さよならの向こう側

よんど

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特別番外編5

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まさか、晴也のご両親と偶然会うなんて。

「あの...全然好きなものを頼んで下さい」
「あ....は、はい」

それより...何だろう、この展開は。

ケーキ屋と併設のカフェにて、向かい合って座る僕と晴也のお母さん。というワードで思わずあんな風に声を掛けていたが、まさか本当に本人だったとは。

会話を広げようにもどうすればいいか分からず黙っていたら、彼女の方から少し話さないかと誘われたのだが──。気まずさを感じながら届いたケーキにフォークをさす。先に口を開いたのは彼女だった。

「こう言うのもだけれど....お元気そうで良かった」
「は、はい。僕は全然──あ、実は最近迄病気に掛かっていたんですけどお陰様で無事治りました」
「お陰様...?」

首を傾げる彼女に「晴也のお陰です」と思わず何も考えずに返してしまっていた。目を大きく見開く彼女の表情の変化にドキッと心臓が反応する。

「あの子と....まだ一緒に居たんですか。番の解消とかは....」
「えっと.....色々あったんですけど、僕と晴也は正式に番になったというか....今は子供も出来て仲良く暮らして──」

カチャッとティーカップの音を立てて明らかに彼女は動揺した。「子供...」と呆然と僕のお腹の辺りを見据えた後、我に返った様に口を開く。

本当に....あれからずっと話していないのだなと思い知らされた。

「親御さん....祐樹さんの親御さんは何か仰っていたのでは...?あんな事をした息子相手になんて──」
「それは....話し合いました。話し合った結果、今は僕の選んだ道を応援してくれています。晴也と...たまにですが家に行く事もあります」

彼女は、なんて言えばいいか分からないとでも言いたげな複雑な表情で僕を眺めていた。酷く疲弊しているのか、近くで見るとやつれている様に見える。横に垂れていた髪の毛をスッと耳に掛けながら「祐樹さん」と真っ直ぐ視線を合わせてくる。

「あの子は貴方に取り返しのつかない事をしました。あの時の貴方の選択には心底驚かされましたが──比べ物にならないくらい、今の貴方にも驚かされています。どうして貴方はあの子を許せるんですか。私は....あの子が許せない。理性を失くしたαなんて気持ちが悪い──」
「お母さん」

思わずそう口を挟むと、彼女は何かが詰まった様に口を閉じた。僕は無言でケーキを口に運んでいく。感情が溢れて少し荒ぶっていた彼女は、無理矢理僕が口を挟んだお陰で落ち着きを取り戻しつつあった。

「......あの頃の僕は何もかもに無頓着で、自分の人生がどうなろうとどうでも良かったんです。晴也との出会いが無かったら、多分、...確実に僕は死ぬ事も受け入れていた」

晴也と出会えたから今の僕がいる。あの日の出来事をどんな理由があろうと美化するつもりはない。でも、僕は晴也に出会えて確かに救われたんだ。

生きていて良かったと思える様になった。
Ωとか関係なく、僕という人間を真っ直ぐ愛してくれる。そんな晴也が側に居てくれたから、僕は今ここに居られる。

「あの日の事はとっくの昔に許してます。もう僕にとっては過去なんです。そんな事より、僕は晴也と一緒に生きたいという思いでいっぱいです。晴也はまだ引きずっているけれど、僕は彼とこれからの話をしたいんです。今、彼と一緒に居るのは紛れもなく自分の意思です。晴也の事が....好き、なんです」
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