さよならの向こう側

よんど

文字の大きさ
上 下
100 / 112
特別番外編4

4

しおりを挟む
エレベーター前で談笑する男女二人。女性が男性に笑い掛けると、話を聞いていた男性は微笑を浮かべていた。女性の手は彼の腕に触れられている。

「はる....や」

自分の声が力無く空に消えていく様に感じられた。晴也は仕事中だ。会社の人なんだから笑う事なんて普通だ。そう言い聞かせている間も、晴也が他の人に笑い掛けている優しい表情が妙に頭にこびりついてしまっていた。

(僕以外にもそんな風に笑えるんだな)

エレベーターの中に晴也だけが入って行き、女性が手を振り見送っている。

直視するのが辛くて呼吸が荒くなっていき、今直ぐにでもその場から立ち去りたくて後退りする。「お客様...?」と心配そうな受付嬢の声が耳から遠のいていく。

「晴也に.....連絡、....」

携帯を取り出して彼の連絡先を開く。今直ぐにでも、迷惑を掛けたとしても晴也の声が聞きたかった。

僕は直ぐにでも安心したかった。晴也が自分の事だけを見てくれているって....





に何かご用ですか」
「──!」

いつから居たのだろう。
ぬるっと背後に現れたのは先程迄晴也と一緒に居た女性だった。

胸元の名札の名前を見て、晴也に手紙を送った本人だと気付き、力が抜けていく。携帯をスッとポケットに仕舞いながら「弁当を...忘れたみたいで届けに」と返すと、彼女はチラリと僕の指に付けられた指輪に目を向け、ニコッと笑顔になった。

「宜しければ私から渡しておきましょうか。晴也さん、今から外回りなので忙しくて...番さん、ですよね?私で良ければ、番さんが届けに来てくれましたって伝えておきます」

なんだか牽制された様な気がする。まるで晴也は自分と一番仲がいいと言われた気がして不快だ。でも.....忙しいのなら、今は仕方ない。

「......じゃあ、代わりに宜しくお願いします」

彼の笑った顔が頭から離れない。
僕はもう考える事をやめて彼女に弁当を渡してしまっていた。

頭を下げた彼女は弁当を手に小走りに立ち去って行く。彼女の軽やかに走っていく姿を黙って見送った後、僕は振り切る様に会社から立ち去っていた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

もし、運命の番になれたのなら。

天井つむぎ
BL
春。守谷 奏斗(‪α‬)に振られ、精神的なショックで声を失った遊佐 水樹(Ω)は一年振りに高校三年生になった。 まだ奏斗に想いを寄せている水樹の前に現れたのは、守谷 彼方という転校生だ。優しい性格と笑顔を絶やさないところ以外は奏斗とそっくりの彼方から「友達になってくれるかな?」とお願いされる水樹。 水樹は奏斗にはされたことのない優しさを彼方からたくさんもらい、初めてで温かい友情関係に戸惑いが隠せない。 そんなある日、水樹の十九の誕生日がやってきて──。

花いちもんめ

月夜野レオン
BL
樹は小さい頃から涼が好きだった。でも涼は、花いちもんめでは真っ先に指名される人気者で、自分は最後まで指名されない不人気者。 ある事件から対人恐怖症になってしまい、遠くから涼をそっと見つめるだけの日々。 大学生になりバイトを始めたカフェで夏樹はアルファの男にしつこく付きまとわれる。 涼がアメリカに婚約者と渡ると聞き、絶望しているところに男が大学にまで押しかけてくる。 「孕めないオメガでいいですか?」に続く、オメガバース第二弾です。

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭

処理中です...