112 / 112
特別番外編5
7
しおりを挟む
あっさり気付かれてしまった。
彼が触れた箇所から熱が伝っていくみたいに耳が熱い。「髪でうまい感じに隠してた...開けたのは三日前とか最近だよ」と耳横の髪の毛をくるくると弄りながら返す。
「片方のピアスは僕が持ってる。穴が安定する迄はファーストピアス生活だけど...」
彼に何をあげようか、ずっと考えていた。
きっと晴也は何をあげても喜んでくれる。それは分かりきっていた事だった。
「い....一回しか言わないからよく聞いて」
「え」
ガシッと目の前の晴也の両頬を掴む。
こんな恥ずかしい事、絶対に普段の僕だったら言わない。けど──
「ゆ、祐樹....?」
されるがままに頬を掴まれ、戸惑いながらも僕の手に優しく手を添える晴也。僕は軽く深呼吸した後、「晴也」と小さく名前を呼んだ。
「僕は...晴也の事が好きだ。晴也と出会えて毎日が尊くて、一緒に生きられる事が凄く嬉しいと思ってる」
「ゆ、ゆう....」
「そう思える様になったのは、晴也のお陰なんだ。晴也と出会って.....あの日の出来事も、悲しい事も辛かった事も全部引っくるめて今がある。僕はとっくの前にあの日の事を許してるし、忘れて欲しいとずっと思っていた」
ずっと考えていた。どうすれば晴也があの日の事を乗り越えてくれるんだろうって。
でもそれは間違いだった。
晴也のお母さんの話を聞いて改めて思ったんだ。あの日の事を乗り越えて、なんて──それは僕のエゴでしか無かった。
「無理に忘れなくていい。その過去も引き連れたまま、僕の為に僕と一緒にこれからも生きて欲しい。.....このピアスは二つで一つだよ。ずっと僕の存在を感じていて欲しい。僕も君の事を想い続けるから、だから....、...」
上手く、言葉がまとまらない。
声がもつれてそれ以上何も言えなくなり彼の頬から手を離そうとしたその時、グイッと力強く引き寄せられ、唇が塞がれた。まるで時が止まったみたいに、ただ重ねるだけの長い、長いキスだった。
「──、ありがとう、祐樹。俺は本当に君に貰ってばかりだ」
唇が離れてようやく視線が交わると、晴也は今にも泣き出しそうな表情で笑っていた。
「祐樹の言う通り、俺はずっとあの日の事を引きずっている。今回も俺のせいで色々と気遣わせてしまって申し訳ないと思っていた。でも、俺はどうしても自分が幸せになる事に抵抗があった。祐樹に告白して子供もつくっておいて...何言ってるんだって感じだけど」
「晴也」
「祐樹が...忘れなくていいって...僕の為に生きてって言ってくれた今、過去の自分も救われた気がする。自分の贖罪をずっと背負って、君と子供だけの為にこれからを生きる事が出来るんだ」
そう言って小箱と一緒に袋の中に入っていたピアッサーを手に取る晴也。椅子に座り直し、僕を膝の上に乗せて手に持たせると「開けて欲しい」と縋る様な視線で訴えてきた。
「ひ、人のを開けるのは怖いし失敗して膿んだりしたら....」
「我儘言ってごめんね。でも、祐樹に開けて欲しいんだ」
震えそうになる手で、なんとか彼の耳たぶに触れてしっかり消毒した後、中央に針を当ててセットする。
目を閉じる晴也....
緊張しているのだろうか。
一思いにバチンッと貫通させる。痛々しい音が一瞬鳴った後、晴也の片耳には僕と同じ様に穴が開いた。
「人の身体に穴を開ける日が来るなんて....なんだか変な気持ち」
思わずそう返すと、晴也は開けたばかりの耳を押さえながら笑う。
「これで改めて祐樹のものって感じがして嬉しいよ」
ピアスの入った小箱を撫でながら、彼は本当に幸せそうに微笑んだ。
僕の拙い言葉で、晴也が少しでも前を向けるきっかけになれたのなら...僕はそれが凄く嬉しい。
「晴也。改めて、お誕生日おめでとう」
唇が再び触れ合う直前に、彼の口元でそう呟く。目を細めて愛おしそうに頬を撫でた晴也は「ありがとう」と返してくれた。
初めての誕生日のお祝いは、忘れられない、切なくて愛おしいものになった。
fin.
彼が触れた箇所から熱が伝っていくみたいに耳が熱い。「髪でうまい感じに隠してた...開けたのは三日前とか最近だよ」と耳横の髪の毛をくるくると弄りながら返す。
「片方のピアスは僕が持ってる。穴が安定する迄はファーストピアス生活だけど...」
彼に何をあげようか、ずっと考えていた。
きっと晴也は何をあげても喜んでくれる。それは分かりきっていた事だった。
「い....一回しか言わないからよく聞いて」
「え」
ガシッと目の前の晴也の両頬を掴む。
こんな恥ずかしい事、絶対に普段の僕だったら言わない。けど──
「ゆ、祐樹....?」
されるがままに頬を掴まれ、戸惑いながらも僕の手に優しく手を添える晴也。僕は軽く深呼吸した後、「晴也」と小さく名前を呼んだ。
「僕は...晴也の事が好きだ。晴也と出会えて毎日が尊くて、一緒に生きられる事が凄く嬉しいと思ってる」
「ゆ、ゆう....」
「そう思える様になったのは、晴也のお陰なんだ。晴也と出会って.....あの日の出来事も、悲しい事も辛かった事も全部引っくるめて今がある。僕はとっくの前にあの日の事を許してるし、忘れて欲しいとずっと思っていた」
ずっと考えていた。どうすれば晴也があの日の事を乗り越えてくれるんだろうって。
でもそれは間違いだった。
晴也のお母さんの話を聞いて改めて思ったんだ。あの日の事を乗り越えて、なんて──それは僕のエゴでしか無かった。
「無理に忘れなくていい。その過去も引き連れたまま、僕の為に僕と一緒にこれからも生きて欲しい。.....このピアスは二つで一つだよ。ずっと僕の存在を感じていて欲しい。僕も君の事を想い続けるから、だから....、...」
上手く、言葉がまとまらない。
声がもつれてそれ以上何も言えなくなり彼の頬から手を離そうとしたその時、グイッと力強く引き寄せられ、唇が塞がれた。まるで時が止まったみたいに、ただ重ねるだけの長い、長いキスだった。
「──、ありがとう、祐樹。俺は本当に君に貰ってばかりだ」
唇が離れてようやく視線が交わると、晴也は今にも泣き出しそうな表情で笑っていた。
「祐樹の言う通り、俺はずっとあの日の事を引きずっている。今回も俺のせいで色々と気遣わせてしまって申し訳ないと思っていた。でも、俺はどうしても自分が幸せになる事に抵抗があった。祐樹に告白して子供もつくっておいて...何言ってるんだって感じだけど」
「晴也」
「祐樹が...忘れなくていいって...僕の為に生きてって言ってくれた今、過去の自分も救われた気がする。自分の贖罪をずっと背負って、君と子供だけの為にこれからを生きる事が出来るんだ」
そう言って小箱と一緒に袋の中に入っていたピアッサーを手に取る晴也。椅子に座り直し、僕を膝の上に乗せて手に持たせると「開けて欲しい」と縋る様な視線で訴えてきた。
「ひ、人のを開けるのは怖いし失敗して膿んだりしたら....」
「我儘言ってごめんね。でも、祐樹に開けて欲しいんだ」
震えそうになる手で、なんとか彼の耳たぶに触れてしっかり消毒した後、中央に針を当ててセットする。
目を閉じる晴也....
緊張しているのだろうか。
一思いにバチンッと貫通させる。痛々しい音が一瞬鳴った後、晴也の片耳には僕と同じ様に穴が開いた。
「人の身体に穴を開ける日が来るなんて....なんだか変な気持ち」
思わずそう返すと、晴也は開けたばかりの耳を押さえながら笑う。
「これで改めて祐樹のものって感じがして嬉しいよ」
ピアスの入った小箱を撫でながら、彼は本当に幸せそうに微笑んだ。
僕の拙い言葉で、晴也が少しでも前を向けるきっかけになれたのなら...僕はそれが凄く嬉しい。
「晴也。改めて、お誕生日おめでとう」
唇が再び触れ合う直前に、彼の口元でそう呟く。目を細めて愛おしそうに頬を撫でた晴也は「ありがとう」と返してくれた。
初めての誕生日のお祝いは、忘れられない、切なくて愛おしいものになった。
fin.
187
お気に入りに追加
614
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(11件)
あなたにおすすめの小説

別れたいからワガママを10個言うことにした話
のらねことすていぬ
BL
<騎士×町民>
食堂で働いているエークには、アルジオという騎士の恋人がいる。かっこいい彼のことがどうしようもなく好きだけれど、アルジオは自分の前ではいつも仏頂面でつまらなそうだ。
彼のために別れることを決意する。どうせなら嫌われてしまおうと、10個の我儘を思いつくが……。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

からかわれていると思ってたら本気だった?!
雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生
《あらすじ》
ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。
ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。
葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。
弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。
葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました
芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

金色の恋と愛とが降ってくる
鳩かなこ
BL
もう18歳になるオメガなのに、鶯原あゆたはまだ発情期の来ていない。
引き取られた富豪のアルファ家系の梅渓家で
オメガらしくないあゆたは厄介者扱いされている。
二学期の初めのある日、委員長を務める美化委員会に
転校生だというアルファの一年生・八月一日宮が参加してくれることに。
初のアルファの後輩は初日に遅刻。
やっと顔を出した八月一日宮と出会い頭にぶつかって、あゆたは足に怪我をしてしまう。
転校してきた訳アリ? 一年生のアルファ×幸薄い自覚のない未成熟のオメガのマイペース初恋物語。
オメガバースの世界観ですが、オメガへの差別が社会からなくなりつつある現代が舞台です。
途中主人公がちょっと不憫です。
性描写のあるお話にはタイトルに「*」がついてます。

ベータですが、運命の番だと迫られています
モト
BL
ベータの三栗七生は、ひょんなことから弁護士の八乙女梓に“運命の番”認定を受ける。
運命の番だと言われても三栗はベータで、八乙女はアルファ。
執着されまくる話。アルファの運命の番は果たしてベータなのか?
ベータがオメガになることはありません。
“運命の番”は、別名“魂の番”と呼ばれています。独自設定あり
※ムーンライトノベルズでも投稿しております

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜
せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。
しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……?
「お前が産んだ、俺の子供だ」
いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!?
クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに?
一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士
※一応オメガバース設定をお借りしています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
よんど先生
再びのライラックでございます。
さらなる特別編、ありがとうございます…!!
更新通知みて、やったー!ってなってしまいました。
落ち着いて読もう、と今になりましたが…。
いやもう、控えめに言って最高でございました……。
もうね、初めの1ページで泣いてしまいました。
切なくて、全部読んでまたそれぞれの思いとか考えてしまって、それだけで泣けてきて。
本当に大好きです、このお話。
語彙力なくてすみません。
エブリスタでも読み漁って、『ただ、好きなだけ』がお気に入りです♡
青の片隅も楽しみです。
また彼らに会えるなんて、本当に嬉しくて幸せです!
また会えることを再び願いつつ…。
よんど先生の作品、楽しみにしながら応援してます!
ライラックさん✨
また来て下さり嬉しいです🥲
ライラックさんの言葉でこっちまで泣いちゃいそうです...!
嬉しい言葉の数々、大変励みになります。
新しい番外編は切ない要素満載ですが、改めて書いて良かったと思えました☺️
J庭では更にバージョンアップしたものを作れるよう頑張ります🍀
改めましてありがとうございました!
『あの日』です
晴也くん…前から祐樹くんの事を…
あの出来事は不慮の事故かと思っておりましたが?えっ💦祐樹くんが、番解消を望まない事まで、
計算済みだったのですか😱
そして…祐樹くんの返答を聞かれて、思い通りになって、祐樹くんを手に入れられたと、内心とても喜んでおられたのですか?😢
なんだか…レイプ紛いの行動に…😭ヒドいですね😣
本当に😭祐樹くんを幸せにしてあげてくださいね😭
ikuさん
ご感想ありがとうございます😭
不慮の事故である事に変わりはないのですが、自分の事に無頓着な祐樹ならと性格が悪い事を考えていたのは否めません🥲
過去の罪を無かった事にし美化するつもりは全くないですが、お互いが納得した形でどんな風に関係を重ねていくのか見守って頂けると嬉しいです。
『あの日』です
晴也くん…前から祐樹くんの事を…
あの出来事は不慮の事故かと思っておりましたが?えっ💦祐樹くんが、番解消を望まない事まで、
計算済みだったのですか😱
そして…祐樹くんの返答を聞かれて、思い通りになって、祐樹くんを手に入れられたと、内心とても喜んでおられたのですか?😢
なんだか…レイプ紛いの行動に…😭ヒドいですね😣
本当に😭祐樹くんを幸せにしてあげてくださいね😭