さよならの向こう側

よんど

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特別番外編5

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あっさり気付かれてしまった。

彼が触れた箇所から熱が伝っていくみたいに耳が熱い。「髪でうまい感じに隠してた...開けたのは三日前とか最近だよ」と耳横の髪の毛をくるくると弄りながら返す。

「片方のピアスは僕が持ってる。穴が安定する迄はファーストピアス生活だけど...」

彼に何をあげようか、ずっと考えていた。
きっと晴也は何をあげても喜んでくれる。それは分かりきっていた事だった。

「い....一回しか言わないからよく聞いて」
「え」

ガシッと目の前の晴也の両頬を掴む。
こんな恥ずかしい事、絶対に普段の僕だったら言わない。けど──

「ゆ、祐樹....?」

されるがままに頬を掴まれ、戸惑いながらも僕の手に優しく手を添える晴也。僕は軽く深呼吸した後、「晴也」と小さく名前を呼んだ。

「僕は...晴也の事が好きだ。晴也と出会えて毎日が尊くて、一緒に生きられる事が凄く嬉しいと思ってる」
「ゆ、ゆう....」
「そう思える様になったのは、晴也のお陰なんだ。晴也と出会って.....あの日の出来事も、悲しい事も辛かった事も全部引っくるめて今がある。僕はとっくの前にあの日の事を許してるし、忘れて欲しいとずっと思っていた」

ずっと考えていた。どうすれば晴也があの日の事を乗り越えてくれるんだろうって。

でもそれは間違いだった。
晴也のお母さんの話を聞いて改めて思ったんだ。あの日の事を乗り越えて、なんて──それは僕のエゴでしか無かった。

「無理に忘れなくていい。その過去も引き連れたまま、僕の為に僕と一緒にこれからも生きて欲しい。.....このピアスは二つで一つだよ。ずっと僕の存在を感じていて欲しい。僕も君の事を想い続けるから、だから....、...」

上手く、言葉がまとまらない。
声がもつれてそれ以上何も言えなくなり彼の頬から手を離そうとしたその時、グイッと力強く引き寄せられ、唇が塞がれた。まるで時が止まったみたいに、ただ重ねるだけの長い、長いキスだった。

「──、ありがとう、祐樹。俺は本当に君に貰ってばかりだ」

唇が離れてようやく視線が交わると、晴也は今にも泣き出しそうな表情で笑っていた。

「祐樹の言う通り、俺はずっとあの日の事を引きずっている。今回も俺のせいで色々と気遣わせてしまって申し訳ないと思っていた。でも、俺はどうしても自分が幸せになる事に抵抗があった。祐樹に告白して子供もつくっておいて...何言ってるんだって感じだけど」
「晴也」
「祐樹が...忘れなくていいって...僕の為に生きてって言ってくれた今、過去の自分も救われた気がする。自分の贖罪をずっと背負って、君と子供だけの為にこれからを生きる事が出来るんだ」

そう言って小箱と一緒に袋の中に入っていたピアッサーを手に取る晴也。椅子に座り直し、僕を膝の上に乗せて手に持たせると「開けて欲しい」と縋る様な視線で訴えてきた。

「ひ、人のを開けるのは怖いし失敗して膿んだりしたら....」
「我儘言ってごめんね。でも、祐樹に開けて欲しいんだ」

震えそうになる手で、なんとか彼の耳たぶに触れてしっかり消毒した後、中央に針を当ててセットする。

目を閉じる晴也....
緊張しているのだろうか。

一思いにバチンッと貫通させる。痛々しい音が一瞬鳴った後、晴也の片耳には僕と同じ様に穴が開いた。

「人の身体に穴を開ける日が来るなんて....なんだか変な気持ち」

思わずそう返すと、晴也は開けたばかりの耳を押さえながら笑う。

「これで改めて祐樹のものって感じがして嬉しいよ」

ピアスの入った小箱を撫でながら、彼は本当に幸せそうに微笑んだ。



僕の拙い言葉で、晴也が少しでも前を向けるきっかけになれたのなら...僕はそれが凄く嬉しい。

「晴也。改めて、お誕生日おめでとう」

唇が再び触れ合う直前に、彼の口元でそう呟く。目を細めて愛おしそうに頬を撫でた晴也は「ありがとう」と返してくれた。

初めての誕生日のお祝いは、忘れられない、切なくて愛おしいものになった。

fin.
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感想 11

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みんなの感想(11件)

ライラック
2024.11.18 ライラック

よんど先生
再びのライラックでございます。


さらなる特別編、ありがとうございます…!!
更新通知みて、やったー!ってなってしまいました。

落ち着いて読もう、と今になりましたが…。
いやもう、控えめに言って最高でございました……。


もうね、初めの1ページで泣いてしまいました。
切なくて、全部読んでまたそれぞれの思いとか考えてしまって、それだけで泣けてきて。
本当に大好きです、このお話。
語彙力なくてすみません。


エブリスタでも読み漁って、『ただ、好きなだけ』がお気に入りです♡
青の片隅も楽しみです。


また彼らに会えるなんて、本当に嬉しくて幸せです!
また会えることを再び願いつつ…。


よんど先生の作品、楽しみにしながら応援してます!

2024.11.19 よんど

ライラックさん✨

また来て下さり嬉しいです🥲
ライラックさんの言葉でこっちまで泣いちゃいそうです...!
嬉しい言葉の数々、大変励みになります。
新しい番外編は切ない要素満載ですが、改めて書いて良かったと思えました☺️

J庭では更にバージョンアップしたものを作れるよう頑張ります🍀
改めましてありがとうございました!

解除
iku
2024.11.10 iku

『あの日』です

晴也くん…前から祐樹くんの事を…
あの出来事は不慮の事故かと思っておりましたが?えっ💦祐樹くんが、番解消を望まない事まで、
計算済みだったのですか😱
そして…祐樹くんの返答を聞かれて、思い通りになって、祐樹くんを手に入れられたと、内心とても喜んでおられたのですか?😢
なんだか…レイプ紛いの行動に…😭ヒドいですね😣

本当に😭祐樹くんを幸せにしてあげてくださいね😭

2024.11.12 よんど

ikuさん

ご感想ありがとうございます😭
不慮の事故である事に変わりはないのですが、自分の事に無頓着な祐樹ならと性格が悪い事を考えていたのは否めません🥲

過去の罪を無かった事にし美化するつもりは全くないですが、お互いが納得した形でどんな風に関係を重ねていくのか見守って頂けると嬉しいです。

解除
iku
2024.11.10 iku

『あの日』です

晴也くん…前から祐樹くんの事を…
あの出来事は不慮の事故かと思っておりましたが?えっ💦祐樹くんが、番解消を望まない事まで、
計算済みだったのですか😱
そして…祐樹くんの返答を聞かれて、思い通りになって、祐樹くんを手に入れられたと、内心とても喜んでおられたのですか?😢
なんだか…レイプ紛いの行動に…😭ヒドいですね😣

本当に😭祐樹くんを幸せにしてあげてくださいね😭

解除

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