異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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迷宮都市ヘカテクライオ、秘めたる記憶と誘う手編

  こんな僕を選んだのは君だろう2

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 ……色々非常にこまる事態になってしまったが、とりあえず俺はブラックから腰布をもぎ取って股間を隠すことに成功した。

 とはいえ、左側にはバッグを取り付けるので、下半身全部が隠れたわけではない。左の足は丸出しだ。……けど、股間とケツが隠れただけでもマシだろう。
 問題は、歩く時にちょっと違和感があることだけど……な、慣れたら問題ないはずだよな。水着だって最初はちょっと気になるけど、授業を受けてれば次第しだいに問題なくなってくるワケだし……!

 なので、下半身辺りに一抹いちまつの不安をかかえつつも、俺達は再度出発した。

 ……にしても、俺がこの少年探偵団みたいな服装で、ブラックがいつものガチガチな冒険者服ってのも、なんかミスマッチだなぁ……。

「アンタはその服装のまんまでいいの?」

 なんだか穿いていないくらいの感覚になる尻に違和感を覚えながらも背後に問うと、俺をすっぽり包んで藍鉄あいてつを歩かせているブラックは「えへへ」と笑う。

「ツカサ君がして欲しいって言うんなら、僕も着替えても良いけどなぁ~。ふふっ、ツカサ君は、僕がカッチリした服装してるのも大好きだもんねえ」
「ばっ……!! んなこと一言も言ってないだろ!?」
「またまたそんな~。ツカサ君が白シャツ姿の僕を見ていっつもキュンキュンしてたの、僕知ってるんだからね? まあ……ツカサ君はぁ、どんな姿をした僕でも大好きみたいだけどっ!」

 だからお前は何を言ってるんだ!
 っていうか語尾にハートマークを散らすな、既成事実のように言うなあ!!

 くっ、くそっ……ブラックが変なこと言うからカッカしてきちまったじゃねーか。王都に入る前からこんな不審者みたいになってどうすんだよ。
 なんでコイツは毎回こんなことばっかり……。

「ったくもう、ふざけまくりやがって……」
「ふざけてないよぉ。僕がツカサ君の可愛い姿やいやらしい恰好かっこうに勃起しちゃうのと同じでしょ? だから、ツカサ君が僕を意識してくれるの凄く嬉しい……」
「ぐ……」

 こ、こんにゃろ、返答にこまる事言いやがって……。
 正直ドキッとしたのは事実だし……ブラックのことは、くやしいけど格好いいなとは思ってるから……そりゃ、白いワイシャツとスラックス姿だとか、普段とは違う服装でキメて来られたら、誰だって意識はしちゃうでしょうよ。

 す……好きじゃなかったら……こんな風に、タンデムしてないし……。

 …………ぐうう、でもそう素直に認めたら余計につつかれるに決まってるんだ!
 完全に俺をからかう気マンマンの時にうなずけるかってんだよ!

 なのに、ブラックは何故か上機嫌のままで俺の顔を覗き込んでくる。

「えへ……ツカサ君好き……。じゃあさ、今日は普通の服装でデートしよっか!」
「べ……べつに、そんなことしなくても……」
「僕がしたいの! この服装のツカサ君とお似合いの服も着てみたいしっ」

 台詞だけ聞けば主人公をしたう美少女キャラだが、実際に俺に語りかけているのは無精髭ぶしょうひげの大柄なオッサンだ。大人のセリフとは思えない。
 が、そんな台詞で変に照れている俺も大概だ。ブラックは腐っても美形だし、別にこんな風な台詞を言ってもおかしくないんだろうけど……それでこんな風になる俺の方が、何かひたすらキモい気がする……ぐうう……。

 俺だってこの世界では成人しているんだから、もうちょっとオトナの男として余裕とか持った方が良いんじゃないのか。
 でも余裕ってどうやったら持てるんだろう……ブラックと話すだけでアタフタするのに、ここから冷静沈着でクールな男になれるのかな。

 この背後のヤケに顔がいいオッサンが居る限り、難しいように思うんだが……。

「あっ。ツカサ君ほら見て、王都が見えてきたよ~」
「ヒヒィン!」
「んえっ!? え……あ……おお……!」

 ブラックと藍鉄あいてつの声に顔を上げると、一本道の広い街道の先にはすでにとんでもない大きさの城壁が見えている。
 確か、以前にも遠くから眺めた事があったけど……今見てもやっぱりすごいな。

 王都からはだいぶ離れた場所なのに、その規模は両手を広げてもおさまりきらない。
 前に馬車から見たシミラルの大通りは他の街とは段違いで凄かったけど、こうしてみるとその大きさに見合ったきらびやかな街だったことがわかる。

 なんせこの王都は、領地を持たない高位の貴族達も住んでいる街なのだ。
 貴族や王族が暮らしている都市となれば、そりゃあでっかくもなろうよってもんだが……本当に他の街とは規模が違う。
 オーデル皇国こうこくの首都・ノーヴェポーチカもかなりデカくて凄かったけど……改めてこの光景を見ると、ライクネスも良い勝負なんだよなぁ……。

 さすが、世界最古の国の王都と言われるだけある。
 確か王都に入る門も、準飛竜ザッハーク姿のロクが楽々入れちゃうデカさだったっけ。

 馬車ではゆっくり観察も出来なかったけど……今からガッツリ見られるのか。
 そう考えるとちょっと興奮してきたぞ。

 にわかにワクワクし始める俺に、ブラックがくぎを刺してきた。

「ツカサ君いーい? 帽子は絶対に脱いじゃだめだよ」
「おう、分かってるって!」

 まかせときなさいよ。こちとら何度も街の検閲を通ってるんですよ。
 冒険者に発行される身分証のメダルも持ってるし、受け答えもばっちりだって。

 そう豪語しつつ自信満々でブラックを振り返るが、相手は先程のデレデレな表情をどこへやったのか「大丈夫かなぁ」みたいな嫌な顔をしやがる。
 こ、この野郎……。

「一応騎獣も登録しておかないといけないから、門に並ぶ列が近付いてきたら藍鉄あいてつ君から一度降りようね。藍鉄君と変にイチャイチャしたらダメだよ」
「わかってるって! 目立つような事はしないから大丈夫!」

 俺だってわかってますよ。ったくもう、コロコロ態度を変えるんだから……。
 そりゃあ藍鉄あいてつは凛々しく可愛い愛馬ちゃんだけど、状況を考えずにもだえたりなんてしないってば。そんな事してたら変態だと思われるじゃん。

「ホントかなぁ……大丈夫かなぁ……」
「だーもー心配いらないってば! ほらほら近付いてきたぞ!」

 降りようと声をかけて、藍鉄あいてつに停まってもらう。
 すでに周囲には同じ方向へ向かう馬車や旅人の姿が有って、彼らはチラチラとこちらを気にしているみたいだった。多分、藍鉄あいてつが珍しいんだろうな。

 だって、この世界の交通手段はヒポカムというモフモフ毛むくじゃらのカバみたいな馬が主で、そのヒポカムは歩みがかなりゆっくりなのだ。
 穏やかで狂おしいほど可愛いが、ヒポカムちゃんは駿馬しゅんめとはがたい。

 なのでディオメデのようなほぼ馬っぽいモンスターは珍しく、最近やっと争馬種そうばしゅを【守護獣】にして騎獣の訓練をする手段が確立された所……って話なので、こうして藍鉄あいてつに熱い視線がそそがれているのである。

 まあ、俺の藍鉄あいてつまれに見るイイ馬だってのも注目の一つだろうがな!

「さっ、一緒に行こうな藍鉄あいてつ~」
「ブルルルッ」
「言ったそばからイチャイチャしてる……」

 なんで仲良く話しただけでイチャイチャなんだよ。
 まったくもってオッサンの思考回路は分からんと思いつつ、他の旅人達と同じ方向に歩いて行くと――――次第に風景は巨大な城壁しか見えなくなり、道の真正面に「終点です」と言わんばかりに巨大な門が現れた。
 もう道の先はこのデカい門しか見えない。

 本当に、シミラルは巨大だ。
 近付いたら全貌なんて見えなくなってしまうし、左右どちらを見ても背の高い城壁が続いていて、途切れるのは数キロ先っぽい。
 門の巨大さを考えると納得と言える広大さだけど、あまりこのような大都市に来た事がない俺としては、どうしても気後きおくれしてしまう。

 この大きな門って、そういう威圧の意味もあるんだろうか。

 そんな事を考えつつ、俺達は他の旅人達にならって一般人用の列に並んだ。
 早く手続したいのはやまやまなのだが、ここで【庇護ひごの腕輪】を使うのも悪目立ちするし、注目される度合いも高くなっちまうからな……。

 いやまあ、藍鉄あいてつが居る時点でちょいちょいチラ見されてはいるんですけどね。
 でもそれは羨望せんぼうの目だろうし、そういうのは良いのだ。

「それにしても……ひっきりなしに人が出たり入ったりしてるなぁ」

 順番を待ちながら、次々に王都へ入っていく馬車と、出ていく馬車を見やる。
 彼らは商人専用の通行手形をもっているから、あれだけスムーズに出入りできるのだろう。しかし、それにしたって入る馬車も出ていく馬車もキリがなかった。

 うーむ、さすが王都って感じだな。
 順番待ちはつらいけど、どんな馬車が通るのかをボーッと見ているだけでも、わりと良いひまつぶしになるな。

 これなら小一時間待たされても良さそうだ、なんて思いながら、ブラック達と他愛ない話をしつつ待っていると……ついに俺達の順番が回ってきた。

 並んで一時間半も経っていないんだが、ずいぶんと早いな。
 王都の警備兵は、首都に配備されてるだけあって検問の手際の良さもエリートって事なんだろうか。まあ早くしてくれるぶんにはありがたい。

 俺達も、大門の脇にある検閲用の小部屋があるドアに入る。
 わりと大きな部屋にはいくつかの仕切りがあり、その仕切りの中には検閲する兵士と旅の人達が立っている。複数人を一度にまとめて検問するから、プライバシー保護のための仕切りを作っているってことだろうか。

 こんなけっぴろげな世界でプライバシー保護なんて珍しいなぁと思いつつ、誘導を受けて俺達も仕切りの中の一つに入る。と……そこには、鉄仮面の……じゃなくて、フルフェイスのかぶとを着用している兵士が立っていた。

 理由は色々ありそうだが、一番の理由は俺達に表情を見せないためだろうな。
 まあ兵士達の安全も考慮してるんだろうけど。

 やっぱり中々にセキュリティが高めだと思いつつ兵士の前に来ると、相手は何かの紙をはさんだ記入板の裏を俺達に見せつつ、さっそく問いかけて来た。

「では早速聞かせて貰うが、君達は何の用事でシミラルに?」

 青年っぽい若々しい兵士の声に、ブラックが答える。

「出来れば日帰りでの観光と……あと、用事がありまして」
「用事? それはどんなものですか」
護国庁ごこくちょうに、緊急にお知らせしたいことがあります」

 そう言いながら、ブラックは冒険者のメダルを出し、俺にも出すようにうながす。
 素直に相手に渡すと、兵士はそれを確かめてから――――ブラックのメダルを見てギョッとしたように甲冑をガシャンと鳴らすと、あわててメダルを返してきた。

「な、なるほど、高位の曜術師の方で……! それで、その内容は……」
「あ……これです」

 俺が紙袋にまとめて入れておいたモノを渡すと、相手は先にギルマスの書類を確認してから、びんの中のモノを見て――――思わず「うわっ!」と叫んだ。
 危うく落としそうになり、俺は思わず手を差し出したが、何とか兵士は落とさずにびんを持ち直し、謝りながら俺に返してくれた。

「な、なるほど……了解いたしました。これは、確実に護国庁ごこくちょうにおられる総兵士長か、もしくは騎士団長であらせられる【勇者】様にご報告すべきものです。文官の派遣については、さらに上の管轄での話になりますので……ひとまず、護国庁へご同行頂ければと思います」
「はい、心得ています。それで、こちらはそのまま持って行っても?」

 冷静な口調で問うブラックに、兵士は一瞬うなずこうとしたが――――いやいやと頭を振って、またもやあわてながら訂正した。

「ああ、いえっ! その、あまりに不可解なモノですので……申し訳ありませんが、我らの馬車で同行して頂くと言うことで……」

 また王都をちゃんと見る事が出来ないのか……と思ったが、今は仕方ない。
 今は危険物を持っているんだから相手が警戒するのも当然だし、市民の平和をおびやかさないためにも細心の注意を払う必要があるのだ。

 だったら、今はワガママを言ってる場合じゃないよな。
 王都をデ……いや、散歩はいつでも出来るし、終わってから済ませば良いだけの話だ。そもそもシミラルに来たのは一刻を争う事件を知らせるためなんだから、俺達が遊ぶのは全て終わってからの方が良いだろう。

 ブラックもそれで不満は無いみたいだし、断る理由なんてないな。

「よろしくお願いします」

 軽く頭を下げると、相手の兵士も俺につられて腰を折る。
 そうして姿勢を戻すなり、またあわてて奥の扉の向こうに行ってしまった。

 相当テンパッてるみたいだけど、大丈夫だろうか……。
 そんならぬ心配をしていると、ブラックが横からぴたりと体をくっ付けて来た。

 どうしたのかと見上げると、手をえて俺に耳打ちをしてくる。

「全部終わったら、イチャイチャデートしようね」
「ばっ……お、お前なあ!」

 真面目かと思ったら、また別の事を考えてやがったのか。
 急にぶっこんでくるなと耳を抑えて距離を取るが、ブラックは嬉しそうなニヤケ顔をしながら俺を見つめ続けている。

「王都にはツカサ君が好きな物がい~っぱいあるから、楽しもうね!」
「…………」

 だからもう、こんな状況でなんでそっちの事ばっかり考えるかなあ。
 俺にあんなに注意をうながしておいて、こんなこと言うんだから……。

 …………でも、ブラックに「楽しもうね」と言われると、そのデートをちょっと楽しみにしてしまう自分がいる。
 そんな場合じゃないってのに、ブラックのニヤケ顔につられちまうんだ。

 冷静沈着でクールな大人なら、そうはならないんだろうけどなぁ……。

 でも、そうなれたとしても、ブラックは喜んでくれるんだろうか。
 そう思って、俺は――自分が何を考えているのかに気付き、一気に顔が熱くなってしまい咄嗟とっさにそっぽを向いてしまった。

「どしたのツカサ君」
「なんでもない!」

 う、うう、俺もどうかしてるぞ。
 ああもうブラックが「そんな僕を好きになったのは君でしょ」なんて言うから、何だか変に意識しちまってるじゃないか。

 冷静、冷静沈着だ。クールに行くんだ俺。
 まずは用事を済ませてから……い、いや、済ませてデートしたいとかそういうワケじゃないんだからな!?

「ツカサ君耳真っ赤……」
「真っ赤じゃないいい」

 チクショウ、なんでこう俺は格好つかないんだよ。
 こんなんだからブラックにおちょくられるってのにいいいい。












 
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