さよならの向こう側

よんど

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特別番外編

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ある事を思いついて、ブランケットを抱えて立ち上がった自分はそのまま真っ先に寝室へ向かう。クローゼットを開けると半分は僕の、もう半分は晴也の衣類が並んでいる。僕はその中の一つに手を伸ばしクローゼットを閉めた。












ヒートを何とか乗り越え、学校に通える様になった初日の朝。「おはよう」と丁度朝ご飯を作り終えた晴也は、いつも通り無愛想に声を掛けてくる。「おはよう~」と返しながら先に席に着いた僕は手を合わせて食事にありつける。

「祐樹。今日は俺遅くなるから夜ご飯──ん?!」

目の前に座った彼はある事に気が付いて咽せた様な変な声が出てしまう。特に気にせず「何」と平然と返す。サクサクとパンを齧る音がその場に響く。

「いや、その.....祐樹が着ている服、俺のなんだけど」

気まずそうに服に視線を送る晴也。
彼の言う通り、僕が着ていたのは彼の着古した服である。このカーディガンは高校生の時からよく彼が着用していたものだった。

「あぁ、うん。知ってるよ」
「知ってるって...」

ご馳走様、と食べ終えてさっさと立ち上がる僕を彼は戸惑った表情で見送る。靴を履き出掛ける準備を終えた僕はそのままくるりとリビングにいる彼に向かってぶかぶかの袖をクイッと引っ張った片手を上げる。

「行ってきます」

彼の「行ってらっしゃい」を最後迄聞く前に扉は完全に閉まる。扉の前で立ち尽くした僕は持ち上げたばかりの袖をジッと見つめた。

僕より二回り程大きなサイズのカーディガン。彼の匂いが染みついたこの服はまるで晴也に抱きつかれているみたいだ。

(そんなの、された事ないけどね)

今回のヒート中も僕に手を出さなかった奴だ。これからもそんな事をされる予定も無いけれど、自分はつい、そんな想像をふとしてしまった。



結局、勝手にパクったカーディガンは暫く愛用していた。晴也はそんな僕を特に咎める事なんて出来ず、カーディガンを着用する僕を見る度に困った様な、どこか緩んだ表情を見せていた。


fin.
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