番外 異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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サブメイン攻め×ツカサ

アドニス×ツカサ(甘々な話)

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リクエスト品、甘々なアドニス×ツカサです(`・ω・´)

きちくめがねって一時期ブームになったような気もするんですが
良いですよね…フフ…

めいっぱい甘くしたつもりなのですが、なってなかったら申し訳ない…!

※このアドニスは【イスタ火山】編以降のアドニスです。
 なので、そこまで読んでないと少し会話に違和感があるかも知れません。

――――――――――――

 
 
 ちょうどアドニスの“世界最高の薬師”としての用事と、俺達の用事がかち合って、宿を一緒に取る事になった。

 普段は冒険者として路銀を節約すべく、良心的なお値段の宿に泊まっている俺達なのだが、アドニスが誘ってくれたと鳴ると話は別だ。
 こちらとしては断わる理由も無いので、いきり立つオッサン二人を抑えてありがたく高級宿でご一緒させて貰う事にした。ふふふ、これで路銀がだいぶ浮いたぜ。
 その代わりにアドニスの実験に付き合う事になってしまったが、まあそれくらい安いもんだろう。こんな高級な宿で変な事はすまい。
 ……と言う訳で、俺はアドニスに用意されている特別室……いうなればスイートルーム的な場所に招かれて、茶を啜っている訳だが。

「支度が有るので少し待っててください」
「うん……」

 にしても、本当毎回凄いなコイツの宿。
 国とか領主とかが手配してくれてるみたいだから、毎回確実にスイートルーム的な部屋なんだよな……はぁ、人の金で旅が出来るなんて羨ましい。
 まあ俺もアドニスの御威光のお蔭で美味しい思いをしているんだが、それにしても羨ましい御身分だった。一度は俺もこんな贅沢をしてみたい。というか、俺が女の子をスイートルームにご招待して「わぁ……!」と言われたい。

 いや、アドニスは薬師として実績があるし、こうなるのも納得なんだけどね。うん。

 しかし、なんでアドニスとかラスターだと奢られても「まあ別にいいか」と思ってしまうんだろうか。あれかな、美形とかイケメンだからかな。

 まあ金持ちでイケメンで有能と来たら、ちょっとぐらいは俺みたいな可哀想な陰キャに還元してくれたってバチは当たるまい。むしろよりイケメンを輝かせてくれる善行になるだろうこと請け合いなので、どんどんやって欲しいと思う。
 あっ、だから罪悪感が無いんだろうか。
 いや待てよ、そうなると俺の方がむしろ性格が悪いような気が……。

「お待たせしました。では始めましょうか」
「うえっ!? あ、う、うん」

 アドニスがなにか鉢植えのような物を持って来る。
 そこには、青々とした茎に五つほどの大きめの花が咲いた植物が元気に植わっていた。桃色の花の花芯付近には、黄色いキウイの断面のような色が滲んでいる。
 なんか……キキョウとかスイセンみたいでちょっと可愛いかも。

「これが試して欲しい実験物?」

 顔を上げると、アドニスは小さく頷く。
 相変わらず男美人って感じの綺麗な顔だ。顔は細面で鼻筋も通っているし、金色の瞳を囲うようにかかっているノンフレームの大きめな眼鏡も似合っててムカツク。
 長い髪はぼさつくこともなく不思議と後ろに流れているし……なにより、その漆黒に近い緑色の環を作る髪色は、いつもながら不思議で綺麗だ。

 クロウの髪色もかなり珍しいけど、アドニスのは何か髪がサラサラしてるから、余計男美人って感じで癪なんだよなあ。女には見えないのに、なんでコイツイケメンって言うよりも「美形」て感じなんだろう。ぐう……どう矯正すればそうなるんだ。
 でもこのタイプって女の子が近寄り辛そうだし、目指さない方が良いかなぁ。

「なんです人の顔をじろじろ見て」
「あ、い、いや、何でもないぞ! えーっと……それで、これをどうすんの?」

 そう言うと、アドニスはいつも頭の横に付けている、装飾品のようにもみえる逆三角形のバイザー(ゴルフをやる人がよく付けてるサンバイザーみたいな物)のレールを伸ばし、前方にカチリと固定した。

「う、うおお……」

 いつもながら、一つ目の紋章みたいな装飾がされたバイザーは怖い。
 しかもこの装飾の白丸みたいな目玉は、バイザーが真正面に来ると覆われた目の代わりに動くからかなり不気味で怖いのだ。なんで模様が動くのか。
 でも、これを付けないとアドニスは研究が捗らないらしい。

 あれかな……裏では色々と植物の情報が見えるようになってるのかな?
 だとしたらかなりハイテクなバイザーだ。

「ええと……ああ、この花がちょうど使えそうですね」

 ぎょろりと眼の模様の中の白丸を動かし、アドニスは一つ花を摘む。
 何をするのかと思ったら、それを俺に差し出してきた。

「な、なに?」
「これを頭……そうですね、どちらかの耳の少し上くらいに差して下さい」
「え゛っ」
「実験、付き合ってくれるんでしょう?」

 たしかに、良い宿に招いてくれたお礼に付き合うとは言ったけど……。
 うーん、だったら差した方が……いやいや、これ花だぞ。花と言えば女の子のマストアイテムだぞ。俺みたいなオタク野郎が装備したってキモいだけでは……。
 ううむ……ううう……。

「…………いや、でもこれ、男の俺が差すのは……」
「あなたの世界では異質な事なのかも知れませんが、こちらの世界ではむしろ君のような子が花を差さないのは不思議な事なんですがねえ……。まあ、差したくないと言うのであれば、ロサードから依頼を受けていた新しい搾精植物の試験を」
「わ、わかりました差しますぅ!」

 こんな場所でそんないかがわしい実験はヤダ、絶対に嫌だー!!

 即座に返答した俺に、バイザーを横に直しながらアドニスはニッコリと微笑んだ。
 キイッ、この鬼畜眼鏡め!
 ああもう解ったよ、花を差せばいいんだろ。俺が笑われればいいんだろ!

 どうせ笑われたってアドニス一人だし、それならいつもの事だ。コイツが俺を変な罠に掛けてクスクス笑うのなんて何度も有った事なんだからな。
 もう慣れっこだから全然か、構わないんだからな俺は!

「ではどうぞ」
「くっ……わ……笑うなよ……」
「なんで頼んでるのに笑うんですか。ああ、そう言えばキミは人に馬鹿にされるのが趣味でしたねえ。そうですか、うんうん。じゃあ遠慮なく……」
「だーっもーっ! ほら差したっ、差したぞコラァア!」
「おや、せっかく遊べると思ったのにもったいない」

 なーにが勿体ないだこんちくしょう!!

 この野郎、事あるごとに人の言葉尻を取って弄びやがって。
 そう言うところが俺にとってムカツク所なんだ……と、続けようと思ったのだが……いざ花を付けると、アドニスは真剣な顔をして俺と花を見比べて手を伸ばしてきた。

「あっ……」
「動かないで。……少し曲がってますね」

 …………な、なにそれ。なんで真面目に花の位置確認しちゃってんの。
 な、な、なんかこれ、俺がやる事じゃ無くない?
 完全にヒロインとか女の子がやる奴で、お、男の俺がこういうのって、普通は笑う所になるんじゃ……ああでもこの世界じゃ俺はメスに分類されてるワケで……う、うう、何にせよこんなのダチには絶対に見せられない……!

 ああもう、アドニスって何でこんな良い匂いすんの!?
 ちょっと頼むから近付いて来ないで欲しいんですけど、髪長いから顔とか胸が見えなかったら一瞬お姉さんと勘違いしちゃうからやめてほしいんですけど!
 くっ、この……植物とか扱ってるから良い匂いするのかな。この世界にいる普通の女の子でもこんなに良い匂いはしないのに……っ。

「よし。そのまま動かないで下さいね」

 そう言って、アドニスは俺から離れる。
 花の香りみたいな匂いも遠ざかって、何故か俺はそれが少し残念に思えた。
 …………い、いや、アドニスだからじゃないぞ。あんな良い匂いなんて滅多に嗅げないから、つい「もうちょっと嗅ぎたかったなぁ~」なんて思っただけで……。

「さて。ツカサ君……驚かないで黙っていて下さいね」
「ん、んん?」

 動かないでと言われたので、口だけで返事をする。
 と、アドニスは少し離れて俺の前に跪き……騎士が何かを誓うように、己の胸に手を当てて金色の瞳で俺を真っ直ぐに見て来た。

 その、あまりにも堂に入った姿に思わず言葉を失う。
 だが……アドニスは微笑みながら、続けた。

「我が愛しの姫君……貴方の為に私は夜露を凌ぐ術を学び、貴方が陽を求めるなら天を突く力を手に入れましょう。それを貴方が許して下さるのなら……私はこの命の全てを捧げて、貴方を守ります」
「っ…………?!」

 な、なに、言って。
 これ実験だよね、なんかこの花と関係あるんだよね!?
 な……なのに、なんでこんな真剣に見つめて来るみたいに……。

「貴方が愛しい。出来る事なら、全ての時を貴方と共に生きたい。けれども私は国にこの体を捧げた身……それは国が滅びぬ限り叶わぬ事です。ですが……貴方が私を受け入れてくれるのなら…………その花を、我が心の王の王冠としましょう」
「あ……ぇ……」

 えっと、これ、あの……な、なに、言って……。
 あっ、だ、ダメ近付いて来ないで、嫌だお前なんでそんな整った顔してんだよ、ナニ近付けてんの!? ばっ、ばかっ、ダメだって、近付かないでってば!
 ああでも動いちゃ駄目って言われてるし、こ、こんな至近距離で、キスするみたいな距離で顔を近付けて来られたら~~~~~っ……!

「受け取って下さい。我が愛する姫君」

 思わず目を瞑ってしまったと、同時。
 耳元で木々の葉が風に騒ぐような微かな音がして――――頭に差した花が、何か動くような感覚がした。

「っ……?!」
「目を開けて大丈夫ですよ、ツカサ君」

 そう言われてそっと目を開けると……少しだけ離れた所に、アドニスの顔が在る。
 まだ近いから、思わず顔が熱くなってしまうけど……でも、俺達の間には……桃色の小さな花弁が何枚も散っていて……。

「え……」

 まるで、桜の花が散っているみたいだ。綺麗だけど……これって、何なんだろう。
 首を傾げてふとアドニスの眼鏡を見やると、その眼鏡に反射して、桃色の花から蔓のような物が伸び、小さな花がバランスよく咲いているのが見えた。
 まるで王冠みたいだ。いやでも、この細くて華やかな感じはどっちかっていうと……

「気が付きましたか。それ、ティアラですよ。花のティアラです」
「てぃっ……」

 ティアラってお姫様が付けるもんじゃ……っ、あっ、あああそうだっ、アドニスの野郎最初から「姫君」とか言ってたじゃないか!
 そ、そっか、これが実験物だったのか。あれっ、じゃああの文言ってもしかしてこのティアラを発動させるためで、別に告白とかそんなんじゃ……。

「とある方から頼まれましてね。ある合言葉で、花がティアラに変化する植物を作ってくれとか何とか……。そういう洒落た物を作るのは初めてだったので、少し戸惑ってしまいましたが、何とか完成したようで良かった」
「…………そ……そう、ですか……」

 なんか……か、勝手にどきどきしてバカみたい……。
 いや、まあ、コイツの性格からしてそうだよな。別に個人的に何かが有って言った事じゃ無いんだよな。だ、だから……別に、ドキドキしなくたって良かったんだ。
 俺ってマジで流されやすくてヤバいかも……。

「……似合ってますね、やっぱり」
「え?」

 何がよ、と顔を上げると、アドニスは何故かいつもと違う優しい笑顔で微笑んで、俺の頬に手で触れた。……顔とは違う、男らしい手。細くて綺麗で、指だって長いけど、ちゃんと節くれだっている男の手だ。

 その事をちゃんと感じると、なんだかまた急にドキドキしてきて、勝手に喉が鳴る。
 だけどアドニスはそれを笑わずに、俺の頬を親指で優しく撫でた。

「…………正直、愛しい人に何かを贈ると言うのが想像付きませんでね。だから、君の事を思って、この花のティアラを作ったんです。おかげで少し女性には粗雑な物になってしまったかもしれませんが……君に似合えば、それで良い」
「なっ……ぁ……」
「好きですよ、ツカサ君」

 何も、声が出ない。
 ただ目の前で嬉しそうに微笑むアドニスを見て、顔が熱くなるだけで。
 今言われた事を反芻するので精一杯すぎて、顔が近付いて来ても俺は拒否する事も受け入れる事も考えられなかった。

 ああ、こ、このままじゃキスしちゃう。良いのか、良いのかなキスって。
 でもキスなんてこの世界じゃ挨拶みたいな物だし、だ、だったら、でもアドニスは俺の事を好きって言ってたし、だったらこれってその、す、好きって気持ちを受け入れるキスになっちゃうわけで、そ、そ、そんなのって……!

「…………まったく、簡単に騙されてくれて面白いですねえ、君は」
「は、はへ!?」

 硬直していた俺に、アドニスは間近でそんな事を言って……デコピンしてきた。
 いっ、いだいっ。何これ、騙されてくれてって……アッ、もしかして今の「好き」とか言って迫って来たのは全部ウソだったのか!?

 なっ、なっ、お、お前っ、お前さてはまた俺をからかう為にぃいい!!

「おやおや、更に顔が真っ赤になって……可愛いですねえ」
「うっ、うるせえええ! ばかっ、アドニスの馬鹿眼鏡!!」
「君にバカよばわりされるなんて……天地がひっくり返ったんですかねえ」
「うううううう……!」

 だって、お、俺を弄んでこんな事して……!
 こんなの酷い男がやるヤツだ、ブラックだってこんなことしないぞ!?
 お前っ、い、いくら鬼畜眼鏡だってやって良い事と悪い事があるんだからな!!

「ああ、涙ぐまなくても良いじゃないですか。まったく面白い子ですねえ」
「うぐうううう煩いぃい」
「何か勘違いしてるようですが、別に全部嘘とかではないですよ」

 …………。
 ……え?

「私が君を愛しているのは本当ですから。……だからといって、顔を近付けただけで赤面するなんて……本当に君はからかいやすいですねえ」

 こんな風に簡単に騙されたら、そりゃあむさ苦しいあの中年どもも楽しいでしょう。
 そう言われて、にっこりと微笑まれて。

 …………じゃ、じゃあ、その……俺を思ってこの冠作ったのも、本当って……こと、で……アドニスが俺を好きなのも……ほ……ほんと…………

「~~~~~~っ!!」
「ツカサ君?」
「うっ、おっ、おれっもお帰るっ! 何か用事有ったらあとで呼びに来て!!」
「ツカサ君、ちょっと」

 呼び止められるが、もう顔を見ていられない。慌てて部屋を出て走った。
 またアドニスの顔を見たら、今度こそ胸がドキドキしすぎて死んじゃいそうで、この部屋で二人っきりで居る事なんてもう出来なかったんだ。

 ああもうっ、だからイケメンとか美形って嫌いなんだよ!

 なんでこう恥ずかしげもなく恥ずかしい事言ったりやったりするんだよお!!

「ううううう……っ! も、もう暫く部屋に帰れないじゃないかばかぁ……!!」

 美形になんてやっぱり感謝しない、今度からもう奢り倒されてやる!!

 誰も居ない中庭で必死に自分の顔を冷やしながら、俺は固く誓ったのだった。












おわり
 
 
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