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特別番外編4
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エレベーター前で談笑する男女二人。女性が男性に笑い掛けると、話を聞いていた男性は微笑を浮かべていた。女性の手は彼の腕に触れられている。
「はる....や」
自分の声が力無く空に消えていく様に感じられた。晴也は仕事中だ。会社の人なんだから笑う事なんて普通だ。そう言い聞かせている間も、晴也が他の人に笑い掛けている優しい表情が妙に頭にこびりついてしまっていた。
(僕以外にもそんな風に笑えるんだな)
エレベーターの中に晴也だけが入って行き、女性が手を振り見送っている。
直視するのが辛くて呼吸が荒くなっていき、今直ぐにでもその場から立ち去りたくて後退りする。「お客様...?」と心配そうな受付嬢の声が耳から遠のいていく。
「晴也に.....連絡、....」
携帯を取り出して彼の連絡先を開く。今直ぐにでも、迷惑を掛けたとしても晴也の声が聞きたかった。
僕は直ぐにでも安心したかった。晴也が自分の事だけを見てくれているって....
「晴也さんに何かご用ですか」
「──!」
いつから居たのだろう。
ぬるっと背後に現れたのは先程迄晴也と一緒に居た女性だった。
胸元の名札の名前を見て、晴也に手紙を送った本人だと気付き、力が抜けていく。携帯をスッとポケットに仕舞いながら「弁当を...忘れたみたいで届けに」と返すと、彼女はチラリと僕の指に付けられた指輪に目を向け、ニコッと笑顔になった。
「宜しければ私から渡しておきましょうか。晴也さん、今から外回りなので忙しくて...番さん、ですよね?私で良ければ、番さんが届けに来てくれましたって伝えておきます」
なんだか牽制された様な気がする。まるで晴也は自分と一番仲がいいと言われた気がして不快だ。でも.....忙しいのなら、今は仕方ない。
「......じゃあ、代わりに宜しくお願いします」
彼の笑った顔が頭から離れない。
僕はもう考える事をやめて彼女に弁当を渡してしまっていた。
頭を下げた彼女は弁当を手に小走りに立ち去って行く。彼女の軽やかに走っていく姿を黙って見送った後、僕は振り切る様に会社から立ち去っていた。
「はる....や」
自分の声が力無く空に消えていく様に感じられた。晴也は仕事中だ。会社の人なんだから笑う事なんて普通だ。そう言い聞かせている間も、晴也が他の人に笑い掛けている優しい表情が妙に頭にこびりついてしまっていた。
(僕以外にもそんな風に笑えるんだな)
エレベーターの中に晴也だけが入って行き、女性が手を振り見送っている。
直視するのが辛くて呼吸が荒くなっていき、今直ぐにでもその場から立ち去りたくて後退りする。「お客様...?」と心配そうな受付嬢の声が耳から遠のいていく。
「晴也に.....連絡、....」
携帯を取り出して彼の連絡先を開く。今直ぐにでも、迷惑を掛けたとしても晴也の声が聞きたかった。
僕は直ぐにでも安心したかった。晴也が自分の事だけを見てくれているって....
「晴也さんに何かご用ですか」
「──!」
いつから居たのだろう。
ぬるっと背後に現れたのは先程迄晴也と一緒に居た女性だった。
胸元の名札の名前を見て、晴也に手紙を送った本人だと気付き、力が抜けていく。携帯をスッとポケットに仕舞いながら「弁当を...忘れたみたいで届けに」と返すと、彼女はチラリと僕の指に付けられた指輪に目を向け、ニコッと笑顔になった。
「宜しければ私から渡しておきましょうか。晴也さん、今から外回りなので忙しくて...番さん、ですよね?私で良ければ、番さんが届けに来てくれましたって伝えておきます」
なんだか牽制された様な気がする。まるで晴也は自分と一番仲がいいと言われた気がして不快だ。でも.....忙しいのなら、今は仕方ない。
「......じゃあ、代わりに宜しくお願いします」
彼の笑った顔が頭から離れない。
僕はもう考える事をやめて彼女に弁当を渡してしまっていた。
頭を下げた彼女は弁当を手に小走りに立ち去って行く。彼女の軽やかに走っていく姿を黙って見送った後、僕は振り切る様に会社から立ち去っていた。
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