バケモノの供物

よんど

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本編

一ノ巻-4

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「お前、妙だな」
「…?」
「私を見ても怖がる素振りを見せない。何故そんな従順な態度を見せるのだ。今迄の供物達は皆泣き叫び、許しを請うの繰り返しだったのに」

愚問である。
それは貴方様が怖いから以外、何もないだろう。

人間離れした美しさを振り撒いているのにも関わらず、その花には毒を持った鋭い棘がある。綺麗なモノ程触れると怖いと聞く。今迄の彼等は死ぬ覚悟が出来ていないから恐怖を感じていたのだろう。でも僕は違う。

「貴方様に喰われる為に産まれてきたので恐怖なんて感情はいりません。私の存在意義は全て貴方様にあるのです」
「──そうか」

スッと椅子から立ち上がった彼は、コツン、コツン、と靴の音を響かせながら近付いて来る。いよいよかと歯を食い縛り目を閉じたが、目の前迄来た彼は僕を見つめ、手を掲げたかと思いきや人差し指をピッと僕に指して言う。

「残念ながら私に供物等必要ない。お前は此処で生き、死ぬ迄私に仕えろ」

…………今なんて?

いつもは感情が乏しいと言われる自分ですら分かり易いくらいに驚いていたと思う。

暫しの沈黙の後「面を上げよ」という言葉と共に、龍神様は僕の顎を掴み、グイッと無理矢理上に向けた。透き通った青い瞳で僕を値踏みする様に見つめながら「よく聞け」と続ける。

「もう一度言うが私に供物等必要ない。何故ならお前は不味そうだからだ。本当は追い出したいが、喰われる運命だったお前に帰る場所など無いだろう。だから此処で生き、死ぬ迄私に仕えろと言っている」
「.......情けを掛けたつもりですか。契約を反故になんて、いくら神様だからって先祖代々続いていた儀式を無しにするなんて、そんな事許されない筈です」

命乞いでもさせてくれると言うのだろうか。だとしても僕を生かす意味なんて無いのにどうしてこんな事を──

(それに今、僕の事を不味いって…)

金色の瞳に花模様の有る人間は一番喜ばれると言われていたのに…と考え込んでいると「おい、聞いているのか」と顔を覗き込まれる。
途端にスーッと冷たい冷気が身を包み「うっ」と身体を震わせる。龍神様はハッと顔色を変えて「....すまない」と冷気を一瞬で封じ込み謝ってきた。

「感情が昂ると時々冷気を出してしまう。悪気はなかった。....すまない」
「.....」

スッと彼の頬に手を伸ばし、触れてみる。ピタッと動きを止めた彼の瞳を改めて見据えながら「あぁ」と一人で腑に落ちる。水の神様。だからなんだ。
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