮らしていた時につけていた体調管理アプリでは、2~3週置きに〈生理予定日まであと一週間 / 妊娠可能性:大〉と通知が来ていた気がする。だとすれば、仮に0週だとしても、始終眠かったり気持ち悪かったりするのは、簡単に説明がつく。
昨日の晩はそれに気付いたせいで、猛烈に悲しく、後悔し、もうあの人に会わせる顔がないと大泣きして、そのまま寝てしまったんだった、と思い出した
「まだ完全にご懐妊されたとは認められず、医師が数日おきにこちらへ参りますので、塔では示しがつかず移動したまでの事で、貴方を国母とする意志は一切ありません。
勘違いしないように。」
地位を求めてきたわけでもなければ、永遠にこの国にいるという決意があったわけでもないというのに、何を言っているのだろうと、マリは戸惑った。そもそも国母とは…国王の正妻となり、皇后となることを刺しているのだろうか。
生まれてくるかもしれない子供は世継ぎとして扱うのに、相手である自分を妻とは認めないなんて、小説に出てくる悪役でもなかなかやらないことするのね、と驚きで胸がいっぱいになった。ここまで卑劣な国王ならば、妻として認められたいとも思わなかった。
「わかりました。そのつもりで生きていきます。
その代わり、私が無事出産を終えた時は…この国における金品への権利などは一切、主張しませんから、どうか、しばらくの間、親子二人、城から離れた場所で暮らすことを、許していただけませんか。」
子を産むということは、この世界では命懸けのように思えた。マリの身体はいろんなことをされているけれど、結局は15~16歳の幼い体だ。
まだ実感はわいていないけれど、この国の世継ぎの可能性をもってるんだから、せめてそれくらいのわがままは聞いてくれと願った。あの凶悪国王の子を宿しているなどとても悲しくて喜べないけれど、生まれてくる命が尊いものであることに間違いはないし、育てるならこんな城じゃなくてそう、あのユーリの家のような、温かい場所がいいとも思った。
「…私の一存では決められませんので、クリストバル様へお伝えしておきます。」
クロムはいつもの100倍は豪華な朝食セットを机に並べ終えると、食べ終わったころに叉参ります、と声をかけて部屋を出て行った。
クロムの持ってきた朝食は彩り鮮やかだったけれど、お野菜のゴロゴロしたスープも、卵の両目焼きもとてもおいしそうなのに香りで吐き気を誘発するものばかり。結局マリが食べられたのは飾りのように食卓の中央に置かれていた、果物のカゴ盛りにのっていたブドウ3粒と小さくカットされたリンゴだった。
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