番外 異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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ブラック×ツカサ

現パロ:ホームレスとDK 5

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「そういやお前、あの公園で会ったホームレスの事はどうしたんだ?」

 下校途中、人通りの少ない住宅街で尾井川おいかわにそう言われて、俺は思わずギクリと肩を揺らしてしまった。まさか、覚えられていると思わなかったからだ。
 だが、ここで態度に出してはいけないとぐっとこらえ、明るくアハハと笑った。

「い、いやぁ、いつの間にか居なくなっちゃっててさぁー……メシ食われぞんだよ!」
「……ふーん?」
「…………あ、あは……」

 尾井川の目が「本当かなぁ」なんて言いたげに細められている。
 ヤバい、尾井川は俺よりずっと頭が良いんだった。昔っからそうなんだが、何故か尾井川に掛かると俺の嘘は看破されてしまう。俺は隠しているつもりなのに、なにが悪いのか、尾井川は俺の隠し事を的確に見抜いてしまうのだ。

 しかし、今回ばかりは嘘を突き通さねばならない。
 何故なら俺はこれからブラックに会いに行くんだから。

「…………ま、なんでも良いけどよ。何かあるなら俺ぐらいには相談しろよな。お前はガキの頃からアホのくせして何でも溜め込んで無理すんだから」
「おいそれ俺のことけなしてない!?」
「自分でそう思うくらいなら、そう思わないで済むようになれ」
「ぐううううう」

 ぐうの音しか出ない。ぐう。
 確かにブラックの事は、俺一人でやんなきゃっては思ってるけど……でもそれは俺が内緒で始めた事なんだから、他の人に迷惑をかける訳にはいかないからだ。
 ……まあでも……迷惑かけるレベルになるまで黙ってるってのもアレだよな。

 でも、その「相手に負担が掛からないところでバラす」ってのが一番難しいんだよ、ホント。人間、それが出来てたら最初から隠し事なんて作らないワケだし。
 実際、尾井川には今、ジャストナウで心配かけちまってるしな。

 でもなあ、俺が決めた事なんだから、俺が一人でやり遂げたいって気持ちも有るんだよ。俺だってもう十七歳だし、高校生だし、バイトも出来るんだ。大人なんだぜ?
 「一人でやる」と決めたことを、後から取り決めを緩めてヘコヘコ腰砕けで他人に頼るなんて、男らしくない。俺はそういうのヤなんだよ。
 一人前の日本男児としてのプライドってもんが、俺にもあるんだ!

 だからまあ、その……。

「…………大事になる前に相談する」

 精一杯考えて、頭から煙が出そうになりつつそう言うと、尾井川は笑ってくれた。

「ま、お前にしちゃあ上出来だな。意地張ってんなよ、俺より弱いくせに」
「なんだとー!! おっ、俺だってなあ、格ゲーなら……」
「ハンデないと勝てない奴がなんだって?」
「ぐうううう」

 コイツいつもこう言うこと言う!
 小学校の頃からの付き合いとは言え、ホントこう言うところは我慢ならん。
 俺はバタバタと駆け足で尾井川を追い抜くと、分かれ道で手を振った。じゃあなと言うと当たり前のように「じゃあな」と帰って来るのが、憎らしくも有りおかしい。
 まあ、友達だからこういうのが当たり前なんだろうけども。

 そんな事を思いながら、俺は帰り道……とは違う方向へ足を向ける。
 閑静な住宅街の一角に、ひっそりと“目的の場所”は在った。
 真新しい家が並ぶ道の先の奥まった場所にある、古く長い石段。山にひっつくようにして存在するその階段を登れば、頂上には古めかしい石の鳥居がそびえている。

 もう、ほとんど誰も来ていないような、不思議な場所。
 住宅街にあるのに誰も参拝しに来ないのか、神社はいつも人気が無い。小さなやしろに続く石畳は亀きれつが入ってたり劣化してボコボコになっているし、一対だけの石灯籠いしどうろうは少しこけが生えていて、長い間火がともされた様子はなさそうだった。

 鳥居から続く石畳の先にある小さなやしろも、三方を鬱蒼とした森に囲まれているからか、それとも経年劣化のせいでかボロボロになっていて、なんだかちょっと怖い。
 でも、一応綺麗にされているみたいなのが不思議だ。

 そんな神社の、少し奥の方。社の真後ろから森の中に入った所に、更にボロボロになった小さな小屋がある。元は掃除用具とかお祭りの為の備品を入れるような倉庫だったみたいなんだけど、今は放置されているようだった。
 俺は、そこに用事があるのだ。

 少し踏み鳴らされた草が生い茂る獣道をざくざく進み、最低限草が刈ってある小屋の前にやっと辿り着く。……ここを“使わせて貰う”前に掃除をしたんだけど、やっぱここだけ綺麗って違和感あるよな……。誰も来ない場所で良かった。

 そんな事を思いつつ、俺はちかけた引き戸をガタガタと動かした。

「ブラックー。あけてー」

 すると、内部からつっかえ棒を外す音がして戸が開く。

「ツカサ君っ、おかえり」

 嬉しそうに言いながら出て来るのは、薄汚れた赤色の髪で目を隠した、無精髭ぶしょうひげが気になる大柄なオッサンだ。ううむ、相変わらずむさくるしい。
 初対面の時のようにモッサリと赤髭を蓄えることは無くなったけど、しかし無精髭とメカクレは相変わらずなので、やっぱりムサい。もう初夏だし、そろそろキチンと髪を整えてやらないとな……ってなんかイヌ飼ってるみたいな発言だなコレ。

「えへ、ツカサ君、学校楽しかった?」

 口とほおだけを見ても判るほどにニコニコしながら、ブラックは俺の腕を引いて小屋の中へ引っ張る。これだけ見たら危ないオッサンだが、ブラックに他意は無い。
 どこからどう見ても俺の父さんと近い年齢の小汚いオッサンなんだけども、行動は不思議と子供染みてて邪気が無いから、なんか従っちゃうんだよな……。

 いや、俺だって、こう言う事されたら普通はキモいと思いますよ。
 でも外国の人ってスキンシップ多いし、大人になっても結構無邪気な人が多い的なイメージだから、なんか振り払えなくてなあ……。

 だもんで、俺は毎回ブラックとこういう付き合いをしちまってるワケで……。
 ううむ、やっぱハタから見たら気持ち悪いかな。やめさせるべきなんだろうか。
 でも、ブラックの方は、久しぶりに人と気兼ねなく付き合えて喜んでいるだけかも知れないんだし……そう考えると、やっぱりヤメロとは言えなくてなぁ……。

「ツカサ君、ねっ、ツカサ君」
「お、おう待て待て」

 小屋の中に敷いてある粗末なレジャーシートの上に座らされ、ブラックが俺の横にぴったり貼り付いて来る。いつもの奴だ。
 屋根付き一戸建てを手に入れたからか、この小屋に住まいを移ってからブラックは凄く俺に密着して来るようになってしまった。まあ、ここ数日の間だし、久しぶりに屋根の在る場所で寝起き出来て、ブラックもテンションが上がっているんだろう。

 だがしかし……数日だし、そろそろ汚れが気になる。
 この場所に慣れたら、今度は一人で出歩けるようにリハビリさせてやんなきゃな。ブラックは「人が怖い」と言ってたから、そこを治して仕事探してやんないと。
 でもまずは外出だ。
 社会復帰の第一歩は、地道な所から始めなければな。

「ツカサ君?」
「ああ、うん。えっと……今日はな」

 話をせがむブラックのがっしりした肩に、俺の貧相な腕をぐいぐい押されて、俺はしばらく学校での出来事や他愛無い世間話を披露してやった。
 ブラックはその話を相変わらずニコニコして聞いているけど、長くなった前髪で目が隠れているのでどんな目をしているのかは解らない。
 うーむ……やっぱこの髪切らないとだよな……。でも、汚れたまんまで髪を切るってのもなあ……なんて考えて、俺は妙案を思いついた。いや、普通の事だけど。

「なあブラック、良かったら……風呂入りにいかないか?」
「えっ?」

 会話の途中で問いかけると、ブラックはキョトンとしたように口をすぼめる。
 子供っぽいなあと思いつつ、俺は続けた。

「いやホラ、最近ここにこもってばっかで、水場とか行ってないだろ? タオルで体をくのも限界があると思うし……だから、これからは定期的に風呂行かね?」
「え……で、でも……」

 外に連れ出そうとすると、急にブラックはモジモジし出す。
 まあ、人が怖いって言ってたし、外に出辛でづらいって気持ちも解らんではないんだけども……しかし、ここのままでは、いつまで経っても社会復帰なんぞ出来ないからな。こう言う所から一歩を踏み出させなければ。

「俺も一緒に入るからさ」
「え?」
「いや、俺の家の近くのさびれた商店街にさ、すっごい古い銭湯があるんだ。そこならきっと人も少ないだろうし、アンタも安心できるかなって」

 そう、こう言うのはまず保護者同伴が肝心なのだ。
 子供だって一人で放り出したら危ないワケだし、臆病おくびょうな子なら尚更なおさら誰かがついててあげないといけない。だから、最初は俺もなるべく同伴しようと思ったのだ。
 それが意外だったのか、ブラックは口をあんぐりと開けて俺を見ているようだったが――すぐに口をだらしない笑みに歪めると、俺に抱き着いて来た。

「うわぁっ、つ、ツカサ君も一緒、いっしょにお、おっ、お風呂入るの!?」
「う……うん。とりあえず、アンタが安心できるようになるまでは同行しようかと……っておい離れろ、流石さすがに夏場はそういうのやめろ!」
「やったー! えへっ、えへへ、つ、ツカサ君大好きぃ」

 何を喜んでいるのか知らんが……まあ、いいか。とにかく喜んで外出するのなら、それにした事は無い。こうして外を歩くのに慣れて行くのが大事なんだからな。

 ブラックの喜びように何故か妙なゾワゾワ感を覚えたが、俺は早速話を切り上げて小屋を後にすると、帰り道に家の近所に在るひなびた商店街へと足を向けた。
 ……何故事前にやって来たのかというと、それは銭湯の人に了解を取るためだ。

 普通の客なら別にそんなを事しなくても良かったんだろうけど、ブラックはホームレスだし、そもそもめっちゃ汚い。普通の人よりは絶対ヤバい。
 そのうえ髪が長くて汚れてて、排水溝がつまるレベルかもしれないってのに、そんな奴を本番直前で受け入れてくれつってオッケーされる訳がないだろう。

 いくらお爺ちゃんお婆ちゃんが主要客の商店街と言えど、こういうのは失礼だ。
 というわけで、銭湯に事前確認をしに来たのだが……商店街のはずれにある銭湯のお婆ちゃんは、俺の申し出にこころよく了承してくれた。

 事情が事情なので……と言うのもあるのだろうが、一番は俺がボランティアをしているのに感動したのだそうで……そうか、ボランティアか……そう見えるよな。
 なんかお婆ちゃんをだましているようで心苦しかったが、まあブラックを手助けしているってのには違いないので、そこは意訳して貰ったと言う事にしておいて……俺はその日の内に両親に「銭湯に行きたい」と話して了承を貰うと、次の日早速「空いている時間帯」である夜の中頃に間に合うように家を出て、神社に向かった。

「夜だとさすがに少しすずしいなぁ」

 もう五日もしない内に夏休みになるが、夜はやっぱりちょっと涼しい。
 そう言えば一人で夜に出歩いた事なんて無かったなと今更思うが、その“初めて”が「汚れたオッサンと銭湯に行くため」なんてちょっとダサいかも知れない。

 なんか……なんかこう……もうちょっとドラマチックっていうか……まあいいか。
 色々と思う所は有ったがスルーして、俺は夜中の古い石段に苦心しつつ登り、神社の奥にあるボロ小屋へと辿たどいた。ヤブ蚊がうざい。刺されたチクショウ。

「ツカサ君っ」

 小屋の戸を叩くと、相変わらずブラックが犬みたいにはしゃぎながら開けて来る。
 なつかれるのは嬉しいし、可愛いかも……と思わんでもないけども、相手がオッサンなのでその思いも中々複雑なものがある。

 これがホームレス美少女だったら、甘酸っぱい展開になってラブラブになって、色々えっちな事とか起こっちゃったりしてエロ漫画的なやらしいエヘヘな事になってたんだろうになぁ……。

「どしたのツカサ君」
「いや、なんでもない……。ちゃんと着替え用意したか?」
「うんっ、ツカサ君が持って来てくれた風呂敷で包んだよ」
「じゃあ行くか。ちょうど人もいない時間帯だし」

 そう言いながら小屋を出ようとすると……ブラックが、俺のシャツのすそを引く。
 どうしたのかと振り返った俺に、ブラックはおずおずと言った様子で口をすぼめた。

「んん……えっと……その、ね、ツカサ君」
「なに?」
「……その……僕、まだ、人の多そうな所に行くの怖いから……手、つないで……?」

 そう言いながら出してくるのは、薄汚れて皮膚の厚さが目に付く大きな手だ。
 一瞬「大の男が何を言っているんだ」と口に出しそうになってしまったが、しかし相手は“人が怖い”オッサンなんだし……こういうのも、仕方ないのかな。
 あの公園からこの場所に移動した時だって、夜闇にまぎれてビクビクしつつゆっくり歩いて来たんだし……。

「仕方ねえなあ。明るい所に来たら離すんだぞ?」

 そう言いながら手を伸ばすと、ブラックはパアッと顔を輝かせて俺の手をにぎった。
 ホントにもう……なんつうか、オッサンらしさのないオッサンだよなあ。

「えへ、ツカサ君……えへ、えへへ」
「エヘヘじゃねぇーよ! ほれっ、行くぞ!」

 大きな図体ずたいを引っ張り上げて、俺達は街灯と家の明かりが照らすだけの薄暗い道を出来るだけ急がずに歩き始めたのだった。












※次はちょっとだけやらしい。やっとだ(  ・ω・)♪
 
  
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